それくらい衝撃的なライブだったのだ!
まず結論から言ってしまうと、スタジオコーストという会場があんなに小さく見えた公演は久しぶりだったし、それを彼がたった一人で成し遂げていると思うと、それはそれは心が震えた。
七時ちょうどに客電が落ち、彼が一人でステージ中央に歩いてきた。
真ん中にマイクが二本。
私のところからは見えなかったけれど、足元にはループペダル。
そして彼が持つと一層小さく見える、ショートスケールのアコースティックギター。
先にネタ明かしをしてしまうとステージは終始、彼一人だった。
「スッキリ」に出演した時のようなバンドは無し。
後々、彼がたった一人でギターとループペダルで生み出すグルーヴに圧倒された時に「スッキリでもこの様子を見せた方が、お茶の間やスタジオのMC陣をアッと言わせることが出来るし、面白かっただろうに…」と思ったが、そこは生放送。時間の制約もあるし、そうもいかなかったのだろう。
客層について触れておくと、年代の幅広さもさることながら、かなりインターナショナル。
あちこちから英語の声援が聞こえたし、スマホで撮影する観客の多さ(日本のお客さんはこれをする人があまり多くない)、そして一曲目のAメロから盛大なシンガロングが響いたことからそれが伺えた。
そしてこれは憶測だが、特に外国人のお客さんに関してはヒットチャートに敏感な人達が集まった印象。
恐らくテイラー・スウィフトとの共演が、彼の知名度を押し広げたのだろう。
盛り上がり方や観賞の仕方からそう感じた。
彼にアイドル的な人気があるというのは、2012年のフジロックでは見えてこなかった部分だ。
彼にアイドル的な人気があるというのは、2012年のフジロックでは見えてこなかった部分だ。
新作から、エドくんのラッパーモードを早くもここで。
しっとり聞かせるというよりは、引きつけて引き込んでいくという作り方の前半戦。
その後1stから”Drunk”で会場のシンガロングを誘う。
巧みなループペダル使いにも目を奪われる。もう、いちいちお見事!なのだ。
会場の熱がどんどん高くなっている中、女性のお客さんからは叫びに近い声が上がる。
正直に話すと、ここまでの前半は盛り上がっていることと並んでフロアがザワついていた。
彼へのアイドル的な視線から生まれる熱狂や携帯のモニターの明かりに溢れ、あまり集中して観られる環境ではなかった。
4年間付き合った元恋人に宛てた、2ndアルバムのオープニングトラック”One”を演奏しようと彼がギターを弾き出し会場がやっと静かになった時、目立ちたがり屋の一筋の歓声が響き、彼がフフフと笑って演奏を中断する一幕があった。
さすがの彼も、これはちゃんと聴いてほしいと思ったんだろう。
一拍置いてから息を吐き、また静かに演奏を始めた。
"One"は、彼にとってそれだけ大切な曲なのだろう。
しっかり伝わって欲しい、という思いをその一拍から感じた。
その辺りからお客さんも「聴くモード」に。
続く"Take it back"でエドはループを駆使し曲を紡いでいく。
ビートはアコギを叩き、刻む。まるでバスドラみたいな音がする。そこにギターのリズムも重ねる。
すると彼はギターを手放し、マイクに持ち替え、完璧なフロウを披露する。
機械を使って音を重ねてはいるが、そこまで一人の人力なのだ。
まさに今そこで作っている音楽家、その一挙手一投足を息をのみ見守る観客と、彼の作る出すグルーブが良い感じに一体化していく。
このあたりからやっと、健康的に音楽を楽しめる会場の雰囲気になってきたような・・
"Tenerife Sea"で魅せた彼の美しいコーラスワーク(これもループを使って重ねていくんだけど)は今思い出してもゾクゾクする。
声と、ギターと、ループペダル。
その少ない材料を無駄なく有効に使って、細胞の一つ一つが目を覚ますくらいのインパクトを与えるのだからただ一言、凄い。
凄いんだけど奇をてらった凄みじゃなくて、彼の声のバリエーションとかリズム感とか、そういう人的なものの凄みが大きかった。
そこに機械があってそれを使ってて・・なんてことは途中から忘れるくらい、何をしても生身だった。
ソウルフルに歌い上げる曲で「シンガー、エド・シーラン」に胸を打たれたのも、そう感じた要因かもしれない。
映画「ホビット 竜に奪われた王国」のエンディングにもなった"I see fire"でも彼のボーカルにうっとり。
何度も言うけど、たった一つの声、たった一音をショーアップさせていく。改めて凄い才能!
本編最後の"Give me love"では、これでもか!と音を重ねていき、地響きのような震えを腹に感じた。
それがフッと止んで彼の声だけが残った時、暗闇の中に救いの光を見つけたような、そんなドラマチックな気持ちにさえなった。
アンコールはほとんど時間を置かずに再登場。
そうだ、彼は若いんだったわ!と、忘れかけていた彼の23歳という年齢を思い出す。
あれだけ絶え間なく歌い続けて、インターバルを必要としないなんてすごい体力。
まだ彼の名刺代わりである"The A Team"は披露されていないが、そんなことも気にならないくらいすっかり魅せられていた。
1stアルバムの"You need me,I don't need you"がアンコールの一曲目。
ギターを重ねていく中に、愛しのレイラのリフを挟んだり(一人で喜んでいた私です)合間にiPhoneでお客さんの写真をステージから撮ったり(撮ってる間もペダル操作は続いてました・・なんということ!息をするようにペダルを操り、同時にカメラも操るなんて・・!)そんなお茶目なところを覗かせるから、こちらもニンマリしてしまった。
続く"Gold lush"は音源と同じようにシンプルに弾き歌っていたが、歌詞の中に「Don't worry,Be happy」とコーラスを差し込んだり、彼もリラックスし楽しんでいるご様子。
そして、いよいよ"The A Team"の最初のギターが鳴った時のお客さんの反応の早さ。
待ってました!と言わんばかり、いや多分言ってた人もたくさんいただろう。
私も、アルバムで何度聴いたか分からないこの曲。
聴く度に、ある冬のある瞬間に連れて行かれるこの曲。
ほぼフルコーラス、会場に今日一番の大合唱が響く。
私のエド・シーランの印象といえば、2012年のフジロックまではこの"The A Teamの人”だった。
だからもちろん、この曲を待っていた。
だけど、この瞬間にはもう彼がアップデートされていて"The A Teamの人"では無くなっていた。
この短時間で、私の中のエド・シーランが脱皮していた。
そんなフラットな状態で聴くこの曲もまた、格別だった。
名刺としての音楽ではなく、スーッと心に沁み込んできた。本当に名曲だと改めて思った。
ライブ全体の印象から、むしろ今作のモードの方が彼らしいくらいだと考え始めた時、ファレル・ウィリアムスと共作したシングル"Sing"、これがアンコールのラストだ。
「スッキリ」の時は、音源そのままで披露されたが、彼一人なのでやっぱり音を積み上げていくスタイル。音数は少ないがそれでも十分エッジーでかっこいい。
コーラスで入る「Sing!」はお客さんが歌う。
あっという間にアンコールが終わっていく。
「オオオオオーオーオーオー オオオオオ!」というコーラスの部分をお客さんが歌い、どんどんその声が大きくなっていく。
・・・おや?お客さんにコーラスを投げたまま、エドくんが手を振ってステージからいなくなったぞ?
戸惑いながらも歌い続けるお客さん達。
彼は戻ってこない。
客電もついてフロアが明るくなる。
どうやら終わりのようだ。
投げっぱなしで終わるなんて!とビックリしたが、これは前回のUnitの単独公演でもあったことらしい。
ショーの最後は、観客の声をループさせる仕掛けをセットして帰るなんて実に彼らしくて、会場は微笑ましく明るい雰囲気になった。
もう何度目かの来日だか、しっかり観たのは私はこれが初めてだった。
それまで何度か耳にしていた「凄いものを観てしまった!!」感は想像以上。
安定した演奏からは若さを意識させないが、やっていることはテクノロジーと共に育ってきた新世代、ヒップホップが当たり前に聴かれるようになった後の世代なのだと強く意識させられた。
お世辞ではなく、もっと大人になっても彼なりのやり方でサヴァイブしていける人だと思ったし、次回作がどんなものになるのかもう楽しみになってしまった。
猫好きの彼。
取材やライブがお休みの日に、猫カフェを満喫する動画がインスタグラムに上がっていた。
さらに日本を気に入ってくれたのかな?
また日本に来てね、エドくん!!
Ed Sheeranの2ndアルバム「マルティプライ」現在リリース中です。
是非。