BATIC突然の試験終了
今回は日本で唯一の英文会計検定資格とも言っていいBATICがなぜ突然消滅したのかということを解説していきたいと思います。今日は若干微妙な領域にまで踏み込んでいきます。
まず、BATICを主宰していた東京商工会議所のWebサイトには、2023年3月22日付で以下のような文章が掲載されております。
平素は、当所業務にご理解、ご協力を賜り、厚くお礼申し上げます。
当所主催で実施しております標記検定試験につきまして、諸般の事情により、2022年度の第44回試験をもちまして終了いたしました。
これまで賜わりましたご愛顧に対し、謹んでお礼申し上げます。
この唐突な試験終了のお知らせに驚いている方も大勢いらっしゃると思います。しかも最終試験回だった2022年度第44回試験というのは、2022年11月28日が実施日でした。上記の正式な終了のお知らせはそれから事後的に、4か月程経過してからの発表です。
このようにBATICの試験は、非常に唐突且つ不自然な形で突然試験が終了しています。また、試験終了の経緯が示されていないこともその不可解さを物語る大きな要因となっています。更に、東京商工会議所は、BATIC実施を取りやめた理由を「諸般の事情」と述べており、全体から伝わる簡素な文章と相まってどこか奇妙な違和感をそこに感じます。
普通に考えると、理由を公表しないということは、理由を公表しない(できない)理由があるということになります。
では、公表しない(できない)理由があるとすればそれは一体何なのでしょうか。これについては後程ご説明します。
まず、その前に、BATICという資格はどんな資格だったのでしょうか。
日本の国際会計検定試験であるBATIC(バティック)について、以下にまとめました。
BATIC(国際会計検定)とは
【BATICの概要】
- グローバルなビジネスシーンで必要とされる、英語力と国際会計スキルを同時に測るための検定試験です。
- 東京商工会議所が主催しています。
- 試験は英語で行われ、合否判定ではなく、400点満点のスコア制でレベルが認定されます。
- 国際財務報告基準(IFRS)に基づいた知識が問われます。
【BATICの特徴】
- 国際会計の知識と英語力を同時に証明できる点が特徴です。
- グローバル企業や外資系企業への就職・転職、キャリアアップに役立つとされています。
- 近年、日本でもIFRSを採用する企業が増加傾向にあり、BATICの重要性は高まっています。
【試験内容】
- 試験は、英文簿記と国際会計理論の2科目で構成されています。
- 出題形式は、多肢選択式問題と記述式問題です。
- CBT方式(テストセンターでの受験)またはIBT方式(自宅でのオンライン受験)で実施されます。
【BATICのメリット】
- 国際会計の知識と英語力を同時に証明できる
- グローバル企業や外資系企業への就職・転職で有利になる
- キャリアアップやスキルアップに繋がる
- 国際会計基準に対応した知識を習得できる
【その他】
- 試験の難易度は、日商簿記2級程度の会計知識と、TOEIC500点程度の英語力が必要とされています。
- 2022年度の第44回試験をもって終了しました。
上記の通り、BATICは、近年、日本でもIFRS(国際財務報告基準)を採用する企業が増加傾向にあり、その重要性は高まってきており、最早これには疑念の余地が全くありません。しかし実は、BATICがIFRSを出題の範囲としたのは、2015年から。それ以前は、米国会計基準であるUSGAAP(US Generally Accepted Accounting Principle、一般に公正妥当とされる米国会計基準)を出題範囲としていたという経緯があります。
ここに違和感を覚えるのは私だけでしょうか。少なくとも、年2回の試験で44回まで続いたとすれば、20年近くこのBATICという試験は運営されていた筈です。しかし、英文会計や国際会計理論等で近年益々重要になった筈のIFRSに切り替わってから7年も経たないうちに突然試験制度が廃止されています。
おそらくこの試験制度の突然の廃止の背景には、どこかとの政策的な相違があった、あるいはどこかからの要請があった結果だと推測します。それは、単刀直入に申し上げると米国からの要請です。
米国と日本の東京商工会議所の実施する検定試験と一体何の関係があるのか。
そう思われる方もいると思います。
それは東京商工会議所及び、商工会議所自体の歴史的起源や設立趣旨を紐解いていけば、朧気ながら薄っすらとその輪郭が見えてくるのです。
その接点には、ある一人の重要な人物が居ます。
その人物とは、現在1万円札の肖像画になっている近代資本主義の父渋沢栄一氏です。
(関連の話題はネットにはゴロゴロしていますので、ここでの詳述は差し控えます)
話を元に戻すと、BATICが出題していたIFRSでは、既に米国財務会計基準審議会(FASB)と国際会計基準審議会(IASB)との間で、2002年にノーウォーク合意に至っており、米国の承認なしに(容易には)IFRSの会計基準を変更することはできなくなっていますし、米国公認会計士協会(AICPA)は英国勅許管理会計士協会(CIMA)との統合により国際公認職業会計士協会(先述同名のAICPA)を設立するなどの布陣を敷いております。
そうは言っても、若干の重要な差異は未だに残っていますし、それぞれが扱っている会計用語にも違いがみられます。米国の会計専門家から様々な意見や懸念の声も聞かれるのも事実です。米国株式市場では、IFRS基準の財務諸表は未だ認められず、USGAAPでの財務諸表の提出が義務付けられています。
例を幾つか挙げると、IFRS15号は日本にも導入された新収益認識基準(5つの収益認識ステップ)ですが、USGAAPでは、ASC605からASC606にUpdateされています。それ以前の605では収益認識の基準はEarned(稼得した)、Realized(実現した)時点を収益認識の起点としていました。
また、IFRS第9号の金融商品の分類評価方法はこんな風に呼ばれます:
①FVTPL ☛Fair Value Through Profit and Loss
②FVOCI ☛Fair Value (Through) Other Comprehensive Income
細則主義の米国基準からすると、AFS Security(Available For Sale Security、売買可能有価証券)を期末の時価と原価との差額をOCI(Other Comprehensive Income)に計上するというシンプルな話だったのですが、原則主義のIFRSでは、上記①と②の投資の性質の判断から、その分類定義が広がることもあり得るため逆に企業間比較の可能性を失わせることにも成りかねないのではないかという懸念が生じます。また先のIFRS第9号に基づき、予想信用損失モデルがASU2016‐13(Current Expected Credit Loss、現在予想信用損失)としてUSGAAPにUpdateされています。尚、先のAFSはIFRSでは廃止されています。
これに加え、財務諸表の呼び名にも相違がみられます。
【損益計算書】
US)Income Statement (I/S), Profit and Loss Statement (P/L)
IF) Statement of Profit or Loss and Other Comprehensive Income「純損益及びその他の包括利益計算書」
Source:KPMG Guide to Annual Financial Statements-Illustrative Disclosures, P18
【貸借対照表】
US)Balance Sheet (B/S)
IF) Statement of Financial Position「財政状態計算書」
Source:KPMG Guide to Annual Financial Statements-Illustrative Disclosures, P16
更に、B/S(貸借対照表)の表示科目に関する流動性配列法は、日米基準では一般的ですが、IFRSでは、非流動性資産(固定資産等)を最初に掲記することが一般的です。
日本の現時点の動向
一方、日本では、IFRS形式での開示許容と、JGAAPへの一部取り込みが見られるのと同時に、2025年4月1日より、東証プライム市場での英文財務諸表の開示義務化が開始し、より一層国際的な英文会計知識が問われる時代になりました。また金融庁界隈では、英文の有価証券報告書(2025年4月の段階では英文有価証券報告書の提出義務なし)の提出期限を株主総会前に提出することを海外の機関投資家から要請され、その検討段階に入っています。因みに、有価証券報告書に相当する米国のForm10Kは、株主総会前の提出が原則になっています。つまり、有価証券報告書を株主総会前に提出することになれば、有価証券報告書も英文で提出する必要性が生じるということです。逆もまた真なり。
資料:金融庁‗第1回 有価証券報告書の定時株主総会前の開示P5
このような流れの中で、BATIC資格試験が時代を逆行するかの如く廃止されたのは、上述の通り米国の政策的意向に沿わなかった、ガバナンスの観点からは、PrincipalとAgentに於けるFudiciary Dutiesとの関連性があったからではないかと推測します。
そして、これらの変革が生み出す複数の事象が、最終的に英文財務諸表の開示義務化より遥かにインパクトのある変革をこれからこの日本を巻き込んで引き起こされる気がしてならないのは私だけでしょうか。
本日は、「【IFRS】なぜBATIC(国際会計検定)資格試験は突然消滅したのか」と題して、個人的な私見を述べさせていただきました。
(本ブログで述べられている見解は個人的な考えに基づくものであり、特定の国、団体や組織を代表するものではございません)
-ご紹介-
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