BATIC突然の試験終了

 

今回は日本で唯一の英文会計検定資格とも言っていいBATICがなぜ突然消滅したのかということを解説していきたいと思います。今日は若干微妙な領域にまで踏み込んでいきます。

 

まず、BATICを主宰していた東京商工会議所のWebサイトには、2023年3月22日付で以下のような文章が掲載されております。

 

平素は、当所業務にご理解、ご協力を賜り、厚くお礼申し上げます。
当所主催で実施しております標記検定試験につきまして、諸般の事情により、2022年度の第44回試験をもちまして終了いたしました。
これまで賜わりましたご愛顧に対し、謹んでお礼申し上げます。

 

 

この唐突な試験終了のお知らせに驚いている方も大勢いらっしゃると思います。しかも最終試験回だった2022年度第44回試験というのは、2022年11月28日が実施日でした。上記の正式な終了のお知らせはそれから事後的に、4か月程経過してからの発表です。

 

このようにBATICの試験は、非常に唐突且つ不自然な形で突然試験が終了しています。また、試験終了の経緯が示されていないこともその不可解さを物語る大きな要因となっています。更に、東京商工会議所は、BATIC実施を取りやめた理由を「諸般の事情」と述べており、全体から伝わる簡素な文章と相まってどこか奇妙な違和感をそこに感じます。

 

普通に考えると、理由を公表しないということは、理由を公表しない(できない)理由があるということになります。

 

では、公表しない(できない)理由があるとすればそれは一体何なのでしょうか。これについては後程ご説明します。

 

まず、その前に、BATICという資格はどんな資格だったのでしょうか。

日本の国際会計検定試験であるBATIC(バティック)について、以下にまとめました。

 

 

  BATIC(国際会計検定)とは

 

 【BATICの概要】

  1. グローバルなビジネスシーンで必要とされる、英語力と国際会計スキルを同時に測るための検定試験です。
  2. 東京商工会議所が主催しています。
  3. 試験は英語で行われ、合否判定ではなく、400点満点のスコア制でレベルが認定されます。
  4. 国際財務報告基準(IFRS)に基づいた知識が問われます。

 【BATICの特徴】

  1. 国際会計の知識と英語力を同時に証明できる点が特徴です。
  2. グローバル企業や外資系企業への就職・転職、キャリアアップに役立つとされています。
  3. 近年、日本でもIFRSを採用する企業が増加傾向にあり、BATICの重要性は高まっています。

 【試験内容】

  1. 試験は、英文簿記と国際会計理論の2科目で構成されています。
  2. 出題形式は、多肢選択式問題と記述式問題です。
  3. CBT方式(テストセンターでの受験)またはIBT方式(自宅でのオンライン受験)で実施されます。

 【BATICのメリット】

  1. 国際会計の知識と英語力を同時に証明できる
  2. グローバル企業や外資系企業への就職・転職で有利になる
  3. キャリアアップやスキルアップに繋がる
  4. 国際会計基準に対応した知識を習得できる

 【その他】

  1. 試験の難易度は、日商簿記2級程度の会計知識と、TOEIC500点程度の英語力が必要とされています。
  2. 2022年度の第44回試験をもって終了しました。

 


上記の通り、BATICは、近年、日本でもIFRS(国際財務報告基準)を採用する企業が増加傾向にあり、その重要性は高まってきており、最早これには疑念の余地が全くありません。しかし実は、BATICがIFRSを出題の範囲としたのは、2015年から。それ以前は、米国会計基準であるUSGAAP(US Generally Accepted Accounting Principle、一般に公正妥当とされる米国会計基準)を出題範囲としていたという経緯があります。

ここに違和感を覚えるのは私だけでしょうか。少なくとも、年2回の試験で44回まで続いたとすれば、20年近くこのBATICという試験は運営されていた筈です。しかし、英文会計や国際会計理論等で近年益々重要になった筈のIFRSに切り替わってから7年も経たないうちに突然試験制度が廃止されています。

おそらくこの試験制度の突然の廃止の背景には、どこかとの政策的な相違があった、あるいはどこかからの要請があった結果だと推測します。それは、単刀直入に申し上げると米国からの要請です。

米国と日本の東京商工会議所の実施する検定試験と一体何の関係があるのか。

そう思われる方もいると思います。

それは東京商工会議所及び、商工会議所自体の歴史的起源や設立趣旨を紐解いていけば、朧気ながら薄っすらとその輪郭が見えてくるのです。

その接点には、ある一人の重要な人物が居ます。

その人物とは、現在1万円札の肖像画になっている近代資本主義の父渋沢栄一氏です。
(関連の話題はネットにはゴロゴロしていますので、ここでの詳述は差し控えます)

話を元に戻すと、BATICが出題していたIFRSでは、既に米国財務会計基準審議会(FASB)と国際会計基準審議会(IASB)との間で、2002年にノーウォーク合意に至っており、米国の承認なしに(容易には)IFRSの会計基準を変更することはできなくなっていますし、米国公認会計士協会(AICPA)は英国勅許管理会計士協会(CIMA)との統合により国際公認職業会計士協会(先述同名のAICPA)を設立するなどの布陣を敷いております。

 

そうは言っても、若干の重要な差異は未だに残っていますし、それぞれが扱っている会計用語にも違いがみられます。米国の会計専門家から様々な意見や懸念の声も聞かれるのも事実です。米国株式市場では、IFRS基準の財務諸表は未だ認められず、USGAAPでの財務諸表の提出が義務付けられています。

 

例を幾つか挙げると、IFRS15号は日本にも導入された新収益認識基準(5つの収益認識ステップ)ですが、USGAAPでは、ASC605からASC606にUpdateされています。それ以前の605では収益認識の基準はEarned(稼得した)、Realized(実現した)時点を収益認識の起点としていました。

 

また、IFRS第9号の金融商品の分類評価方法はこんな風に呼ばれます:

①FVTPL  ☛Fair Value Through Profit and Loss 

②FVOCI  ☛Fair Value (Through) Other Comprehensive Income

細則主義の米国基準からすると、AFS Security(Available For Sale Security、売買可能有価証券)を期末の時価と原価との差額をOCI(Other Comprehensive Income)に計上するというシンプルな話だったのですが、原則主義のIFRSでは、上記①と②の投資の性質の判断から、その分類定義が広がることもあり得るため逆に企業間比較の可能性を失わせることにも成りかねないのではないかという懸念が生じます。また先のIFRS第9号に基づき、予想信用損失モデルがASU2016‐13(Current Expected Credit Loss、現在予想信用損失)としてUSGAAPにUpdateされています。尚、先のAFSはIFRSでは廃止されています。

 

これに加え、財務諸表の呼び名にも相違がみられます。

【損益計算書】

      US)Income Statement (I/S), Profit and Loss Statement (P/L)

     IF)  Statement of Profit or Loss and Other Comprehensive Income「純損益及びその他の包括利益計算書」

Source:KPMG Guide to Annual Financial Statements-Illustrative Disclosures, P18

 

【貸借対照表】

  US)Balance Sheet (B/S)

       IF)  Statement of Financial Position「財政状態計算書」 

Source:KPMG Guide to Annual Financial Statements-Illustrative Disclosures, P16

 

更に、B/S(貸借対照表)の表示科目に関する流動性配列法は、日米基準では一般的ですが、IFRSでは、非流動性資産(固定資産等)を最初に掲記することが一般的です。

日本の現時点の動向
一方、日本では、IFRS形式での開示許容と、JGAAPへの一部取り込みが見られるのと同時に、2025年4月1日より、東証プライム市場での英文財務諸表の開示義務化が開始し、より一層国際的な英文会計知識が問われる時代になりました。また金融庁界隈では、英文の有価証券報告書(2025年4月の段階では英文有価証券報告書の提出義務なし)の提出期限を株主総会前に提出することを海外の機関投資家から要請され、その検討段階に入っています。因みに、有価証券報告書に相当する米国のForm10Kは、株主総会前の提出が原則になっています。つまり、有価証券報告書を株主総会前に提出することになれば、有価証券報告書も英文で提出する必要性が生じるということです。逆もまた真なり。

 

            資料:金融庁‗第1回 有価証券報告書の定時株主総会前の開示P5

 

このような流れの中で、BATIC資格試験が時代を逆行するかの如く廃止されたのは、上述の通り米国の政策的意向に沿わなかった、ガバナンスの観点からは、PrincipalとAgentに於けるFudiciary Dutiesとの関連性があったからではないかと推測します。

 

そして、これらの変革が生み出す複数の事象が、最終的に英文財務諸表の開示義務化より遥かにインパクトのある変革をこれからこの日本を巻き込んで引き起こされる気がしてならないのは私だけでしょうか。

 

本日は、「【IFRS】なぜBATIC(国際会計検定)資格試験は突然消滅したのか」と題して、個人的な私見を述べさせていただきました。

 

 

(本ブログで述べられている見解は個人的な考えに基づくものであり、特定の国、団体や組織を代表するものではございません)

 

-ご紹介-

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 英検の受験者数はなぜ増加しているのか

 

    

【質問】

英検受験者数は近年急激に増加しているようですがその理由は何でしょうか?

 

それではまず、実際に英検の受験者数が増加しているか以下の日本英語検定協会が公表している受験者数データを見てみましょう。

 

 

  1.実際の英検受験者の過去5年間の推移

 

 

 

上記から見てもわかる通り、2023年度の英検全受験者数は約450万人で、受験者数はコロナ渦こそ減少していますが、軒並み上昇しています。

 

特にコロナ渦以降では、中学高校の受験者数が堅調に推移しています。因みに2015年の英検は約320万人超が受験しているので、その当時から比べても既に130万人近く増加しています。

 

この数値で一つ気が付いたことがあります。それは、「その他」に分類される受験者層が2019年と比較すると2023年には約25万人増加しているというところです。これにより、英語が教科として導入された小学校以下の受験者数を抜き去り、中学高校の次に来る層へとランクアップしています。

 

この顕著な増加(4年の間に64%激増している)は、一体何を意味しているのでしょうか。こちらについては後述します。

 

 

  2.英検受験者が急激に増加する期間にあった教育制度変革

 

まず第一に、義務教育課程である初等教育、つまり小学校高学年に英語が教科として2020年に導入されたことが大きいと思われます。
 
これまで文科省は継続的、段階的に小学校に英語教育を推進してきましたが、小学校の高学年(5,6年次)では実際に英語が科目として設置され、中学でこれまで習得してきた文法的な要素などを含めて英語科目化し、導入する早期化、また小学校低学年(3,4年次)では、それまで5,6年生を対象としていたコミュニケーションのための英語に早期から触れるという目的のための外国語活動が導入されたことなどに起因して、小学生以下の分類で受験者数が増加しています。
 
第二に、2021年から導入された大学入学共通テストに於ける英語科目の配点の変更が挙げられます。
 
これまで、筆記試験の配点が200点、リスニング試験の配点が50点だった(つまり、リスニングへの配分は20%しかなかった)ところ、共通テスト導入後はの英語の配点は、筆記試験100点、リスニング試験が100点となり、結果リスニングの得点配分が2.5倍と急激に増加したこと、大学入学試験において英検などの外部試験資格などを活用する大学数の増加などが挙げられます。これにより、共通テストのリスニングの重要性が増したことで、英検が最も得意とする英語4技能の能力を測るリスニングの対策として有用性が急上昇しました。また、各大学の入学試験での評価加点対象となる大学数が増加したことも主要因と考えられます。
 
実際には、上記2点の受験者分類は人口減少の影響が顕著ですが、上記の2つの理由によりそのマイナスの影響を大きく上回る形で尚、増加を続けているということになります。
 
要因の考察まとめ:
  • 小学校での英語教育の必修化: 小学校での英語教育が必修化されたことにより、早期から英語学習に取り組む人が増加し、英検受験者数の増加に繋がっていると考えられます。
  • 大学入試における英検の活用: 大学入試において、英検のスコアが優遇措置として活用されるケースが増加しており、受験者数の増加を後押ししていると考えられます。

 

  3.英検の社会人受験者層の顕著な増加

 

先ほど言及した「その他」の分類ですが、一体この層は具体的に何の層に該当するのでしょうか。これは学生層ではありません。いわゆる社会人層です。この社会人の層には、就労している人の層、主婦(夫)層、シニア層及びその他の層が含まれます。

 

これらの層の受験者が英検を受験する理由は、おそらく間違いなく、国内の国際化の影響が一因であると思われます。現在コロナ渦が終了して、観光客、就労者含め外国人の数の流入が激増しています。街を歩いても、コンビニに行っても以前では考えられないほど外国人と思われる方々に遭遇します。

 

先日、京都に旅行に行きましたが、金閣寺方面に歩いている大勢の行列は私を除いてほぼ全員外国人でした。つまり場所によっては、日本人が既に少数派、マイノリティになっているということを意味しています。

 

彼らの多くは、日本語を理解しません。

 

聞こえて來るのは、流暢な外国語の言葉です。その中で私が唯一ピックアップできるのが英語です。そういう日常に暮らしているという現実を日本人の多くは今感じていると思います。そしてこのトレンドはもうリバース不能だと思われます。

 

この内なる国際化が、英検受験者数の伸びとなって顕著に反映されていると思われます。

 

第二に、ITの進展は留まるところを知らず、既にオンライン教育は、完全に日本に普及浸透しています。場所や時間に拘束されることなく、これまでと同等以上の質の教育が受けられるということがそのトレンドを後押ししていると推測できます。現金を使っている人が少なくなっているのと同じで、技術は慣習を凌駕し日常を変化させています。

 

上記の変化に伴い、米国公認会計士試験同様、英検でもCBT(Computer Based Testing)試験が採用されており、これもフレキシブルな試験日程を組むことが可能なため、社会人層の受験者数を増やしている要因であると思われます。

 

英検は、リーディング、リスニング、スピーキング、ライティングというコミュニケーションに必要なすべての能力(英語4技能)を対象にしています。国内の国際化により、これらの全てが求められる時代に入って来ているこを改めて再認識されたことが英検受験者のその他分類の増加に繋がっているのでしょう。

 

要因の考察まとめ:

  • 社会人の受験者の増加:グローバル化が進む社会情勢の中、キャリアアップや自己啓発の為に英検を受験する社会人が増加していると考えられます。
  • コロナ禍でのオンライン学習の普及:コロナ禍においてオンライン学習が普及し、自宅でも学習しやすい環境になったことも受験者数増加の要因の一つと考えられます。

 

 

  4.2025年4月東京証券取引所プライム市場に英文財務諸表開示義務化

 

本件の詳しいことはまた別の機会に詳述致しますが、教育制度の英語教科への導入や、外国人の流入による内なる国際化だけでなく、その他の受験者層を増やしている要因として考えられるのが、プライム市場に上場している全企業に対する英文財務諸表の開示義務化です。

 

いよいよ、本当にこの時代がやってきてしまいました。

 

というのも、日本国内において政府行政機関以外の組織が英語で公式文書を作成し、公開するということが法制化(上位法の金融商品取引法に委譲された根拠規定は有価証券上場規程第445条の8)されたのが、歴史上初めてではないかと思われるからです。この社会的なインパクトは、江戸時代、横浜港沖にマシュー・ペリー提督が黒船の米国艦隊を率いて開国を要求した歴史と同じ状況を連想させます。

 

証券市場は、上場している企業をランク分けして分類しています。その頂点にあるのが、プライム市場であり、所謂超有名企業やグローバルカンパニーが犇めいています。企業は会社法や、金融商品取引法などの法定規則に準拠するだけでなく、伝統的に頂点に君臨するプライム市場の企業組織形態や財務報告プロセスを模倣する傾向があります。従いこの英文開示は、東証スタンダード市場、東証グロス市場、他の国内証券市場から非上場の日本国内の企業に隅々にまで財務諸表の英文開示が浸透していくものと思われます。

 

この東証プライム市場上場企業に対する英文開示義務化は主に海外投資家からの要請です。では、海外投資家というのは誰なのかという問題ですが、これは一言で言って海外機関投資家、いわゆる黒船です。

 

金融庁はこの黒船の正体を2024年12月20日に開かれた「第1回 有価証券報告書の定時株主総会前の開示 に向けた環境整備に関する連絡協議会」の事務局説明資料の中で、以下の通り明かしています。重要なのは資産規模の総額です。良いでしょうか、覚悟して見てください。

 

※ICGN(International Corporate Governance Network)の概要 • 世界の主要な機関投資家等から成る国際団体(本部:ロンドン)。1995年設立。 • 中心メンバーは、ブラックロック、フィデリティ等の運用機関や、CalPERS(カリフォルニア州職員退職年金基金)等の公的年金。会員は45 か国、300以上の団体(資産規模計77兆ドル超)

 

資産規模計77兆ドル超

 

これは日本円換算で軽く1京円を超えているということです。

 

この単位を会計の世界で見ることも、現実の世界で見ることもでもほぼありません。せいぜい数百兆円くらいじゃないでしょうか。因みに日本の国家予算(約500兆円)、GAFAMの時価総額(各社数百兆円)です。というか現実に存在する資産規模としては初めて見ました。

 

日本の国家予算の凡そ20倍を超える資産規模を有する投資機関団体。

 

これが黒船の正体です。

 

つまり黒船の来航により開港を余儀なくされた顛末と同様に、外部圧力によって再び今日本が変革する時だということです。

 

このことをネガティブに捉えてはならないと思います。

 

これをきっかけにして明治時代が幕開けし、日本は近代国家への礎を築いてきました。

 

話が少し逸れましたが、この2025年4月東京証券取引所プライム市場に英文財務諸表開示義務化

 

このインパクトは、既に多くの特に企業やそこで働く人々、社会人層、英検のその他の層に少なからず影響を与えているというのが私の考察です。

 

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  1.Purchasing Power of Money(貨幣の購買力)とTime Value of Money(貨幣の時間価値)

貨幣というものには、消費者が、経済社会において物品を買うPurchasing power of money(貨幣の購買力)を与えるだけでなく、もうひとつの物的・時限超越的な価値としての強力な側面がある。

 

一言で言ってそれは、貨幣の時間価値である。

 

米国公認会計士だからといって、ここで何か取り分け複雑な理論を用いて割引現在価値とかNPVメソッドとかを小難しく説明しようとしているわけではないので安心していただきたい。

 

要は、貨幣の時間価値とは、貨幣には時間的な価値がありますよという根本概念のことをお伝えしたいのである。

 

もう一度言うと、貨幣には、時間的な価値がありますよなのだ。

 

これを究極的に簡潔に説明すると、貨幣を持っているとその価値は時間とともに増大していきますよと。

 

つまり、貨幣×時間=貨幣の価値増加という図式が成り立つ。同時に貨幣の時間価値は、貨幣≠時間という概念も包摂している。したがって完全に貨幣が時間と入れ替え可能ということではもちろんない。

 

問題は、完全にではないとすれば、どれくらい入れ替え可能な価値があるのだろうか。

 

たとえば、あなたが1000万円を現金で今持っているとする。

 

そこにもう一人の一文無しのあなたがいて、1000万円のあなたに必死で追いつこうとする。手段として、選んだのは時給1000円で一日8時間働くということだ。勿論休息も必要だろう。なので、週二日は休むことにする。

 

さて、無一文のフリーアルバイターなもう一人のあなたが、リッチな1000万円を持っているもう一人のあなたに追いつくことができるのはどれくらいの時間が必要だろうか。

 

答えは、4.78年。

 

なんだ、大したことないじゃんと思うかもしれないが、これを時間に換算すると、なんと10000時間に相当するのだ。

 

人は何かひとつのことに10000時間を投入すると、最早誰も追いつけない神レベルの無双状態に到達するらしいが、正にその時間を全身全霊でバイトに投入することになるのだ。

 

しかし、この4.78年は余暇はおろか、飯も食わず、健康保険や年金、税金も家賃も、光熱費も携帯電話代も交通費も一切払わず全額を全力で貯めた場合の理論値であり、現実は、その半分にも余裕で届かないのではないかと推測する。

 

そこで、この理論値に現実的なファクターを加え考察すると、すれすれ、かつかつの最低限の社会生活を営むために、この年月を2倍してみることにする。

 

すると9.56年。つまり、ざっくりと、1000万円を持っているあなたに、一文無しのあなたが追いつくのは約10年かかるのだ。

 

1000万円というお金の価値を時間的尺度で表した場合、1000万円≠10年という時間価値が生まれることになる。

 

この図式からは、時間×労働力=貨幣の発生が成り立つ。

 

つまり、貨幣を得るためには、働かないと稼げないので、時間がかかりますよ。でも1000万円が今必要なのに、10年以上もかかるので、誰か貸してくれませんかねとなる。だから、貨幣には時間的に価値があるのですよということである。

 

その時間的な価値を測る尺度が金利なんですよ。ということだ。

 

これはあらゆる貨幣を仲立ちにしたあらゆる取引に共通して作用する万物普遍の法則だ。

 

  2. Exchange Value of Money(貨幣の交換価値)とTime Value of Money(貨幣の時間価値)

現代人は、お金には価値があるという。それは、当たり前だが、必要なモノ、欲しいモノを手に入れるためにはお金が必要であり、それを手に入れるためには、お金を使う(金銭消費する)必要がある。だからお金には価値があると考えている。

 

この図式からは、貨幣=交換価値が成り立つ。

 

敷衍していうと貨幣には購買力と交換価値があって、さらに時間価値がある。

 

先ほど簡単に説明したように、貨幣にはそれを手に入れるために必要な時間が掛かるため、時間的な価値があると説明した。

 

人は労働(時間とエネルギー)の対価としてお金の価値を経験的に把握しているから貨幣が時間的にも価値があると言われればなるほどと思われるだろう。

 

実は、本当の貨幣の時間価値というのはこれで終わりではない。

 

先ほど、単純比較計算で、10年分の時間価値が生まれると申し上げたが、正確に言うと10年ではないのだ。

 

貨幣には、すでに存在し、保有している貨幣自体(先の例では1000万円)にも、貨幣の時間価値が生じている(貨幣×時間=貨幣の価値増加)ためである。

 

貨幣の時間価値は金利で測られる(Expansion Factor)。その基本利率を決定しているのは国であり、発行された国債の金利がベース(Risk Free Rate)となって、その他あらゆる金利が決定されてゆく。(Risk Free Rate + Risk Premium)

 

例えば、先の例の1000万円を銀行預金に入れておくとする。そうすると預金の適用金利が年利2%であれば、銀行口座に預けた1000万円は、1年後1020万円になっている。この1020万円は、翌1年後に、1040.4万円に、さらに翌1年後に1061.208万円にと、更にその1年後に1082.432万円となり、やがて10年後に1218.994万円に膨れ上がっている。

 

合計額が1200万円でないのは、元本が稼いだ金利を、また元本に組み込み、増大した元本からまた金利を稼ぐという複利計算を適用しているからだ。

 

こうしてみると、先の例の一文無しのあなたが、10年後のあなたに追いつくのに、11.721年掛かるということになり、更に約2年近くプラスして働かないと追いつかないことになる。労働時間が、1.721年延びた理由は、元の1000万円が貨幣の時間価値を生み出し、お金がお金を作り出したということになるのだ。

 

本当のことを申し上げよう。一文無しのあなたが11.721年掛けて、最初に1000万円持っていたあなたに会いに行くと、先の1000万円持っていたあなたは、この間に、100万円の自己投資をして、必死に勉強して専門的な資格を取得し、正社員となり、給料が上がり、ボーナスが支給され、更に残りのお金を全部投資に注ぎ込んだ結果、実は資産がもう5000万円になっていたのだ。

 

ただ黙々とフリーターとして、11.721年間も働いて、貯めたお金を箪笥預金していた元一文無しのあなたにとってはこれは痛すぎる状況だ。

 

これが貨幣の時間価値に対する私の本質的な考え方だ。

 

単純にもっていた1000万円に金利がついたというだけでなく、貨幣の時間価値はそれを加速度的に増大させる機会を与えるということである。

 

資産そのものの増大率(資本収益率)は労働対価の増大率(経済成長率)に勝るというトマ・ピケティのr>gの法則にも似ている。

 

次に、お金の使い道という基礎的な習慣にについて考えてみたい。

 

消費のために、お金を物に転換してしまうと、このTime value of moneyの連鎖が断たれることが分かる。

 

もちろん物に価値はないとは言わないが、減価償却の会計原則からも、物理的な経年劣化の観点からも、物は所有することによって、その価値を時間とともに低減してしまう。

 

減価償却というのは、土地のみを例外として無形資産も含めたすべての物品について回るが、経済的便益や用益潜在力、超過収益力のないものはそもそも資産に計上できない。

 

因みに、都内の新築マンションは30年で価値が70%下落すると言われている。これは建物の価値が時間の経過と共に減価しているためである。

 

だが、お金というものそれ自体に、減価償却や経年劣化による価値の低減という概念はない。

 

物は、いったん所有してしまうと、半永久的に、保管費、維持費などの付随費用が延々と発生してゆく。物を所有(しすぎる)という経済行為は、リスクなのだ。

 

しかし、お金(現金)を金融資産で保有していれば、貨幣の時間価値によって、その連鎖はいずれ、お金がお金を生み出すという好循環を作り出していく。

 

さらに、現代は、既にキャッシュレスの時代に突入した。

 

キャッシュレスの時代では、現金は物的に所有したり、持ち歩いたりする必要がなくなり、スマホ一つで電子的に転送(電子送金)したり、決済することも可能な一方で、物体を転送する技術は今のところ生み出されていない。

 

そして、オンラインバンクは保管費・維持費も発生しない。回数制限はあるが送金や引出しも無料であり、超優秀なバンカー達が重厚な保安セキュリティーシステムを駆使して日々あなたの現金をただで守ってくれているのである。

 

最近巷では、レンタルボックスと呼ばれるものを至るとことで目にするが、あれは確実に保管費が掛かっている。保管費だけでなく輸送費も掛かる。家の中ではモノがあふれ返り、手狭になったのでもっと広いところに引っ越そうとなる。引越しは輸送費であり、広いところに引っ越すというのは保管費である家賃コストが上昇することを意味する。しかし肝心の中身(モノ)は、時間の経過と共に価値が低減していく。

 

貨幣には、時間価値があるので、このような時間の経過による減価が起こらない。逆に時間の経過と共に価値が増えていく。

 

いやそう言ったって、お金にはインフレという弱点があるでしょう、あれは、時間の経過と共に貨幣の相対的価値が下がっていくということでしょう?

 

確かにそうである。ただ、一つ言えるのは、あなたはどこからモノを買っているのか?ということである。

 

それは、モノを供給している企業のはずだ。その企業或いは産業全体が価格決定権を握っている。

 

インフレによって仕入れコストが上昇すれば、当たり前のように企業は価格を上げる。価格(売価)を上げているのだから、利益が減るということは理論上はあり得ない。だから、インフレを回避する方法は株式に投資するか、そのまま銀行口座に入れておくかそのどちらで良いのではないだろうか。

 

一番良いのは、株式投資だと思う。

理由は左記の通り、投資した企業は、インフレを価格に反映させるため、それ自体で損失を蒙ることは避けられる。そこから得られる配当や株価の上昇で補えば、インフレ分を減殺可能だ。ただしインフレ時には政府が利上げ介入してくるため、景気後退局面に陥る可能性があり、その場合株価は下落していく。

 

インフレ時に第二に取るべきベストな選択肢は、銀行口座に入れたまま何もしないである。その理由は嘗て日本に猛烈なインフレが襲った高度経済成長期、しかもオイルショックの渦中に銀行の普通預金金利は4%台、定期預金金利は7%台をたたき出していたからだ。これはインフレ率を押し下げるためにFRBが何度も利上げしている現在のアメリカの状況(2022年)を見れば明らかである。

 

皮肉なことに、金融市場では、金利が上がれば、債権が買われ、株価が下がるという逆相関があるが、実は株価が下がっていくその時こそが絶好の株式投資に於ける買い場なのである。

 

私はここで、投資を推奨しているわけではないし、お金の稼ぎ方を指南しようとしているわけでもないが、貨幣の時間価値と物の特性を理解すれば、次に取るべき選択肢もまた見えてくるのではないでしょうかと言いたかったのである。