いろんな“受胎告知“について ルネサンスとボッティチェリを中心に | lat-sasakikaoruのブログ

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アートの勉強のため、現在フィレンツェに住んでいます。
イタリア語の語学勉強も始めたばかりですが、イタリアでの生活やアートに関連することをアップしていきます。
日本に帰ってからのアート活動に生かして行きたいと思います。

ウッフィッツィ美術館に所蔵されている“受胎告知”だけでも

 

いくつものこの主題による作品があります

 

ボッティチェリの作品でも

 

「受胎告知」(1489-91)テンペラ

「サン・マルティーノ・デッラ・スカーラの受胎告知」(1481)フレスコ

 

 

どちらも受胎告知という主題

 

この2つだけを比較してもいろいろなことが見えてきます

 

① 個性

 

② 表現方法・技法

 

③ 主題のとらえ方  普遍性と変化

 

 

① 個性 - オリジナリティ

 

 作品が一目で“ボッティチェリのもの”だという魅力そのものです

 

 まずは、彼独自の作品の持つ優美さ、甘味さ、軽やかさ

 

 人物の長く伸ばされたプロポーション

 

 見る人の心に「微妙な憂い」を思い起こさせます

 

 ちょうど パリのベル・エポック時代のモディリアニと一緒です

 

 プロポーションを変えたことで

 

 構図の安定と曲線による動きを調和させます

 

 これは、体全体というより

 

 頭部(首)の部分に心情を顕著にだしています

 

 表現というよりも

 

 どちらかと言えば、彼の持つ内面的なものです

 

 比較するとわかりやすいのは

 

 レオナルド・ダ・ヴィンチの人物表現

 

 受胎告知とも比較してよいでしょう

 ダ・ヴィンチの天使もマリアも神聖さと厳かさの姿勢には

 

 近寄りがたい気高さが感じられます

 

 これだけだと、主題の解釈にも重なりそうですが

 

 全体的に観ると、その画家の精神性が強く出るところです

 

 

② 表現方法・技法

 

 「サン・マルティーノ・デッラ・スカーラの受胎告知」については

 

 フレスコ画独特の柔らかさが感じられます

 

 フレスコ画とは、壁に漆喰(しっくい)を塗り

 

 その漆喰が乾ききらない間に水で溶いた顔料で絵を描く

 

 そのため、素早く描く必要があることと

 

 描きなおしができないこと

 

 また、一日に描く量がかぎられてくることです

 

 紛れもない画家の実力が現れるものなので

 

 繊細な表現というよりは、おおらかなものになります

 

 それに比べ、約10年間の隔たりの技術的な進歩の差もありますが

 

  

 こちらの表現はとても表情や衣服の表現、風景に至るまで

 

 繊細で滑らかなものになっています

 

 さらに、色数や構図でも不必要なものが大きく削られています

 

 つまり洗練されている 

 

 では、何が不必要なもの なのでしょうか

 

 それが、次の主題のとらえ方です

 

 

③ 主題のとらえ方  普遍性と変化

 

 普遍性-このような宗教的絵画にはお決まり(約束)があります

 

 一つは、色が象徴するもの、持ち物などです

 

 受胎告知をするのは大天使ガブリエルであったり

 

 白の色や室内によってマリアの処女性を表したり

 

 赤が愛、青が信仰心、金が神の光だったり・・・

 

 必ず左が天使、右がマリアの位置は変わりません

 

 

※その型を破った

 エル・グレコというギリシャ系スペイン人画家もいます

 

 

受胎告知[1590-1603年頃  エル・グレコ 

 

ルネサンス以降のマニエリスム時代の作品には分類されますが

 

かなりバロックに近い表現・構図とも言えます

 

 

 

彼(エル・グレコ)が描くキリスト像というのも

 

彼自身のキリストのとらえ方

 

あるいは信仰が見えてきます

 

大変力強いキリストの(作者自身)精神性というものが感じられます

 

 

 

 変化とは主題をどうとらえているかということによって

 

 構図や表現が微妙に変わります

 

 ルネサンス初期では、

 

 正面に相対する天使とマリアの姿は

 

 教会の説く、聖書にしるされた従順なマリアの姿

 

 

 

フラアンジェリコ「受胎告知」1450年
 

 実に数多くの受胎告知を描いたフラアンジェリコの作品の一つ

 

 ルカの福音書にしるされているような

 

 神の御心がなされますように・・・・と従順なマリアの姿を

 

 実に美しく遠近法を使った空間(処女性を表す)で描いています

 

 彼が修道士であり、聖書に忠実に、自分の信仰の姿を

 

 描いたか清らかさです

 

 

 

 ルネサンスの影響のなかであっても

 

 このように描く人の立ち場やとらえ方で

 

 表現は大きく異なります

 

 人間としての(科学的に、人間的に)驚きと訝り(いぶかり)が

 

 人物のポーズと表情、構図としてあらわさてきます

 

 大きな感情の揺れを表しています

 

 これが後に

 

 宗教改革の影響を受けて

 

 自分の絵画を焼いてしまう洗脳に近い状態になってしまう

 

 今、振り返ってみて、前兆だったりして・・・

 

 

  作者であるボッティチェリが主題のイメージを伝えるのに

 

 関わりのないもの

 

 有っても無くてもよいものは

 

 必然的に意味のないものということですね

 

 それには空間も含まれます

 

 日本画では余白の美という言葉もありますね

 

 

 

 ボッティチェリ自身も

 

 彼の思想に少しずつ変化が見られてくるのも

 

 作品をとおして感じられる面白さではないでしょうか

 

 

 

 彼の作品の美しさには心奪われるものがあるのも事実

 

 作品の中に包含されている精神を感じ取るのは

 

 時代背景を知れば知るほど面白いものが見えてきます

 

 

 洞察力の鋭い方は、絵を見ただけで

 

 すべてを見通す人もいるのですが

 

 私は、より多くの大人や子供たちが

 

 あー、なるほどって、理論的な理解につなげるもの

 

 大事だと思っています

 

 深く美を感じ取れるようなお手伝いをしたいと思っています

 

 

 

 最後まで読んでくれてありがとうございました。