ポントルソンから帰るTGVでCharlotte Ramplingを繰り返し聴いていると、Nefertitiのテーマが繰り返し別の次元で鳴り響いてきた。

車窓越しに見えるアイスグレーの空が、赤と黄色の間色に流れていく・・・

礼をリヨンに誘ったことに後ろめたさを感じつつ、先ほどの接吻の感触を手繰り寄せていた。

マンダリンオレンジの空がプルシャンブルーに変わる頃、サンドラのことを想いながらNefertitiに曲を変える。

礼に後ろめたさを感じながら・・・

$心貧しきくそったれの足跡
パリへ帰るTGVの中であき~むは、明日リヨンに行かないか?と誘ってきたのでOKした。彼がiPodを渡すと、私はCharlotte Rampling のWenn Ich Mir Was Wünschen Dürfteをかけた。



・・・彼と堕ちて逝くのもありかも・・・

なぜかそんな気がして、リピートで・・窓際に座る彼に寄り添いながら・・・
$心貧しきくそったれの足跡


礼のF-1のシャッター音が中世の建築の中をこだまする。
サンドラはもうアパートに戻ったのだろうか・・・、そんなことを考えながらぐるぐる歩いた・・・



どこか2人とも通りすがりの旅行者のような感じで歩き続けた・・・

$心貧しきくそったれの足跡


渡り鳥の大群が羽ばたく音で気がつくと、レンヌ行きのバス停の列に礼と並んでいた・・・
彼女は俺の秘密を知っているような、蠱惑的で甘い視線を浴びせてきた。

「何、考えてたの?」

「いや、別に・・」

礼は俺の頬に冷たい鼻の頭をくっつけると、熱いキスをしてきた。東洋的な曲線を帯びた、淫靡でほのかに甘いライチのような接吻を・・

$心貧しきくそったれの足跡



島の入り口近くにあるLa mere poulardに入ると、ランチタイムは終わったから食事は5時からと英語で言われたので、近くのイタリアンレストランに入った。
古めかしい中世の窓の外に広がる海を眺めながらジタンに火をつけると

「もしかして私を追っかけてきたの?」

「あぁ、運命が勝手に・・」

礼のフレッシュな笑い声が店内に響くとGainsbougのla javanaiseがジュークボックスから流れてきた・・・




$心貧しきくそったれの足跡


モン・サン・ミシェルに向かうタクシーに乗り込むと、礼にヘッドフォンを一つ貸しHerbie HancockのMaiden voyageをかけて、喜劇に幕を下ろす・・・



修道院の塔が高くそびえる島が目に入ると、鼓動とともにHerbieのピアノが加速した。
$心貧しきくそったれの足跡


ポントルソンの駅の改札を出ると2人組みの東洋人のカップルがバス停にいた。
モン・サン・ミッシェル行きのバスの時間を見ると、最後の出発から一時間近く過ぎていた。日本人ではない東洋人の女は携帯電話を取り出し英語で

「ちょっと待ってね、そこに書いてあるタクシーに電話してみるわ」

とユンソナ似の彼女は連れの男性に韓国語らしき数字を聞きながら番号を押した・・・

・・・・・・・・・・・・・・

「繋がらないみたい・・」

美しい弧を描く眉をひそめながら困った顔をした。

「私たちが探してくるわ」

と礼が韓国語で言うと俺の手を引っぱった。

在日韓国人である彼女は、韓国語や中国語を母国語のように話し英語はまあまあ、フランス語は日常会話程度くらいはこなす女だった。両親は神奈川県内に13店舗を持つパチンコ屋のチェーン店を経営して財を得た成金の娘。小さい頃から写真が好きで愛用のキャノンのF-1を首から提げたちょっと気の強い礼・・・

駅の近くのカフェに入ると彼女はなにやらフランス語で店のマダムにタクシーを頼んでくれた。マダムが赤い壁掛け式の電話のダイヤルを回しウインクをすると礼が顔をちょっとだけ赤らめる。

「10分後にお店の前にきてくれるらしいわ」

マダムにお礼を言い、店を出て韓国人カップルを呼びに行く

「礼、君も行き当たりばったり?」

「そうよ、それも神の思召しよ」

と言うと腕を絡めてきた。
ユンソナ似の女とヨン様を意識した冴えない男にあいのりを申し出ると、二人は握手を求めながら英語で言った。

「僕の妻のチェ・ジウ、僕はヨン様と呼んでください」

ユンソナ似のチェ・ジウが眉をしかめて笑うと、スラップスティックなソープオペラ“冬のソナタ~モン・サン・ミッシェル編”の幕が開いた・・・・



久しぶりに聞く日本語は新鮮だった・・・
・・・やわらかい・・・大和撫子の薫り・・・



「なにしてるんですか?」

と礼が笑うと・・・・

・・かなりいい感じだった・・・・・
サンドラがアムステルダム中央駅のホームに降り立つと、そこには彼女の父親が立っていた・・・いなくなる前に着ていたやわらかいシルエットのコートを着たパパが・・・あの時のままで・・・優しく手を広げて・・・・待っていてくれた・・・・



でも、パパの腕の中に飛び込むとすり抜けてしまった・・・それはただの・・・・幻でしかなかった・・・・・・・・
ケチャップと口紅の匂いを嗅ぎながら、いつの間にか寝てしまった・・・



・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

ポントルソンに着く10分前に目を覚ますと、隣の席にすみれ色のコートを着た女が座っていた・・・紫陽花の君・・・??

彼女は、当然である出来事のように、にこりと笑った。

$心貧しきくそったれの足跡


サンドラと別れて、モンマルトル駅からTGVでポントルソン向かう。

・・まるでこれじゃ、ミカエルへの巡回だな・・

と思って車窓越しにフランスの冬を楽しんでいると、前の席に座る夫婦の悪がきが暴れだした。2歳弱くらいの金髪で琥珀色の目をした小さな悪魔は、ケチャップのついたフレンチフライを片手にウインクをすると優雅なフォームで俺に投げつけた。