翌朝、パリ北駅までAKIRAは送ってくれた。
午前11:35発アムステルダム中央駅行きのタリスがホームに到着すると、一斉に乗客たちが降りてくる。私は彼と体を寄せ合っていると赤いカートを引いた女が私にぶつかった。

“Pardon”

女はそう言ってしなやかな笑みで謝った。私はその弾みで彼に倒れこむと、そのまま首筋に思いっきりキスマークをつけてやった。

“Pardon?”

と私が言うと

“Merci”

と言った後、お返しに思いっきり唇にキスをしてくれた。

出発を告げるアナウンスがホームに切なく響いて熱くなった・・・

Moulin Rougeを出てタクシーに乗りポンヌフ橋の手前で下ろしてもらう。



アレックスとミッシェルが再開したベンチに座ると、牡丹雪が風にゆっくりと舞いながら落ちてくる。思いがけない神々の贈り物に2人は心を奪われていると

「空は白」

とサンドラが言った。

「雲は黒」

と答えると彼女は思いっきり俺の鼻をつまんで

「セーヌ川に落とさないでね」

と言い、二人で腹の底から笑う。

愛ではち切れそうな夜のパリが2人をくるんでいった・・・
$心貧しきくそったれの足跡


Moulin Rougeの案内係はサンドラに一瞬釘付けになった。完全無欠、完璧な彼女の装いと内から放つ魅力に茫然としながら席に案内した。

ヴーヴクリコ・グランダムと前菜を3品ギャルソンに頼むと、彼もまたサンドラの奴隷へと転職する

「嫉妬するくらい、みんな君に溺れてるよ」

と本気を隠して言うと

「指輪のせいよ」

と耳元にキスをしてくれた・・・



ホテルに戻りコンシェルジュに先ほどの予約の確認をすると

「センターの1番いいお席をご用意できましたよ」

といい返事が返ってきたので€100を彼のポケットにねじ込んだ。

部屋に戻り、サンドラの後にシャワーを浴びてバスルームを出ると古いコケテッシュなドレスを着た彼女が立っていた。

「祖母が若い時に買ったランバンのドレスなの、どうかしら?」

どうもこうもない、サイズもぴったりな禁酒法時代を思わせるドレスは家柄のよさを表していた。

「勘弁してくれ、一緒にいるだけで恥ずかしくなるくらい似合うよ」

と言うとサンドラは、

「お上手ね」

とはにかんだ。

彼女がメイクしている間、OLD ENGLANDの紺スーツに赤いネクタイを合わせ、JOHN LOBBのSUTTONを履いてみたが釣り合いは取れそうにもなかった。

「今日はキャバレーに現れた、Bonnie and Clydeね」

と言ってくれたが50枚くらい上手の格好には正直苦笑いしか出なかった・・・


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パリ北駅に到着するとメトロとRER線を乗り継いでミュゼ・ドルセー駅に向かう。
オルセー美術館の近くのHotel Pont Royalに荷物を預けコンシェルジュにMoulin Rougeの予約を頼み、RER C5線でヴェルサイユに向かった。

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ヴェルサイユ宮殿は相変わらず観光客でごった返しているので、幾何学模様の庭園へ。Google Earthで上空からの映像をみるとミッキーマウスに見えるこの庭園は、アンドレ・ル・ノートルが手がけたフランス式庭園芸術の極み、前回の一人旅で散歩の楽しさを教えてくれた。

ラトゥーヌ、アポロン、バッカスの泉水、ヴィーナスの繁みも今日のサンドラには、まったく興味が湧かないようで、ダイアモンドをいろんな光にかざし心奪われていた。

俺はジタンを吸いながらiPodでSerge GainsbourgのElisaを探す



サンドラは俺の耳を舐めながら笑うと、左手を俺のポケットに突っ込んだ。
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カーテンを引く音と部屋の中に襲ってくる光の洪水で目が覚めた。
白で統一された部屋に乱反射する朝の陽光に手をかざして遮ろうとすると、一点だけ冷たい異質な物体の感触に驚く。慣れない眼をうっすらと開けると、幾重にも屈折した光を反射する虹色のプリズムに、今度は本気で驚いているとAKIRAがElvis CostelloのSheをかけた。



彼からの思いがけないプレゼントは、とても言葉では言い表せない喜びをくれた・・・

食事を済ませた後Le Chocolatier Manonで12個入りのトリュフ買い、小便小僧の近くのワッフルショップで、ホイップクリームたっぷりの焼きたてワッフルを二人で食べた。

ホテルに戻りルームサービスでDILLON RHUMとアールグレイを注文した。サンドラがシャワーを上がろうとする前に来た上質のアールグレイにハルシオンを混ぜる、彼女はサンペレグリノをバスローブ姿で半分飲み干すとトリュフを口に入れ 、Take the A trainを口ずさむ。



「もお~、トロけちゃう~!」

と言うとアールグレイでチョコレートを流した。風呂上りでリラックスしている彼女にハルシオンが緩やかに聞いてくる

「疲れてない?明日早いから今日はもうおやすみ」

と言うと彼女はベッドに落ちていった・・・
サンドラを起こさないように部屋を出るとフロントにタクシーを呼んでもらい乗り込んだ。アフリカ系の運転手はメタリックブルーのプジョーで、SADEのSweetest Tabooをかけていた。



タクシーがエリックの自宅に着き待ってるように伝えると、注文してあった指輪を受け取りホテルに戻った。

ベッドで寝息を立ててる天使の指にぴったりのリングを薬指にはめると、マルチニック島のラムとチョコレートの悦楽に浸った・・・
ブラッセル中央駅を出て、目の前のcity bankで€800.ATMで下ろすとルクセンブルグ駅に近いTHE WHITE HOTELにタクシーで向かう、白で統一されたモダンなホテルはツインで一人€90.朝食付きのシンプルな部屋だ。

荷物を置いてサン・ミッシェル大聖堂にタクシーで向かう、閉館時間30分前に到着するとミカエルの前で蝋燭を灯し跪いた。俺の留守中、サンドラをお守り下さいと祈ると、グラン・プラスのサルクラエス像の右腕と天使の頭を撫でる。iPodのヘッドフォンを彼女に渡しSLY&THE FAMILY STONEのIf you want me to stayをかけた。



チョコレートとワッフルの焼ける匂いがファンクの複雑なリズムと重なって、ヘンゼルとグレーテルはギャラリー・サンテュベールの横道のレストラン街に迷い込んだ。

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「この辺は、ぼったくりばかりでいい店はあまりないわ。雰囲気はいいけど・・・」

「ムール貝の白ワイン蒸なら問題ないよ、好きなんだ活気があって」

サンドラは渋々納得すると俺たちは坂の中腹にあるビストロに入り、やや傾いたテラスに座るとムルソーとムール貝を二人前注文した。ギャルソンがムルソーを俺のグラスに注ぐと、“一応”テイスティングをする。意外に良かったので快く頷きグラスに注いでもらう

「ムルソー アン・ラ・バール フランソワ・ジョバール?」

フランス語も堪能な彼女に聞くと

「正解!おいしいわね」

と喜んでくれた。

銅製の寸胴にたっぷり入ったムール貝が運ばれてくるとムルソーの香りに色気が増す。紫胎貝のジュースと白ワインのマリアージュは二人の会話を止めた・・・
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朝起きるとサンドラはすでに出勤していて、テーブルの上にはCampbell’sのクラムチャウダーの缶と置手紙があった。
冷蔵庫からヴォルヴィックを出すと、アスピリンと一緒に飲んで手紙に目を移す。



おはようダーリン
二日酔いになってないかしら?
昨日のポトフとてもおいしかったわ
お礼にクラムチャウダー置いておきます、冷蔵庫にミルクが入っているから混ぜて暖めてね
明後日から二日間お休みだからヴェルサイユに行かない?

               xxxooo



気分転換にル・ノートルの設計した庭園でも散歩しようと決めると、B.J.ThomasのRaindrops keep fallin’ on my headをかけながらバスタブにお湯を張った。



AKIRAは食事が終わると寝てしまった。
マンダリンとペルノをハーフ&ハーフで古いバカラのグラスに注いでステアした。


彼がここにいるだけで幸せなのに、傷ついている姿を見ると悲しい。
神様、AKIRAの痛みを私にわけてください、どんな罰でも受けます。だからお願い彼のそばにいさせて

彼の隣に滑り込むと背中にしがみついて体温を感じる。
とても暖かくて優しい気持ちにさせてくれたけど、切なかった・・・

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