DoorsのThe endが彼女の背中を押した。



この世に私のあるべき姿はない。
この世に幸せは存在しない。
在るのは、悲しみだけ。
私だけが追い求めるだけの
なぜ飛び立って、向こう側へ行ってしまうのか?
神の手管は心の強さにいつも勝っていた。
私がいくら叫んでも、いくら抵抗しようと試みても
鮮やかな勝利があなたの前にある。
メッセージはかなり前に受け取ったけど、悪魔の囁きが私を生きる希望へと導いた。
あなたの作った鉄がある。
私の命を十分に奪うほどの、鋭い刃が
私の前に、金剛石より美しい輝きに満ちた光が
奪い取って、私の生を
奪い取って、私の魂を
奪い取って、この世の残酷な仕打ちを、全てを
私は永遠の輝きに満ちた光を首に巻きつける。
痛みと友に全ての感覚が和らいでいく。
ありがとう
これだったのね。
あなたの伝えたいことは、
辛かったわ
これを知るまでの道のりは
とても、とても、
ありがとう、神様
ありがとう、私に生を与えてくれた、神様
Akiraを救って、
彼に起こる全ての災いから
パパを救って、
私やママから離れた、罪の意識から・・・

サンドラの意識は徐々に薄れていき命を失った。
$心貧しきくそったれの足跡


それから3日間はガウディの建築を見たり、ランブラス通りをぶらぶらして過ごした。
文香は1日だけ付き合ってくれて、Casa Calvetに連れて行ってくれた。


IBIZAに行く前日の午後2:00にサンドラに電話すると

「サンドラ?チケット届いたかな?」

「届いたわよ!明後日の朝ね!」

彼女はとても元気そうで安心した。

「会えるのを楽しみにしているよ!」

「私も、待ちきれないわ!」

電話の向こう側ではDoorsのSoul Kitchenがかかっていて、彼女はとても楽しそうだった。



時計の針が言っている、もう閉める時間だと
帰ったほうがいいね
本当は一晩中いたいんたけど

車がのろのろと進んでいる、目ばかり光らせた人間を
 詰め込んで
うつろな光を投げかける街灯
鈍い驚きが頭の中を走る

でも、もうひとつ行くところがある
でも、もうひとつ行くところがある

君の心の台所で一晩休ませてくれ
あたたかいストーブのそばで、この心を温めさせてくれ
追い出されたらででいくさ
よろよろしながらネオンの輝く通りへ

君の指はあっというまに光の塔を織り出す
秘密の言葉で君は話す
もう一本タバコに火をつける
忘れることを学ばなければ、忘れることを学ばなければ
忘れることを学ばなければ、忘れることを学ばなければ

君の心の台所で一晩中休ませてくれ
あたたかいストーブのそばで、この心を温めさせてくれ
追い出されたらででいくさ
よろよろしながらネオンの輝く通りへ

時計の針が言っている、もう閉める時間だと
わかっているよ、帰らなければいけないことは
本当は一晩中いたいんだけど
一晩中
一晩中

電話を切り、荷物を詰めて文香が帰ってくるまで昼寝した。

彼女は夕食にパエリヤを作ってくれてが、

・・・酸っぱかった・・・

食事が終わり午後11:00になるとベッドに入り、サンドラのことを考えながら浮かれていると、ドアのノックする音が聞こえた。

「まだ、起きてる?」

「起きてるよ」

ネグリジェ姿の文香が、顔を曇らせて部屋に入ってきた・・・

「お願い、抱いて欲しいの・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・」

「駄目・・、かな?・・・・・・・」

「実は、フィアンセがいるんだ。悪いけど、ごめん・・・・」

「1度でいいの・・・、最後に友達として・・・」

彼女の頬に涙が伝う

「・・・・・・・・・・・・・・」

「昔のよしみで・・・、お願い、最後だから・・・」

彼女が俺に、唇を押しつけてくる。

唇は彼女の涙で濡れていて、とてもしょっぱかった・・・

俺は、断ることができなかった。
$心貧しきくそったれの足跡


翌日文香からイベリア航空の事務所の場所を聞き、チケットを取った。Tulip Innにサンドラ宛で送ってもらうように頼み、グエル公園に向かった。

地下鉄でレセップスの駅まで行き、地図を見ながら歩いた。
ヨーロッパも南の方へ行くと治安が悪いので、たまに振り返りながら憧れのガウディを目指して・・・
公園の前の長い坂を気合いで登ると、足はガクガクに震えている。

入口の広場に座り休憩して、急な斜面を登ったのだが途中で力尽きる・・・

・・・まぁ、いいか・・・

体力は芸術的好奇心には勝てなかった。

俺はタクシーでレセップス駅まで戻り、午後はアパートで過ごした。

元吹奏楽部の文香のライブラリーから、ホルストの惑星をかけた。



曲が土星になると、溜息が出た・・・
夕食の献立は、鰯の梅煮とジャポニカライス、インスタントみそ汁だった。

「ありがとう、楽しみにしてたよ」

「召し上がれ~」

・・・やはり・・・、梅煮が酸っぱ過ぎる・・・

「あき~むの食べてるとこ、見るの好き。口いっぱいに頬張って食べるの、懐かしいな~」

当たり前である。酸っぱいからご飯で誤魔化しているからである・・・

「おいしいよ!腕が上がったね!」

「そう、全部食べていいのよ!私のことは気にしないで!」

・・・そうですか・・・・

彼女は席を立ちTears For FearsのShoutをかけた。



・・・酸っぱくて叫びたいのは、俺である・・・・
$心貧しきくそったれの足跡


文香が仕事に戻ると言い、出て行った。
俺はBang&Olufsenの電話からサンドラの携帯にかけた。

「もしもし、サンドラ?」

「あぁ、Akira?」

「疲れてない?大丈夫?」

「ええ、大丈夫よ。新人が入ったから・・・」

「本当?よかった、心配したよ」

「・・・・・・・・・・・」

「休み取れないかな?IBIZA会わない?近いうちに」

「えっ?」

「だから、休みが取れたらIBIZAで君と過ごしたいんだけど」

「・・・、えぇ・・、一週間後に取れると思うわ・・・」

「大丈夫?疲れてない?」

「大丈夫よ・・・」

「チケットは俺が送るよ。空港まで迎えに行くから」

「わかったわ」

「じゃぁ、愛してるよ。仕事、無理しないでね」

「・・・・・・・・・・・」

「サンドラ?」

「えぇ、IBIZAの空港で待ってて」

通話がきれる音がして、俺は受話器を置いた。

ちょっと心配だったが,彼女にプロポーズすることを思うとどうでもよくなった。
$心貧しきくそったれの足跡


文香のアパートメントの部屋は、バウハウスデザインで統一されておりスペインにも関わらず白一色で統一されていた。
彼女はBang&Olufsenのミニコンポに手をかざしCureのBoys don’t cryをかけた。



「章、覚えてる?あの頃・・・」

「覚えてるよ・・・」

「あなたと別れてから、この曲ばかり聴いていたわ・・・、2度目にあなたが私を捨てた時・・・まだメーカーにいてあなたが突然、田舎に帰るって言いだしたっきり連絡が取れなくなった。私からは連絡することができなくて・・・、女の子なのにこの曲ばかり聴いていた。私は自分から電話することができなくて、1年後にやっぱり忘れられなくて、思い切ってあなたに告白して、それから半年付き合ったけどまた捨てられた・・・」

「・・・・・・・・・」

「チャールズ・チャップリンが言った通りね“人生は顕微鏡で見たら悲劇だけど、望遠鏡で見たら喜劇だって」

「昔の人はいいことを言う」

文香はあきれた顔をしてキッチンへ行った。

・・まずい、毒を盛られたら・・・・

彼女は、冷たい緑茶をコリンズグラスで入れてくれると

「これが、飲みたかったんでしょう?いいわ、忘れてあげる。これも何かの縁ね、人情人の為にあらずってやつか~」

と笑っていた・・・・
$心貧しきくそったれの足跡


ローマ広場からバスに乗り、マルコ・ポーロ空港からプラット空港への道のりは二日酔いの吐き気をFRISKでごまかして乗り越えた。

空港のタクシー乗り場からカタルーニャ広場まで行ってくれと頼み、途中で運転手が

「日本人か?」

と尋ねると

「そうだけど、何で?」

と言ったが無視された・・・
カタルーニャ広場にタクシーが着き料金を払う時、彼はメーターのボタンを2度おすといきなり1.7倍の金額に上がる。
気持ち悪くて反論するのも嫌だったので、メーターの料金をTipなしで正確に払った。

近くの公衆電話から電話すると2コールで文香が出る

「もしもし、あき~む?」

「今、カタルーニャ広場だよ」

「そこにHardRock Caféがあるから、お茶でもしてて。20分ぐらいでいけると思うけど」

20分・・・40分の間違いじゃないのか?
俺はわかったと伝えると、若い観光客でごったがえした店で待った。


1時間弱くらいで彼女が来ると

「ごめ~ん、ちょっと遅かった?」

「いや、別に・・・」

バルセロナの文香は、10分ほどルーズになっていた・・・・
$心貧しきくそったれの足跡


朝早くチェックアウトする時、フェラーラが

「また、戻ってこいよ。娘を連れてな」

彼は聖フランチェスコを模ったヴェネチアングラスで出来たペンダントを、渡してくれた。

$心貧しきくそったれの足跡


エリザと一緒にヴァポレットを降りると、二人で店を探した。

「任せて多分、こっちの方よ」

彼女がフライヤーを見ながら行こうとしている方向は、明らかに違ったので

「違う、もう一本向こうの通りだよ」

と指摘すると、俺の地図を見て

「あなた、なかなかスマートね」

と恥ずかしそうに顔を赤らめた。

細い川沿いの通りを歩いて行くと、音楽が聞こえてきた。
Jazz clubの重い鉄製の扉を開き、先に彼女を案内する。ちょっとエキゾチックなフィービー・ケイツに似た可愛らしい女の子が指を2本立てながら微笑むと、それぞれミュージックチャージを払った。

・・・一人で来たかった、カウンターに座れば・・・

編成はギターを加えたカルテットで、ベースはフェンダーのエレクトリック(フレットレスではない)を使ってNica’s dreamを演奏していた。



何曲か演奏した後、二人を含めた5人の客と3人のスタッフの拍手が鳴りやむと彼女が

「どうだった?私はよかったと思うけど」

「そうだな、リーダーのピアノはまぁまぁ、アップライトだけど。ドラムはちょっと若いかな、ベースはテクニックはあるが天狗ぎみ、ギターはピアノの顔色を窺いながら迷っている感じかな。まぁ、ヴェネツィアでだからいいんじゃない」

カウンターの方を見ると、フィービ・ケイツとハンサムなドラムがキスをしている。

「そう、実は私ジュリアードにいたの。Jazzはあまり好きじゃなかったんだけど、なんだか秩序がなくて・・・、ある時、高校時代の友達に誘われて見に行ったんだけど、彼女の知り合いのミュージシャンが来ていて合流したわ。私がつまらなそうに見えたのね、演奏が終わると、彼が私にこう言ったの」

「音楽は頭で聞くものじゃない。耳で聴いて、心で感じるそして理解するんだって。私はその言葉がきっかけでジュリアードを辞めたわ・・・。小さい頃からずっと憧れて、毎日ピアノと向き合ってやっと入ったジュリアードを・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

絶句してしまったが、なんとか気を取り戻して


「本当に?それからどうしたの?」

「結婚したわ、そのメジャーデビューできないサックスプレイヤーと」

彼女はどこか懐かしむような遠い目をしていた。
それから、ワイン3杯づつと彼女のそれからの人生・・・夫が3年前に他界したこと、息子がゲームプランナーで日本によく行くことを聞いた。

Jazz clubを出てヴァポレットに乗り込むと、偶然にも彼女の宿泊しているホテルが近いことがわかった。
船を下りると彼女が

「私、いい店知っているの。そこへ行きましょう!」

彼女について行くと、昨日騒がしかったバーに入った。



地元の若者と観光客がSeñor Coconutにノリノリで入り乱れている。奥のカウンターに二人で陣取ると、彼女はアブサンを2杯注文した。

「どう?素敵でしょう!」

エリザはとても生き生きしていて、今にも弾けそうだった。
彼女のおごりでアブサンをもう一杯ずつ飲み干すと、店を出た。

彼女はまた、あの眼差しで

「セルジュ、ルドヴィカを見た?ベルニーニ・・・、ローマの?」

「ローマは苦手なんだ、、、ジプシーがギラギラしすぎているから・・・」

「そう?あんなの見たことないわ・・・」


彼女とハグして別れた後、空を見上げると三日月が出ていて、ゆらゆらと緑色で揺れていた・・・
$心貧しきくそったれの足跡


昼はぶらぶら散歩して、午後6:30前に地図を持って近くの水上バス乗り場に着いた。
ヴァポレットが到着すると、宛ら日本の満員電車を思わせる人を吐き出してくる。
観光らしき数人が船に乗り込むと、夜のカナル・グランデをゆっくり運航していく。
三つ目の乗り場に到着する前船員が、何やら次で終点らしきことを言うと

“What’s happen ?”

と後ろから女性の声が聞こえた。
振り向くと彼女は、

「信じられない、何が起こったの?どうすればいいの?」

と目を丸くしている。
俺も苦笑いしながら

「乗り換えるしかないようですね」

と言うと一緒にヴァポレットを降りた。
次が来るまでの間、彼女が

「あなたどこへいくの?私はここへ行きたいの」

俺は地図に書いてある船着き場を指すと

「私も一緒よ!もしかしてあなたJazzに行くの?」

「そうだよ!僕もJazzが聴きたくて」

彼女は信じられないという感じで、ぐるりと目を回すと

「私はエリザ、あなたお名前は?」

「ゲーンスブール」

と言うとジョークに気づき笑いだした。

趣味のいいフレームの小さい眼鏡をかけた彼女は、陽気なジェーン・バーキンに似ていた・・・



ゲーンスブールとゲーンスブーロは
 フェリーボートにのった。
ベッドから、船の窓から、二人は岸を
 眺めた。
愛し合ってるから、船旅は1年間
 つづくだろう
呪いに打ち勝って、'70年まで・・・
'69年、エロチックの年

ゲーンスブールとゲーンスブーロはパリに
 帰ってくるだろう
テームズ河、ロンドンをあたにして、
2人は愛し合っているから船旅は1年間
 つづくだろう
神の御加護がありますように
 '70年まで



・・どうやら、アドリア海の女王は少々年増らしい・・・

・・・まぁ、いいか・・・