エリザと一緒にヴァポレットを降りると、二人で店を探した。
「任せて多分、こっちの方よ」
彼女がフライヤーを見ながら行こうとしている方向は、明らかに違ったので
「違う、もう一本向こうの通りだよ」
と指摘すると、俺の地図を見て
「あなた、なかなかスマートね」
と恥ずかしそうに顔を赤らめた。
細い川沿いの通りを歩いて行くと、音楽が聞こえてきた。
Jazz clubの重い鉄製の扉を開き、先に彼女を案内する。ちょっとエキゾチックなフィービー・ケイツに似た可愛らしい女の子が指を2本立てながら微笑むと、それぞれミュージックチャージを払った。
・・・一人で来たかった、カウンターに座れば・・・
編成はギターを加えたカルテットで、ベースはフェンダーのエレクトリック(フレットレスではない)を使ってNica’s dreamを演奏していた。
何曲か演奏した後、二人を含めた5人の客と3人のスタッフの拍手が鳴りやむと彼女が
「どうだった?私はよかったと思うけど」
「そうだな、リーダーのピアノはまぁまぁ、アップライトだけど。ドラムはちょっと若いかな、ベースはテクニックはあるが天狗ぎみ、ギターはピアノの顔色を窺いながら迷っている感じかな。まぁ、ヴェネツィアでだからいいんじゃない」
カウンターの方を見ると、フィービ・ケイツとハンサムなドラムがキスをしている。
「そう、実は私ジュリアードにいたの。Jazzはあまり好きじゃなかったんだけど、なんだか秩序がなくて・・・、ある時、高校時代の友達に誘われて見に行ったんだけど、彼女の知り合いのミュージシャンが来ていて合流したわ。私がつまらなそうに見えたのね、演奏が終わると、彼が私にこう言ったの」
「音楽は頭で聞くものじゃない。耳で聴いて、心で感じるそして理解するんだって。私はその言葉がきっかけでジュリアードを辞めたわ・・・。小さい頃からずっと憧れて、毎日ピアノと向き合ってやっと入ったジュリアードを・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
絶句してしまったが、なんとか気を取り戻して
「本当に?それからどうしたの?」
「結婚したわ、そのメジャーデビューできないサックスプレイヤーと」
彼女はどこか懐かしむような遠い目をしていた。
それから、ワイン3杯づつと彼女のそれからの人生・・・夫が3年前に他界したこと、息子がゲームプランナーで日本によく行くことを聞いた。
Jazz clubを出てヴァポレットに乗り込むと、偶然にも彼女の宿泊しているホテルが近いことがわかった。
船を下りると彼女が
「私、いい店知っているの。そこへ行きましょう!」
彼女について行くと、昨日騒がしかったバーに入った。
地元の若者と観光客がSeñor Coconutにノリノリで入り乱れている。奥のカウンターに二人で陣取ると、彼女はアブサンを2杯注文した。
「どう?素敵でしょう!」
エリザはとても生き生きしていて、今にも弾けそうだった。
彼女のおごりでアブサンをもう一杯ずつ飲み干すと、店を出た。
彼女はまた、あの眼差しで
「セルジュ、ルドヴィカを見た?ベルニーニ・・・、ローマの?」
「ローマは苦手なんだ、、、ジプシーがギラギラしすぎているから・・・」
「そう?あんなの見たことないわ・・・」
彼女とハグして別れた後、空を見上げると三日月が出ていて、ゆらゆらと緑色で揺れていた・・・
