$心貧しきくそったれの足跡


二度寝して昼過ぎに起きると、ジタンに火をつける。
ラップトップを立ち上げてメールチェックすると、礼からメールが入っていた。

「おはよう、今どこで何をしてるの?
まさか、浮気してないでしょうね(笑)
あき~むちゃんに言われて、憧れのパリでいろんな経験をしにここまで来たを思い出しました(人∀`●)アリガトゥ♪
実はとっても不安だったの、そんな時にあき~むちゃんが現れて(*ノωノ)
とりあえず、初めての一人暮らしを始めたいと思います。
たまにはメールくらいしてね、だぁ~りん☆礼でした。

PS. いい女になってやるぅ~(">ω<)っ))」

・・・ダーリンはやめてくれ、ジュリーじゃないんだから・・・



・・・まぁ、いいか・・・

かわいい奴だな・・・
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ベッドで眠っているとノックの音に起こされる。

「息子、朝食!もう朝は閉めるから、持ってきた」

ドアを開けるとフェラーラが、デニッシュとカフェラテを持ってきてくれた。

「ありがとうパパ、実は明日また旅に出るよ」

「そうか、今度は娘を連れてこいよ。とびきり美人のな」

そう言うと彼は抱きしめてくれた。

パパが出ていくとカートの中のパスポートケースから、文香の電話番号を出した
熱いカフェラテを啜りながら彼女の携帯に電話する。

「Buenos Dias」

「おはよう、あき~むですけど」

「えっ?あき~む?今どこにいるの?」

「明日そっちに行きたいんだけど、大丈夫?」

「あなた、相変わらず質問には答えないのね。大丈夫よ、空港からカタルーニャ広場までバスが出てるから、着いたらまた電話して!オフィスが近いから迎えにいくわ」

「実は、ホテルも予約して欲しいんだけど・・・、スリースターぐらいの・・・」

「だったら、私のアパート泊まれば?一部屋空いてるわよ」

「いや~、それはちょっと・・・」

「別に、取って食ったりしないわよぉ~」

・・・まぁ、いいか・・・

「じゃあ、電話してね。食事はどうする?和食がいいんでしょ?」

「お願いします・・・」

「じゃあ、私が腕を振るうわ!アディオス」

一方的に電話が切られた・・・
彼女は料理が得意ではなかった、何を作らせてもなぜか酸っぱい・・・

・・・まぁ、いいか・・・

俺はパパが持ってきたデニッシュをかじった。

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目が覚めると午前1:00を回っていた。
煙草に火をつけて、ラップトップを立ち上げる。
メールチェックをしたが、誰からのメールも入ってなかった・・・
コートを着て部屋を出ると、静まり返った廊下をなるべく足音を立てずゆっくりと歩く。
真っ暗なロビーを過ぎてホテルから出ると、近くのカフェで騒いでる声が聞こえてきた。
一瞬だけそこへ行って話し相手を探そうかと思ったが、駅の方へ歩いた。
歩きながらiPodをシャッフルで聴いているとKenny GarrettのLeft Aloneが流れてくる。



サンタ・ルチア駅の近くの橋で運河を眺めながら、中学生だった頃初めて買ったJazzのLPがMal Waldronだったことを思い出していた。
時を経てJackie McleanがKenny Garrettに変わったが、音楽だけはずっとそばにいてくれた・・・・
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サンマルコ広場からホテルへ帰る途中、Jazz barらしき店の前にライブハウスのフライヤーが置いてあった。それを見ると午後6:30からファーストステージが始まるらしく、ポケットに突っ込む。店の中をガラス窓越しに眺めると雰囲気が良さそうだったので、店内に入ろうとした瞬間、黒髪のふくよかな女性とぶつかった。

「ごめんなさい、どうぞお先に」

老いることを知らない美しさまでとはいかないが、笑顔が素敵な彼女と一緒に店に入った。
スキンヘッドに顎鬚を生やしたちょっと強面の店員が

「二人?」

と聞くと顔を見合せて彼女が

「そうよ」

と話し入口の席を案内された。

・・・まぁ、いいか・・・

席に座り彼女が

「私はヴェラ、あなたお名前は?日本人?」

英語圏ではないアクセントで聞くと軽く自己紹介をした。
彼女はドイツ人で、ローマ、フィレンツェを回りヴェネツィアに一人旅をしていた。旦那はスイスでスキー、彼女は古都巡り、今日の午後5:30の列車でミュンヘンに帰るらしい。

「あれ、何?」

と店内に大量に飾ってあるブラジャーを指すと笑いだした。
注文してあったモレッティのビールで乾杯すると、雰囲気はだいぶ和んできた。



スピーカーから流れてくるArt Blakeyの黒いリズムに合わせながら、日本人や日本文化について熱く語っていると

「あなた音楽が好き?音楽が好きならプラハに行きなさい。プラハは美しい街よ、古いヨーロッパがそのまま残っているの。」
「私はテクノロジーが嫌い。エジソンは狂っているけど、ミケランジェロは素晴らしいわ。時間があるなら是非行って」

もう一本づつビールを飲み干すと、2人で店を出た。

「もうちょっとだけ、町を散歩してくるわ」

と彼女が言い、軽く握手して別れた。

振り返ると彼女は、細い小道に消えた。
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ヴェネツィア・サンタ・ルチア駅の近くの豪華ではないが品のあるホテルに着くと、オーナーのフェラーラが出迎えてくれた。イタリア人にしてはシャイな彼が変わったアクセントの英語で

「サムライボーイ、一人で戻って来たのか?」

「あぁ、パパの髪の毛がなくなるまでには素敵な嫁さんを連れてくるよ」

と切り返すと、彼は俺の脇腹に左フックをお見舞いし笑った。

部屋に荷物を置きiPodを持って、あてもなく街をぶらつく・・・
サンマルコ広場までくると、近くのトラッテリアでトマトソースのラビオリをボルヴィックで流し込んだ。



店を出て広場に集まる鳩を眺めながらPoguesを聴いたが、孤独感が増すだけだった・・・
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午前6:30に目が覚めるとポールモールに火をつける。
二日酔いでふらつきながらバスタブにお湯を溜めていると、気持ち悪くなって吐いた。
連日の酒とヨーロッパのコーヒーで胃は限界らしい・・・
FRISKを5粒飲みこんだ後、更に2粒舐める。

一時間ほどお風呂に入り、身支度を済ませチェックアウトした。
タクシーで駅に向かい、チケット売り場の列に並びながら吐き気をFRISKで堪えた。

ヴェネツィア行きのユーロスターが走り出すとFPMのBeautiful Daysをかける。



アドリア海の女王は、俺に微笑んでくれるのでろうか?

サンドラは疲れていた。

最近の彼女は帰宅するとコートを脱ぎ、服は着たまま一時間ほどベッドに横たわる。
それからシャワーを出来るだけ長い時間浴びて、フリーザーから出した冷凍食品を電子レンジで温める。誰もいない食卓でテレビを相手にそれを口に運ぶ・・・

それを毎日繰り返す、毎日・・・

友達からの誘いはあるのだが、断った。
彼女はとても疲れていたから。

食事が終るとテレビを消してベッドに入り、天井をただじっと見ていた。
それが彼女にとって最良の儀式だった。

眠りが彼女の自我を忘れさせてくれるまでの・・・
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ホテルにチェックインして荷物を部屋に置くと、近くのピザ屋でマルゲリータを一切れとブラッド・オレンジジュースを頼んだ。
作り置きらしくサラマンダーで焼いたピザは生地が固く乾燥していて、オレンジジュースは酸っぱかった。

どうやらミラノには嫌われているらしい・・・

部屋に帰り、風呂に1時間ほど浸かって、午後7:30まで昼寝した。
起きるとありえない筋肉痛に襲われる・・・

・・・惨めだな・・・

ホテルの周りを歩いていると、チェーン店らしきトラッテリアがあった。
店内に入るとプロシュートの軍勢が吊るされていた。
プロシュートのサラダ、ティラミス、ハウスの白ワインを注文し、ポールモールに火をつける。カウンターの中にあるフレッシュオレンジジュース自動絞りマシーンに見とれていると、無愛想な店員が、大盛りサラダと糖尿病一直線ティラミスを持ってきた。
プロシュートが飾っているだけあって値段の割にはかなりうまい、サラダを食べ終えドルチェに移る前にエスプレッソとグラッパをダブルで2杯頼んだ。グラッパは不味かったがティラミスはとびきり美味かった。多分、マスカルポーネが違うのだろう。

部屋に帰りテレビをザッピングしてると、イタリア語を話すクレヨンしんちゃんが映っていた。おもしろくはなかったのだが、寂しかったので20分ほど見ていると終わってしまった・・・

1Fの何の取り柄もないバーに行き、バングラデシュ人の客室係との会話ををつまみに
WILD TURKEYのソーダ割りを5杯飲んだ。

部屋に帰りLouis PrimaのJust a gigolo/I ain’t got nobodyを かけると、服を着たまま寝てしまった。



オイラはジゴロ たったのジゴロ
どこへ行っても 居場所は知られているぜ
ダンスでいくら ロマンスでなんぼ
でも思うんだ

或る日ニュースが知れわたる
そしたらみんな何て言うだろう
終りが来たら たったのジゴロ
何していいかわかりゃしない

オイラはジゴロ たったのジゴロ
どこへ行っても 居どころ有名
ダンスはいくら ロマンスなんぼ
でも思うんだ

だってオイラは一人ぼっち
誰もかまっちゃくれねぇよ 誰も
オイラ淋しく一人ぼっち
淋しく一人ぼっち
スウィート・ママ オイラと遊ばねぇか
みんなが言う程ワルじゃないし
いつも淋しがりなんだよ
真っ最中でも気分は一人ぼっち
誰もかまっちゃくれねぇよ

本当さ 一人ぼっちで淋しくて
Baby 愛をおくれよ

オイラには誰もいない
だあれもかまってくれないし
淋しいよぉ 一人でよぉ
スウィート・ママ 一緒にいておくれよ
そんなにワルくないぜ
いつだって「愛」ってやつを欲しがってんだ
真っ最中でもな
ノッポなママが必要さ
病気になりそうだぜ
誰も 誰も 一人も 誰も
ダーリン マジだぜ
だーれもいない 一人ぼっち
誰もかまっちゃくれないのさ
$心貧しきくそったれの足跡


列車がミラノ中央駅に到着すると、1Fのチケット売り場に向かう。
窓口は2つしか空いておらず、左端の眼鏡を掛けた愛想の悪いおばさんの方へ並ぶ。
5人俺より前にいるのだが、客の捌きが遅い・・・20分ほど待ち、やっと後一人で自分の番が来る所で窓口はクローズに・・・一人前に並んでいた赤毛の太ったおばさんが、目玉をぐるりと回しながら何やらイタリア語で罵り始めた。俺は意味も解らず肩をすくめると、後ろの紳士がジャポネーと前のおばさんに説明した・・・俺は、イタリアでも顔が濃いらしい・・・
チケット購入をあきらめ、サンドラに電話する。
3回目のコールで彼女が出ると、ヴェネチアで会わないか?と誘ったのだが

「アリスが突然辞めちゃって、休みが取れないの」

「不思議の国でも行ったのかい?」

と返すと

「多分ね・・・」

疲れているのか、気のない返事が返ってきた。
また連絡すると言い電話を切ると、前回泊まったに地下鉄Repubblica駅に近いHotel Sempioneに徒歩で向かう。

実は、あまりミラノが好きではない。
前回の旅の時、スフォルツァ城の近くでジプシーの親子にCASIO EX-wordを掏られてしまった。ショックのあまりヴェネチアでイタリア旅行を中止して、マルペランサ空港から日本に帰ってしまったのだ。
俺は邪気を祓う為に、イヤフォンを耳に突っ込みFanfare CiocarliaのManea Ca Vocaをかけた。目には目を、ジプシー祓いにはジプシーブラスを!!!

二日間うんざりするほどSEXをした後、俺は旅に至った経緯を礼に話した。
サンドラとのことは黙っていたが・・・

「そろそろ行かないと、俺も礼も。」

「どうして?」

「だって、途中だろ?今、ここを終点にしていいの?」

「・・・・・・・・・」

「君はまだ独りで考えて行動しなくちゃ、アイデンティティーがないとつまらない人生を送らなくちゃいけなくなる」

彼女は仏頂面で頷くと、俺の顔を引っ叩いた。

「浮気したら、殺してやるぅ~!」

「しないよ、そんなこと・・・」

チェックアウトを済ませ、ペラーシュ駅で礼と別れた。

ミラノ行きの列車に乗り込むとlady dayを聴いた。



Billie Holidayの声を聞くと心苦しくなった。
そうだ!ヴェネチアにサンドラを呼ぼう。
ゴンドリエーリの歌を聴きながら、水の都で罪を洗い流そう!

Dean MartinのVolareをかけると、ちょっと気分が晴れた。