◎『正親町公通卿口訣』「笏」
一又謂笏の事、唐ては笏[コツ]と云て、所以備忽忘と云て、物をわすれぬ為書付る用にしたるもので、昔もこつの音也、それを日本でしやくと訓ずる也、音と云は非也、和訓也、
尤こつと云は、骨のことに通じて、禁中で忌ことゆへ、しやくと音を付ると云は誤也、それゆへ歯黒も骨をあらはすゆへ忌むで、かねを付け、爪紅も骨をあらはすを忌ゆへ也、譬ば堂上方では白虎通[ビヤクコツウ]をも白虎通[トウ]と云は、白骨[ビヤクコツ]と音まぎるヽ故とうと云也、通はつうともとうともよむ故、笏もこつともよめ共、しやくと云は非也、しやくは訓也、〈切紙あり〉
中古より取違へて、寸尺の尺と云て、天子は何尺何寸にして、官位に依て長短ありと云て、成[セイ]の短[ヒク]き人も官高ければ長き笏を持、官卑ければ成の高き人も短き笏を持、ことの外、形が見苦きこと也、位に応じて尺を以てはかるとて、尺の音を付たるなど云は附会の説也、
堂上方の伝は身の曲りを直す為也、笏を身の中にて両手で持とき、笏が曲れば其身も曲る、そこで直にすれば身も直になる也、じやうぎとも云ば聞へた事也、鏡なり、しやの反さ也、則さく也、物を裂の意也、入鹿を大織官の笏て打殺すとあり、是劔也、人の形をあらはしたものゆへ、全體玉也、爰で三種そなはる、此故に神體とす、春日の神體を笏とす。是秘訣なり、