六章 【トナカイが繋ぐ絆】 6 (46) | 中華の足跡・改

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違う、と即答できないくらいまでは整理がついてきているものの、かといって「実はそうなんだ」と朋子に話すのもためらわれる。

仕方なく、徹司は答えた。

「違うことはないんだけど……、だけど、その、……付き合いたいとか、そういうことは考えてなくて」

「どうして?」

「どうしてって……だって、うまくいくはずもないし」

我ながら情けない内容だと思うので、声も小さくなっている。

「モモちゃん、さ」

「うん?」

「もっと、自信持ちなよ。持っていいよ」

力強く、朋子が断言した。

「自信……」

「そうよ。モモちゃん、すごいんだから。演劇だって、そう思うよ?セリフもすぐ覚えちゃったし、演技もしっかりできてるし」

ストレートな朋子の誉め言葉は、まっすぐに徹司の胸に突き刺さった。

そうなのか?

いや、信じていいのか?

お世辞……という可能性は?

一体今日一日で、徹司は何度絶句させられたことだろう。

我ながらおかしくなり、徹司は思わず吹き出してしまった。

その徹司の笑い声を、朋子は自分の言葉を冗談と思われた、と思ったようだ。

「モモちゃん、ホントの話だよ?もっと、自分を信じていいんだってば!」

やや語気を強めて、言う。

ここまで自分のことを全面的に肯定されたのは、徹司にとっても初めてのことだった。

あたたかいものが、胸の中にじわっと広がっていく。

自分を、信じていいんだ。

そんなちっぽけな結論が、ここまで徹司の胸を騒がせる。

「ありがとう、トッコ」

万感の想いを込めて、徹司は感謝の言葉を口にした。

その夜の電話は、長くなった。

おそらくは――いや間違いなく、今までの徹司の人生の中での最長記録を更新した。

徹司自身、随分と気分が高揚していたのだろう。

そして、そのテンションは電話の向こうの朋子にも伝染したのだろうか。

演劇のこと。

クラスのこと。

大学進学のこと。

将来のこと。

はては、朋子の片想いの相手のことにまで、話は展開して行き。

終わりの見えないおしゃべりに終止符を打ったのは、徹司の父・征司だった。

深夜にまで及ぶ長電話に、さすがに堪忍袋の緒が切れたのだろう。

居間のドアをものすごい勢いで開き、つかつかと電話口に歩み寄る。

そして、一応電話の相手に遠慮をしたのだろう、『さっさと寝ろ!』と大きく殴り書きしたメモを、徹司の目の前に叩き付けた。

迫力に負けて、徹司は言葉を失った。

征司は、そのまま背を向けて、居間に帰っていく。

朋子も、なにやら不穏な気配を察したらしい。

明らかな小声で、

「モモちゃん?どうかしたの?」

と、訊いてきた。

徹司も小声で返した。

「ああ、ごめん。ちょっと長くなったせいで、親父がだいぶ頭にきたみたい」

「え、大丈夫?」

「うん、大丈夫。だけど、今夜はもう無理かな」

朋子を安心させようと、徹司は笑って言った。

「ん、わかった。じゃあ、また学校でね」

「了解。……あ、トッコ?」

「なあに?」

「ありがとうね」

うふふ、と、朋子は嬉しそうに笑って、どういたしまして、と答えた。