外国人労働者が病気を患った際、トラブルに発展したケースについて紹介していきたいと思います。M女史の書かれた本に紹介されているお話ですが、あるミャンマー人労働者がノロウイルスに罹患したのではないかという疑いが生起しました。実際には、幸運なことに重症に至らず回復したため、医者に診断・治療というところまでいかず、宿泊施設において静養するだけでことは済んだようです。ところが、雇用主は、仮にノロウイルスに罹患していた場合、他の従業員に感染する可能性があるため、しっかりと医師に受診してもらいたいということで、そのミャンマー人労働者に受診を勧めました。しかし、彼は、「もう全快したのに関わらず、何故受診する必要があるのか?」と頑なに受診を拒み続けたのです。
ここで理解しなければならないのは、当該ミャンマー人労働者の立場に立って物事を見るということです。彼は、異国の地で、労働し、賃金を得、それを本国に送金し、そして一家が成り立つように奮闘している、という事実です。彼の一日の労働が、本国での貨幣価値に換算してどれだけの力があるか、ということです。現在、ミャンマーの一般の人々の一カ月の給与は1万円~1万5千円でしょう。彼の給与の細部は推し量りかねますが、1日、若しくは1日半でその位を日本で稼いでいるのかもしれません。その貴重な一日の労働対価を受診ごときで失っては彼、そして彼の家族にとっては多大なる損失になりかねないのです。このような事情と思考が彼の行動の裏に存在するわけです。
一方、雇用主としては、仕事を円滑に進めていくためには、被雇用者の健康管理も重要なタスクの一つです。これは企業防衛にも直結する要因ですから重要視されなければなりません。1人の感染性の強いウイルスに罹患した場合、企業の業務が全て停止してしまうという大きな損失に直結しかねません。そうなれば顧客の信頼を失い、更なる業務維持・拡大に関しても大きな影響を与えるのは必至でしょう。
このお互いの仕事に関する考え方を互いに理解していかなければ溝は深まるばかりです。お互いにお互いの状況についてよく理解を深めるような場を設けてお互いに歩み寄る努力をしていく必要があります。
また、多くの雇用主に関して言えることは、外国人労働者を「単なる安価な労働者(奴隷)」程度に評価し、適当な扱いをし、会社の仕事が回ればよい、といった独善的思考に支配されている方が多いようです。
一人間、一貴重な労働者、互いに尊敬しながら仕事に取り組む仲間という意識が欠如しているのでしょう。従って、多くの外国人女性労働者に対してもセクハラ事案が後を絶ちません。中小企業の多くは、社長が力を持っています。それは会社を経営するためには必要ですから良いのですが、間違った見識と間違った力の使い方をすれば、企業防衛どころか、企業の命取りにもなりかねません。これからの時代、何度も言っておりますが、少子高齢化により外国人労働者の力を借りなければ日本社会の維持は困難となります。多くのアジアからの外国人労働者は影で、つまり我々のあずかり知らぬところで非難をしているのです。多くの日本人経営者、役職に就いている者、その他の従業員は、彼らについて馬鹿にしているところが在るかも知れません。高圧的な態度、上から目線でしか彼らを評価していないのかもしれません。でも、彼らも考えるし、感じるのです。そして、日本人経営者、労働者、そして日本人そのものを彼らの評価基準で評価しているのです。彼らは、お金だけが世の中の善悪・尊敬、軽蔑などの判断基準とは考えていません。勿論、祖国の発展にはお金や経済の重要性も理解していますが、それ以外に行動のための判断基準や価値の基準などを宗教の力、彼らの歴史・伝統・文化からきちんと精神的に確立している場合が多いと思います。お金は無いかもしれませんが精神的にはより幸福であり充実しているのかもしれません。そのような日本人がかつて持っていた精神性を彼らは堅持しているかもしれません。そんな彼らは、我々を如何に評価しているのでしょうか。多くのアジア人、特に来日したことのあるアジア人は落胆していると聞きます。彼らは祖父母や親兄弟から日本人の偉大なる精神性を聞いて、本当に心を躍らせ、憧れの日本に来たのに、見聞したものは、彼らのイメージとは大きく乖離したものであったからです。
経済的に先進的な地位を勝ち取り、維持しているこの日本は、これから様々な問題に対処していかなければなりません。そのためにはどのような舵取りが〔必要で、国民一人一人は意識をどのように改革していかなければならないのでしょうか。はっきりと言えることは、このままの日本では没落する日がそのうちに訪れるということです。お金は永遠のモノでもありませんし、資本主義も完璧なものではないでしょう。至る所でほころびが露呈してきました。今、日本人は精神性を取り戻し、少しずつ今の資本主義と金融制度を変えなければ、「貧困国日本」となるでしょう。多くの外国人労働者が日本人非正規雇用労働者より地位もお金も得る時代が来るかもしれません。