事前予行訓練突入!
日米指揮所演習YS(ヤマサクラ)の自衛隊のみの事前訓練が行われている仙台駐屯地では、日に日に米軍人の姿を多く見るようになってきました。
また、シュミレーションのコンピューターシステムの機材も沢山運び込まれ、いやがうえにも共同訓練の雰囲気が盛り上がってきます。
また、ゲーマーや、その他の演習をコントロールするスタッフはシビリアンが多いため、私服のアメリカ人も多く見られます。
自衛隊側の演習参加者はほぼ皆出揃って事前予行や調整方法について様々なやり取りをしていました。
私と同期のY3曹は、空域調整所作りに励んでおりました。
先ず、架台の設置、組立がメインの作業です。
この架台(がだい=地図を載せる台)に東北全体の地図を載せて行きます。
そこで陸軍航空機常用飛行経路(SAAFRS)なるものを設定し、地図上に展開していきます。
有事の際、陸上自衛隊の航空機は通常その飛行経路上を飛行します。
以前、触れましたが、有事の際の空域統制権は空自が握り、極々低い空域のみ陸上自衛隊が権限を有しております。
そのため、陸上自衛隊の航空機は、昼間AGL500ft、夜間AGL1000ftの高度を上限とし飛行します。
500ftと言えば、地上約150m程の高さですのでかなり低いです。
この地上高というのは地面からの高さであり、平均海面からの高さではありません。
例えば、平地から小高い丘、下って盆地、また登って山岳地帯のような地形では、それぞれのポイントで地上高が変わってくるわけです。
例えば、平均海面を基準とした高度であれば、地形に関係なく500ftで飛行しなければなりません。
そのように飛行すれば、海抜の低い平地では安全に航行することは可能でありますが、小高い丘や山岳地帯があれば当然航空機は山腹に衝突するわけです。
ですから地形に沿って地面からの高度500ftを保って飛行するのです。
この地上高は非常に低いため、陸上射撃部隊の射撃と交錯し、友軍相擊となってしまう可能性があるため、時間で射撃を規制していきます。
そのため、地上部隊の正確な位置と射撃の効力圏を地図に同様に展開していきます。
また高射特科(ミサイル部隊)の位置の掌握も必要となります。
とりあえず、航空機の航行に影響を及ぼす事項全てについて調整をかける必要があります。
また、特に注意を払う必要があるものとしては、地上重要防護対象施設です。
それは、原子力発電所も当然含まれるわけです。
また、設定した飛行経路の他にある程度航空機の航行に柔軟性を持たせるため空中回廊というものも設定していきます。
また、航空自衛隊の支援を受けるためにミニマム・リスク・ルートというものも設定し、これらをまた地図上に展開していくわけです。
自衛隊では、地図に直接的に書き込むことはせず、オーバーレイという透明な硬質のフィルムのようなものを展開していきます。
これを何枚も重ねていき、様々な情報を一括して見れるように工夫していくのです。
しかし、これはかなりプリミティブな手法です。
当時でさえ、米軍は全ての情報をコンピュータに展開してそれを共有するというやり方で作戦を実施していましたから、彼らと調整するのは、デジタル対アナログという感じでした。
現在の自衛隊も依然アナログな部分が圧倒的に多いのが現状です。
しかし、空域統制調整所は、管制隊長の発案で空域統制調整システムというプログラムを使い地図とコンピュータの両方を使用し、現況、当面作戦、そして将来作戦をビジュアル化に努めていました。
私とYは、2人でそのデータ入力も担当しておりました。
そして、各飛行部隊から上がってくる飛行計画ら航空作戦任務に関してそれぞれ関係部署及び関係部隊と調整していきます。
そのため、空域統制調整所の編成はかなり特異です。
所長は航空隊のパイロットがなる場合が多いのですが、管制幹部がその職に就くこともあります。
また、所属する幹部は、航空幹部、特科幹部、高射特科幹部、更には航空自衛隊からの連絡幹部(LO)など多彩な面子が揃います。
陸曹は基本的に航空隊の人間となります。
また、前述した航空作戦任務がかなりの量で、これは自衛隊だけの話ではなく、米軍の任務も関係してきます。
また、これには空挺作戦も絡んできます。
作戦上、空にかかることは我々が一手に引き受けてやらなければならないのです。
この狭い東北地方の上空をまさしく3自衛隊の航空機、米空軍、海軍、陸軍及び海兵隊の航空機が飛ぶわけです。
勿論我々は、他の公官庁(警察、消防、県防災、及び海上保安庁)の航空機に関しても掌握していかなければなりません。
まさしく空の交通渋滞が起きるわけです。
まだ、予行訓練でしたがY3曹と「本番やばいことになるな。」と顔を見合わせていました。
そして実際、怒号が飛び交うことになるのです。
くわばらくわばら。
続く