10年前のあの日
僕は君に救われた
―ヒドいことばかり
―家は貧しくて、親はドロボーで、友達はいなくて、大人は信じてくれなくて!!
―どうせ僕が死んだってきっと誰も悲しまない
そうやってただ無闇に走った
途中で何があったのかも覚えていない
そして気が付くとたくさんの花が咲いている場所に倒れていた
――――僕なんか、いっそこのまま死んでしまえばいいんだ…
――――ダメよ。そんな悲しいことを言っては。
僕の前に現れた女の子はまさに神々しいという言葉がふさわしかった
僕に差しのべられた左手はとても優しくて…、とても温かかった
――――私の名前はアテネ。天王洲アテネ。この星で最も偉大な女神の名前よ。
僕はこの時から君のことが好きだったんだと思う
――――あなた、私の執事をやってくれません?
まるで家に帰りたくないという気持ちを知っているかのよう
――――アテネだから略してアーたん。
――――アーたんって呼ぶの、私の執事になってくれたら…ハヤテには許してあげる。
本当にたくさん助けられた
たくさん教えてもらった
女の子との付き合い方とかも
強くて、優しくて、それでもって一生養える甲斐性を持たなきゃいけないんだって
だから未だに僕は彼女がいたことがない
――――これは、指輪?
――――うん。それが、僕の君への愛の証だ。今はそれで甲斐性があるってことにしてくれないかな?
――――ハヤテ…。ハヤテはホントおバカさんね。指輪には大きさがあって、これは私の指には余ってしまいますわ。
――――え?そ…そうなの?
――――ええ。だからあなたにこれをあげる。これも大人の男性用だから。いつかこれを二人はめられる大人に…一緒になりましょうね。
毎日が楽しかった
ずっとこの時が続くと思っていた
――――僕と一緒に外で暮らさない?
――――え?
今思えばバカな話だったかも知れない
――――アーたんにはおとうさんもおかあさんもいないからそんな事…!!
――――お前に何がわかる!!!何も…何も知らないくせに!!!
――――アーたん!!
――――もうそんな名前で…私を呼ぶなー!!!
――――ち…違うよアーたん! 僕は君と…ずっと一緒に…
――――もういい!!ハヤテなんかここからいなくなっちゃえばいいんだー!!!!
刹那
涙が止まらない
本当はアーたんが正しかった
なのに僕はあんな酷いことを
――――もう一度私の名前を呼んでよハヤテぇ…
大雨が降る町をただ無気力に歩いた
――――どうしたんだ?ハヤテ。
――――兄さん、僕、ケンカしたんだ。本当に大切な友達…。いっぱい助けられたんだ。感謝してもしきれないくらい…。本当にその人の事を大事に思ってたんだよ?なのに僕、彼女にヒドい事言って……。うう、うわあああああ!!!
――――そっか。じゃあ今日はもう遅いし、今度雨が上がったときにちゃんと謝ろうな。
閉ざされた庭城の扉が開くことはその後一度もなかった