あれから10年
僕は16才になりました
今は三千院ナギお嬢様の執事をしています
あれから僕は必死に生きてきました
でも僕はあの親に1億5000万の借金を押し付けられ、あっさり捨てられました
あのとき正しかったのはやっぱりアーたんで
今の僕があるのはナギお嬢様が僕の借金を肩代わりしてくれたから
君は今どこで…何をしていますか?
――――G・Wに行く場所は…ここだ!まだちょっと先だけど、ハヤテも準備しておけよ。
――――え?僕も連れていってもらえるんですか?
――――当然だろ?ハヤテは私の執事なんだから。
まさか旅行先のギリシャでアーたんと再会するなんてこのときは思いもしなかった
――――花畑に迷いこむクセでもあるのかしら?
――――え?
――――ですが残念、ここは私の家の庭…。どこの誰かは存じませんが、早く立ち去りなさい。
――――ちっ、違うよ!僕は…僕は綾崎ハヤテだよ!!
――――ですから、どこの誰かは知らないと言っているのが聞こえなかったのですか?
アーたんは僕の事を覚えていない…
思い返してみれば、あれはほんの短い期間の出来事…
僕にとっては大きな出来事だったけど、彼女にとってはとるにたらない日々だったのかも…
――新入生が私に何かご用?
――いや、あの、えーと、その…メ、メアド交換しない?
――あなた…面白い方ね。けどあいにくそういう物は持っていないの。それと、初対面の人に何かお願いする時は、まず自分の名前を名乗る方が良いのではなくて?
――はうっ!!ご、ごめんなさい。私は1年の桂ヒナギク。あなたは?
――アテネ…天王洲アテネ。この星で最も偉大な女神の名前よ。
それがヒナギクさんとアーたんの出会いだったらしい
――お互いもっとフレンドリーな名前で呼びあうのはどうかしら?
――フレンドリーな名前?どんな可愛らしい名前で呼んでもらえるのかしら?
――そうね~、天王洲アテネのアテネを略して「アーたん」って呼ぶのはどうかしら?
――!!! もう…その名前で呼んでいい人はいないんだっ!!!
!!!
ヒナギクさんの話を聞いて衝撃が走った
覚えている…彼女は僕の事を!
――――アテネが「向こうから来るからいい」って言ってたけど、本当に来るとは思わなかったぞ…
――――夜分遅くに申し訳ありませんが、天王洲さんは…
――――いるよ。お前が来たら通せとも言われた。けど…お前は何者だ?
――――え?
気が付くとベッドで寝ていた
ケガは治療されている
確か僕は彼女の執事に殺されかけて…
でもこの傷を手当てしてくれたのが彼女なら、きっと近くに…
――――アーたん?
やっと見つけた…
――――僕の事、覚えているよね?アーたん…
――――もう…、その名前で呼ぶなと言ったでしょ?ハヤテ…
たくさんの、今までの思いを伝えたかった
あのとき正しかったのは君で
でも今はナギお嬢様のおかげで幸せなんだって…
――――うぐ!
――――アーたん!?
――――来るなハヤテ!!!私はあなたを不幸にする事しか出来ないから…。今も昔もあなたを助けてあげることが出来ないから…!
――――そ、そんな事ないよアーたん…。だって僕は君にたくさんの事を教えてもらって、助けてもらって…
――――そして今はお前から「王玉」を奪おうとしている。
その後彼女は人が変わったかのようだった
幽霊のようなものを操り、助けに来た伊澄さんをも巻き込み攻撃した
撤退せざるを得なかった
後になって知ることだが、彼女はミダス王の英霊に取り憑かれていた
彼女を救うには王玉を破壊する必要があった
しかし王玉を失えばお嬢様は遺産の相続権を失ってしまう
――――なぁ、ハヤテが苦しそうなのはこの石のせいか?
――――え?…
――――そうだろ?だったらこんな石は…
――――お嬢様、何を!!!!
――――何って、ハヤテを苦しめる悪者を成敗してやったのだ。
――――何言ってるんですか、お嬢様!!!!この石はお嬢様の…三千院家の何兆円という遺産を継ぐために必要な石です!!
――――別にいいではないか。こんな石コロ一つでハヤテが苦しむなら、そんなものはいらないのだ!
――――よくありませんよ!お金はお嬢様を守っているものです!今までの生活だってお金があってこそじゃないですか!
――――だったら、ここから先の未来は…お前が私を守ってくれ
――――お嬢様…
僕にとって一番守りたいもの
一番大切な人…
――――お嬢様、今夜一晩だけおヒマをください。全部に決着をつけて、必ずお嬢様の元に帰ってきます
僕の名前は綾崎ハヤテ
三千院ナギお嬢様の…
執事だ!
――――助けに来たよ!!アーたん!! さあ、早く僕と一緒に…!!
――――ハヤテぇ…。ハヤテぇ!!ハヤテ…。ハヤテ…。ハヤテ…。ハヤテぇ…。
――――ごめん、来るのが少し遅れた。
――――ううん…いいの…。もういいの…。会いたかったの、ハヤテ…。
ああ、やっぱり僕はこの人の事が好きだったんだ。
――――ありがとう、ハヤテ。とっても嬉しかったわ…。
――――でもアーたん。あの変な奴に取り憑かれてた時の事って覚えているの?
――――そうね…。去年の末くらいから少しずつおかしくなってきて…特にギリシャに着いてからは意識はあっても自分が何をやっていたのかはあまり…。でも、やはりあのとき私を城から出してくれた人が助かったかどうか…。
――――え?
――――あのあと私を城から連れ出した人がいたの。頭に十字傷のあるあの人。アブラクサスの柱の森から抜け出すのがどれほど大変か説明しても助けると意地を張り続けた人。あの人が万が一、外に出る事ができなくて…
――――大丈夫。その人なら無事に家に帰ってきたよ。
――――え?
――――だってその人は、僕の兄さんだもの。
――――ハヤテの…お兄さま?
――――タイミングもそうだし、何よりアーたんの話を聞く限り、言動や行動がイクサ兄さんそのものだ。
――――よ…よかった…。
お別れなんかしたくなかった
アーたんだって同じだった
だからアーたんはギリシャに残れば僕の借金を肩代わりするとも言った
でも、彼女は僕にそれが出来ないことを知っていた
だから自分を犠牲にしても僕の幸せを選んだ
――――さようなら、ハヤテ。そしてありがとう。私ね…あなたの事が好きだったのよ…。
――――僕も…僕も君の事が好きで!本当に好きで!!!だから…ヒドい事言ったの…ずっと謝りたくて…!!だから!だから…ごめんね…。ごめんね…アーたん…。ごめん…。
――――………
――――ゴメン…なさい…
――――相変わらず…泣き虫なのねハヤテは。
――――アーたん…
――――まったく…そんな事、別に怒っていませんわ。でもありがとう。やっぱり…優しいのね、ハヤテは…。そういう優しい所が、私は大好きよ。
―僕とアーたんは、ずっと一緒だ
――――けど、私はもう大丈夫だから…。だから…私のために流す涙は…これで最後よ。
最後に触れた彼女の唇は懐かしくも、悲しくもあった。