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あけましておめでとうございます。
元旦からこんな暗い話、どうかとも思ったのですが、数年前の元旦に出会った20代の患者さんのことを思い出してこの記事を書いています。私が当時働いていた救急科にふらっと訪れた彼女、その左前腕にはおびただしい数の自傷行為の痕と、それに重ねるように刻まれた新鮮な傷がいくつもありました。大小深浅様々で、出血はさしてひどくなかったものの、縫合しないわけにはいかない傷でした。もう何針縫ったかも覚えていませんが、50針前後だったのではないでしょうか。私は、外傷で訪れた患者さんの傷を無心になって縫うのが好きなのですが、この時ばかりは、チクチク縫いながら彼女にいろんなことを話しかけたように記憶しています。
仕事のこと、複雑な家庭事情、最初に切ったときに親に反対された精神科受診、癖になってしまった自傷行為。痛みを紛らわせるための痛みだったはずなのに、切っている最中はもう痛みさえ感じなくなってしまったこと。細かい内容は忘れてしまいましたが、ずっと話を聞いていた私は最後に、「アルジャーノンに花束を」という一冊の本を紹介し、よかったら帰りにそれを本屋で買って（お正月に開店している本屋さんなんてないですよね汗）、ついでにコンビニでお雑煮でも買って帰ってくださいね、と声をかけたのをぼんやりと覚えています。
というのは、数か月後、同僚に彼女のことを聞いたからです。「らじこは今日いないんですかって聞かれたよ。なんか本の話をしたそうにしてたけど。あとコンビニの雑煮がおいしかったって。」 私は同僚が書いたカルテに目を通しながら彼女が何とか正月の孤独を乗り越え、彼女なりに生きていることを知って少しだけ安心したのですが、その数週間後にまた別の同僚から別の医師が彼女のことを叱っていたと聞いたのです。「らじこに会うために切ってるって〇〇先生が怒っちゃって、甘えるのもいい加減にしろ。もう来るなって言ったらしい。」 私はその言葉を聞いて数ヶ月前に自分が彼女に言った言葉を思い出しました。つらくなったらいつでも話にきてください、もしかするとシフトの都合で私はいないかもしれないけれど、きっと別の人が話をきいてくれるから、と私は無責任にも彼女に伝えていたのです。
勤務先の病院も変わり、その後の彼女の行方など知る由もないのだけれど、少なくとも私がその病院に勤めている間に彼女が再度救急科を受診することはありませんでした。
BTSが米国現地解散で長期休暇に入ったとき、多くの（欧米）メディアは彼らが自らの健康のために休暇を選んだこと、そして事務所がそれを許したことを評価していました。休暇に入るタイミングでインスタの個人アカウント開設なんて、ずいぶんスパルタだなと私は感じたのですが、BTSはこれまでも韓国ではタブーとされるメンタルヘルス関連の話を楽曲やインタビューで取り上げてきましたよね。
その中で私が直感的に最も精神疾患から遠い存在、いわゆるスーパーノーマルとしての印象を受けていたのがグクでした。たとえば猛暑と豪雨と雪と気持ちのいい晴れの日を行ったり来たりする大陸横断型気候のテテと、ともすれば常に繊細な雨雲を抱えているイギリス気候のジミンと比較してみると、グクは常にいい具合に初夏を維持できるカリフォルニア気候というか。
だからダンスに感情がないと言われてしまうこともあったのかもしれないし、くるくる変わるテテの表情や、メロディーを可視化してくれるジミンのダンスが、生まれつきの感性由来のものであるとすれば、グクの表現力は、後天的な努力の匂いがします（元旦から言いたい放題ですみません汗）。彼自身も、自分は他のメンバーの寄せ集めだというようなことを言っていたけれど、非常に素直な人間がありとあらゆるものを吸収して、天性の器用さで、取り込んだものを再現すると、グクのようになるのかもしれません。
いずれにしても、愛らしいマンネの顔の裏側には、よくコントロールされたパフォーマンスと同じように、いつの間にか耐えることに慣れ、よくコントロールされた大人びた精神があるように私の目には映っていたのです。それはもしかすると、彼にとっては耐えるという感覚でさえないのかもしれないし、幼いころの彼を知らない私の勝手な印象だったのかもしれないけれど。
そんな彼が2019年にリリースしたデモ。
When I see you smile in the screen, you're good at everything
You're just perfect, feels like I've never been you
Do you even see me? Do you even know who I am?
Or how do I look now, you don't like me like that
Come and tell me so much, beautiful heart
Oh I'm gonna disappear, please
All the numbers too big, can't get out of your game
Oh I want to paint it like you, please
I want to be your decalcomania
I want you
I want to be your decalcomania
I want, I want you
君が画面の中で笑うのを見ると、君はすべてが得意で
完璧だからね、君と僕が同じ人間だなんて信じられない
君には僕のことが見えてるかな？僕が何者だかわかってる？
あるいは今の僕のことどう見えてるのかな こんなのいやだって思うよね
だから僕に教えてよ その美しい心の内を
もう僕は消えてしまうから お願い
数字がすごすぎて もうここから抜け出せないんだ
でも君のように描きたいと思ってるから お願い
君の写し絵になりたいんだ
君がほしい
君の写し絵になりたいんだ
僕は 君がほしい
これを聞いて初めて、私は彼の裸の心を見た気がしました。そして同時に「僕は孤独な人間なので一生ひとりで大丈夫」だとか、「BTSのジョングクは輝いているけれど、チョン・ジョングクは汚い」というような彼が過去に残してきた発言、あるいはマルタで書いたような悩み多き手紙などを思い出したのです。（彼の右前腕のタトゥーに刻まれた詞を書いたコベインが自死を遂げている件に関してはこちらをご覧ください。）
Decalcomania=写し絵というのはテテへの含意もあると言われているようですが、この曲ばかりはグクが自分のことだけを考えて、自分のために書いたのではないかと思っています。未完成なのは、彼の完璧主義が邪魔をしてついに完成させられなかったせいなのか、あるいは、完璧であろうとする自分に対して、あえて曲を未完成のままにすることを許したせいなのか。
どっちにしても、グクがBTSのグクとチョン・ジョングクの間で葛藤し苦悩していることは確かで、未完成故の完成品のようにも思えるこの楽曲をグクがファイルごと消してしまったことを聞いて、私は少しだけ胸を撫で降ろしました。画面の中の笑顔のグクは、言うまでもなく、彼そのものではないからです。彼がBTSのグクとしての仮面・ペルソナを被っているからということだけではなくて、彼を見つめる何万人もの人間の勝手な理想と期待と想いが投影された何万通りものグクが存在するわけで、その写し絵になるなんて無理だし、そんなことを目指したところで、最後に残るのは美しい写し絵ではなくてチョン・ジョングクの方だから。
そんなこと、私がわざわざ言わなくても彼はとっくのとうに気づいているだろうし、孤独で汚いチョン・ジョングクを孤独で汚いなりに受け入れる術を見つけたからこそ、この曲がお蔵入りになったのだと信じたい。ずぶ濡れになって冷え切った体を自分の吐息で温めるようなこの曲が完成する前に、大きな陽だまりに飲み込まれてしまったのだと思いたい。
しかし一方で、「自分は何者だろう」という問いは、彼がこの曲の制作のずっと前にカバーしたLost Starsや、最近ではFallingでも繰り返されていたフレーズ。幼い頃から何通りもの自分を使い分けなければならない環境に置かれてきた彼にとっては不可避の哲学的疑問に過ぎないのかもしれないけれど…。
だからついでに「1-800-273-8255」という楽曲もご紹介します。孤独で汚い自分を受け入れられない多くの若者を救ったと言われるこの曲のタイトルになっている11桁の数字は、アメリカ政府が提供する自殺防止ネットワークのホットラインの電話番号ということなのですが、この楽曲がリリースされた2017年以後、電話が1万件近く増え、さらに10歳〜19歳の自殺が5.5%減少したといいます。
I've been on the low
I been taking my time
I feel like I'm out of my mind
It feel like my life ain't mine
(Who can relate?)
僕は最近ほんとに沈んでる
何をするにも時間がかかって
自分はおかしいんじゃないかって思う
人生が自分のものじゃないみたいで
（誰かわかってくれるかな？）
I don't wanna be alive I don't wanna be alive
I just wanna die today I just wanna die
I don't wanna be alive I don't wanna be alive
I just wanna die
And let me tell you why
生きていたくない 生きていたくない
今日死んでしまいたい 死んでしまいたい
もう生きたくない 生きていたくない
このまま死んでしまいたい
なんでそう思うか教えてやるよ
All this other shit I'm talkin' 'bout they think they know it
I've been praying for somebody to save me, no one's heroic
And my life don't even matter, I know it, I know it
I know I'm hurting deep down but can't show it
I never had a place to call my own
I never had a home, ain't nobody callin' my phone
Where you been? Where you at? What's on your mind?
They say every life precious but nobody care about mine
僕が話すこと 全部わかった気になってるんだ
誰かが救ってくれることを祈ってきたけどヒーローなんかいないし
僕の人生なんかどうでもいいことぐらいわかってる
胸の深いところで傷ついてるけどそれは見せられない
居場所なんかもともとないし
家なんかない 電話をかけてくれる人もいない
どこにいたの？どこにいるの？何を考えてるの？
命は大切ってみんな言うけど 僕のことはどうでもいいんだ
I've been on the low
I been taking my time
I feel like I'm out of my mind
It feel like my life ain't mine
(Who can relate? Woo!)
僕は最近ほんとに沈んでる
遠回りばかりして
自分はおかしいんじゃないかって思う
人生が自分のものじゃないみたいで
（誰かわかってくれるかな？）
I want you to be alive I want you to be alive
You don't gotta die today You don't gotta die
I want you to be alive I want you to be alive
You don't gotta die
Now lemme tell you why
でも生きててほしい 生きててほしい
今日死ななくたっていい 死なないでほしい
僕は君に生きててほしい 生きててほしいんだ
死なないでほしいって
なんでそう思うか伝えるよ
It's the very first breath
When your head's been drowning underwater
And it's the lightness in the air
When you're there chest to chest with a lover
It's holding on, though the road's long
And seeing light in the darkest things
And when you stare at your reflection
Finally knowing who it is
I know that you'll thank God you did
だってそれは最初の一息なんだ
水面の下で頭ごと溺れている時も
ふわふわする感じがして
でもそこにたどり着いたとき 大好きな人と胸を重ねたとき
少しだけ頑張れるかもしれない 道のりは長いけど
暗闇の中で光を見つけて
自分の姿が水面に写ってるのを見たときに
それが自分だと やっとわかる
そのときが来たらきっと神様に感謝するから 今までのこと
I know where you been, where you are, where you goin'
I know you're the reason I believe in life
What's the day without a little night?
I'm just tryna shed a little light
It can be hard
It can be so hard
But you gotta live right now
You got everything to give right now
君がどんな思いでここまできて 今どういう思いで
どこに向かってるのか 僕は知ってる
僕が命を信じるのは君のおかげ
少しの夜もなかったら日中の光だってない
少しは僕の言葉にも耳を傾けてみて
大変なのはわかってるから
ほんとに大変なのはわかってるから
でも君は今を生きないといけない
今持ってるすべてを出し切らないと
I've been on the low
I been taking my time
I feel like I'm out of my mind
It feel like my life ain't mine
(Who can relate? Woo!)
僕は最近ほんとに沈んでる
僕ばかり取り残されて
自分はおかしいんじゃないかって思う
人生が自分のものじゃないみたいで
（誰かわかってくれるかな？）
I finally wanna be alive I finally wanna be alive
I don't wanna die today I don't wanna die
I finally wanna be alive I finally wanna be alive
I don't wanna die I don't wanna die
でも僕はついに生きていたいって思えるようになった
今日は死にたくないって
生きていたいって思うんだ
死にたくない 死にたくない
Pain don't hurt the same, I know
The lane I travel feels alone
But I'm moving 'til my legs give out
And I see my tears melt in the snow
But I don't wanna cry
I don't wanna cry anymore
I wanna feel alive
I don't even wanna die anymore
Oh I don't wanna
I don't wanna
I don't even wanna die anymore
痛みの感じ方は人それぞれ
自分が進む道はひとりっきり
だけど足が動かなくなるまで歩いてみよう
雪の中で涙も溶けて
でも僕は泣かない
もう泣きたくない
生きてる実感がほしいんだ
もう死にたくなんかないから
絶対に
そんな簡単に
死ぬものか
最後に、いつもこのブログを読んでくださる皆さんへというより、偶然にもこの投稿を目にしているかもしれない「死にたいあなた」へ。
私も死にたいと思ったことがあります。自分が情けなくて、自分の間違いを許せなくて、つらくて、何のために生きているのかわからなくなって、死にたいと思ったことがあります。これからもそんな日がまたやってくるかもしれない。
でも、死にたい日と死にたい日の間には、生きていてよかったと思う瞬間がありました。別に、大好きな人と胸を重ねるなんて、そんな幸せを絵に描いたようなできごとが起きなくても、生きていてよかったと思う瞬間は確かにありました。
新しい洗剤が意外といい匂いだったとか、最後の200円で買ったおにぎりがおいしかったとか、つり革広告の安っぽいキャッチコピーに感激したとか、そういうかんじで。
洗剤のいい匂いも食べ物のおいしさも感激する心も失ったというなら、とりあえずそこでしおれそうになっている植物に水をあげてみるのはどうかしら。生きるか死ぬかはとりあえず置いておいて。
そう、置いておいていいんだと思います。死ぬ意味もなければ、生きてる意味だってそもそもないんじゃないかと私は思っています。
細かいことは知らないけれど、太古の昔に宇宙ができて、46億年も前に地球ができて、生命が誕生して、いろんな命が生まれようとしては淘汰されて、屍骸にもなりきれなかった生まれ来ぬ命たちの上に私たちは生きているんですよね。生まれてきただけで奇跡なんて月並みなこと言いたくないけれど、実際、そうなんです。そのうえ生きてる意味なんか考えて、愛情を求めて、永遠を求めて、いつまでも幸せになんて、そんなの上手くいかなくてもともとなんじゃないかな。
確かにそれを手に入れる人もいる。生きてる意味にあふれて輝いているように見える人たちもいる。
でも、それを手に入れられなくて苦しんでいるのはあなただけじゃない。
だから、何度も言うようだけれど、生きている意味なんてなくていいんだと思います。
愛されなくてもいいんです。
その分誰かを愛したい、そう思っても怖くて愛せない。
そんなあなたでいいし、そんなあなたがいいんだと、私は思います。
まずは、誰かに話してみませんか。
こころの健康相談統一ダイヤル： 0570-064-556（おこなおう・まもろうよ・こころ）
新年早々、こんな長文を最後まで読んで下さってありがとうございます♡
2022年が皆様にとって、少しでも優しい一年になりますよう、祈っています。