直立二足歩行のヒトと四足歩行の霊長類とでは,骨盤から見て,大腿骨の伸びる方向が90°変わっ
てしまっている.四足歩行の霊長類の場合,骨盤から90°弱屈曲して地面に向かう大腿骨を伸
展させることで,歩くことが可能である.しかし,ヒトでは,大腿骨は地面に垂直に立ったま
まで, 骨盤と脊柱をいっしょに垂直に立たせてしまっている(股関節は伸展位).よって, ヒトは
歩こうとすると,骨盤を水平に保ちながら, 股関節をさらに伸展させなければならず, 極めて特
徴的な動きとなる.
この特徴の理解には, 骨盤を水平に保つ中殿筋, 股関節伸展筋である大殿筋, 各種霊長類二足
歩行時の骨盤・股関節の運動学的比較観察が重要であると考える。
ヒト大殿筋の機能形態学的解析
○姉帯 飛高1、坂井 建雄2
1順天堂大学医学部解剖学・生体構造科学講座、2順天堂大学保健医療学部理学療法学科
ヒトの大殿筋は強力な股関節伸展筋であり, 直立二足歩行において重要な役割を担う. しかし, 大殿筋
の大半の線維は大腿骨ではなく腸脛靭帯に停止するとされ, これは大殿筋が強力な股関節伸展作用を有
することと矛盾する. そこで大殿筋の停止構造を再精査したところ, 実際には大殿筋上部2/3は恒常的に
強靭な停止腱を形成し, 大腿骨に停止していた. 一方で下部1/3は停止腱を持たず, 筋性に外側大腿筋間
中隔とその周辺に停止していた. 即ち, 大殿筋上部2/3は大腿骨に直接的, かつ強力に作用する形態であ
ると言える. また, 大殿筋上部由来の停止腱は捻れ構造を呈しており, これは進化の過程における下肢の
捻れが投影されたものと考える.