冬の夜だった。
海は静かで、まるで墨を溶かしたように黒く光っていた。
そこに、コンテナをいくつも乗せた大きな船が、ゆっくりと滑るように浮かんでいた。
船の上から、ひとつの黒い影が跳ねるように舞い上がった。
それは人の形をしていたが、空へ飛ぶ途中で、するりと翼を広げて鳥になった。
風に乗って、音もなく夜空へと消えていった。
その後を追うように、空がひらく。
遠くで花火が上がった。
音が遅れて、胸に響いた。
ぱん、と破裂するたびに、色のない海の上に、きらめく色が落ちてくる。
私は、夜空に届きそうな竹馬に乗って、ゆっくりと、ひとつの船から次の船へと渡っていく。
何かを探すように。
凍るような風の中で、
波の音も、花火の音も、鳥の羽ばたきも、すべてが遠く、夢のなかのようにぼやけていた。
その夜、世界は音を忘れていた。
けれど、光と影だけは、ずっとそこで生きていた。