少年は苦学生であった

昼間はじめっとした匂いのする茶色い建物で大勢の学生に混じって筆を動かした

その光景はなんだか色褪せて見えた

そこにいる人は皆ぜんまいで動いているのではないかと錯覚を起こすほど規則正しい生活をしていた

少年は早起きできた日や日の長い夏場など

時間のある時には油脂と靴墨をかばんに詰めて駅前に出ると靴磨きをして小銭を稼いだ

少年の腕前は特別下手な訳ではなかったが大して上手い訳でもなかった

それでも少年に足元を預けた人々はコインを置いて行ってくれた

彼らが革靴を足台に置いた時から立ち去るまで無表情でも気にした事はない

というか寧ろ彼らは笑わない人種とさえ思っていたほどだ

日が暮れ始めると少年は折りたたみ椅子を抱えて帰路に着く

その頭上をカラスが夕陽の海に向かって少年の何倍もの速さで過ぎていった

 

そして少年は夜になると星磨きのアルバイトに出掛ける

まず程よい大きさの惑星に腰掛けると

その周りに浮かぶ星たちを大きい歯ブラシのようなもので磨いていく

歌を口ずさむのも忘れずに

 

靴磨きの時とは違い

少年には星磨きの才能があった

 

少年が生み出す旋律はどんな高価な靴墨よりも星をピカピカに磨き上げた

ブラシを握る手には力を入れすぎず弱すぎず

歯磨きの要領と同じだ

だから少年はその行為を”ほみがき”と呼んだりもした

そうやって磨かれた星は水を得た魚のように煌々と輝き少年の周りをシューシューと流れて喜びを表現した

 

そう

少年にとって星磨きの報酬は星々の明るいダンスだった

 

柔らかく 煌びやかな星の光を浴びると

この上なく幸せな気持ちになれた

何よりも大きな宇宙で誰よりも自由になれた

 

 

 

 

 

 

そして目を覚ました少年は

今日も電車に乗って人ごみに紛れる