母が悪質な豆腐詐欺に引っかかった。
ものすごくまずいお豆腐を一ダース買ってしまったのだ。
買うつもりはなかったそうだが、ネットでページを見ているうちに購入した事になっていたらしい。
問い合わせをしようと、例のページを見てみると、問い合わせボタンが購入ボタンになっている。危うくあと三ダース買ってしまうところだった。居てもたってもいられず、私と母は古いバンに乗り込むと、工場のある隣県へ向かった。
目的地付近でナビが終了したので車を停めて歩くことにした。緩やかなカーブを超えると、トタン屋根の古い民家が建っていた。周囲に建物がなく、大きな家だった為、すぐにここだと分かった。
「ごめんくださーい」と母が声を掛けたが、
「不良品売りつけやがってどういうつもりだ!」数百キロの道のりを経ても怒りが収まらない私は、先方の顔も拝まぬうちに暴言を吐いていた。
すると中から出てきたのは紛れもない私の祖母、母の母だった。
祖母はネギ入りの納豆を手でかき混ぜている。あのお豆腐に掛けるつもりだろうか。
部屋の奥を覗くと、囲炉裏を囲んで従業員や親戚が朝食の支度をしている。
その中には、私が幼い頃に亡くなった祖父もいた。なにか怒鳴っていた気がするが、目頭が熱くなり怒声は私の耳まで届かなかった。
それにしても祖母はつい最近まで一緒に暮らしていたと思ったのに、いつからこんなところでお豆腐を作っていたのだろう。
「おばあちゃん、帰ろうよ。長野まですぐだよ。」そう言うと、なぜか祖母は市街地にランチに連れて行ってもらえると思い込んで、出かける支度を始めた。私と母はそのまま祖母をバンに乗せると、街には寄らずに家まで連れ帰ってきた。
後部座席から怒った声が聞こえた気がしたが、朝を告げるアラームだったようだ。