私は終電を逃すまいと友人と肩を並べて走っていた
ロータリーを抜けたところで腕時計は定刻の5分ほど前を示していた
この距離なら間に合うだろう そう思いながらも一気に階段を駆け上がると
そのまま足の速さを緩めることなく改札を抜け 階段を転がるように下っていく
喉の奥がカラカラに乾いてひっつきそうだった
階段を中程まで下ると まだそこに止まっている車両の最後尾が見えてきて ひとまず胸を撫で下ろす
しかしそれもつかの間 腕時計に目をやると指針が目盛りを二つ三つ飛ばして発車時刻を指していた
けたたましいベルの音に包まれ 今にもホームを出ようとしている車両の先頭に届くような大声で「待ってくださーい 乗りまーす」と叫んだ
すると電車は出発を待っていてくれたので 一番近い車両に駆け込んだ
人気のない車内を 息を切らしながら前へ進む
その車両のシートは よく乗る電車のように向かい合わせにはなっておらず バスの座席のように全て進行方向を向いていた
車掌さんのいる運転席のすぐ後ろまでいくと ようやくベンチのような横長のシートに腰を下ろした
隣に座る友人に目をやると 彼女もまだ肩で息をしていた
視界の端に人の気配が入り 後ろを向くといつの間にか老婆が私たちの後ろの席に座っていた
ちょうど私と友人の真ん中のあたりに腰を下ろし 頭だけを私たちの座るシートとシートの隙間から出して眠っていた
正直その光景にはぎょっとしたが 今は無事に乗り込んだ最終列車で帰宅できることに感謝しなければならない
前を向きなおすと運転席の車掌さんがこちらを向いていた
だがその顔には目や鼻や口は無く 掘り掛けの彫刻のように凹凸が微かにある程度だった
球の切れそうな蛍光灯がチカチカと点いたり消えたりしているその箱の中で つり革がぶらぶらと揺れていた