梅雨も明けようとしている初夏の昼下がり 夫と訪れたテーマパークで“亡霊の家”に入った

そういった類はどちらかと言えば苦手だが 待ち時間の長い他のアトラクションとは違って一人も客が並んでいなかったのだ

 

外観は少し前にハマったバトルロイヤルゲームに出てくる西洋の建物そっくりで 入る前から中の間取りを想像することができた

水色の扉に付いた細長い銀色のノブを捻って中に入ると 重々しい空気が身体を締め付ける 霊感などないがそこには何か居ると思わせる嫌な空気が漂っていた

老緑色の制服に身を包んだ案内係の女性に

「長居は危険ですので十分以内に出てください」と説明を受けて私達は奥へ進んだ

実際に中に入ってみるとゲームとは違って細部まで丁寧に作り込まれた装飾や 高そうな美術品たちが目を引いた 間取りも私の頭の中の記憶とは少し食い違っていた

薄暗い建物の中で一層照明を落とした部屋に入ると

二十畳ほどの書斎とシアタールームを兼ねた部屋のようで 壁の右側が一面本棚になっており古く分厚い本が綺麗に並べられていた

かつては活気があったであろう屋敷の立派な本棚には蜘蛛の巣と埃が遠目でも分かるほどに溜まり 反対側の壁に貼られた大きなスクリーンに映し出された古い映画の光がチカチカする度に蜘蛛の巣がどこからか入ってきた風に揺れるのが見えた

いかにも座り心地の良さそうな一人掛けの皮のソファーには屋敷の主であろうか 洒落たスーツを纏った骸骨が深々と腰掛けていた 彼は骨だけになっても品の良い紳士だと一目で分かった

横に置かれた小さな丸テーブルには高そうなコーヒーカップと食べかけのクッキーが置いたままになっている

屋敷の中は住人が亡霊になる直前の様子をそのまま保存しているようだ

どこを見ているか分からない骸骨の視線を気にしながら隣の部屋に移ると 先程の部屋とは違い綺麗で明るいバスルームだった

狭い空間はバスタブ一つで埋まっており 私の勝手な先入観だが西洋の人がシャワースペースを確保せずバスタブを優先させたことと先程の広々した書斎を思うと多少の違和感を覚えた

そんなことは何も気にしない夫はバスタブにお湯を貯めると飛沫を上げて豪快に飛び込んだ 泡風呂まで楽しんだ上にそこにあったブリーチ剤で髪を脱色し始める

彼の髪から色が落ち始め ついには月のような鮮黄色になった

壁一枚挟んだ隣の骸骨を思い出し バチが当たるのではとドキドキしていると

バスルームのドアがすっと開き 先程の案内係の女性が首から上だけ部屋へ入れるとこちらを見てニターっと不気味に笑った

なぜかは分からないが私はそこから二度と出られないような気がした