今回はお手持ちのPC上でRPN電卓をエミュレーションするフリーソフト合格をご紹介します。

 大変長らくお付き合いいただきましたこのシリーズも今回でとりあえず最終回です。


EMU48
 EMU48というフリーソフトを使用するとHP-48GXなどをウインドウズなどでエミュレーションすることが出来ます。
 これは48GXなどのROMイメージそのままを使用して動作するため、48GXと同じものがPCに再現されます。
 ROMイメージはかつてHPから公開されたものが一緒にダウンロード可能です。

まったり☆エンジニア LIFE”

(1)必要ファイルの用意
 次のhpcalc.orgのサイトから、EMU48本体とROMイメージを入手します。
http://www.hpcalc.org/hp48/pc/emulators/
 ダウンロードするファイルは次の2つです。
emu48v148setup.zip
gxrom-r.zip
 このうち、EMU48はバージョンによってファイル名が違いますが最新のものをダウンロードして構いません。
 また、ROMイメージはとりあえず最新のRバージョンにしておきます。


(2)EMU48本体のインストール
 まずは2つのダウンロードした圧縮ファイルを解凍しておきます。
 つづいて、EMU48の圧縮ファイルを解凍して出来たセットアップファイルを立ち上げてインストールを開始します。
 インストールが開始されると、まずライセンスの確認画面が出ます。

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 続いて、インストール構成を選択する画面が表示されますが、ここはとりあえず「Full」を選択しておきましょう。

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 最後にインストールフォルダの入力画面になりますが、デフォルトでよければこのままで構いません。

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 以上でエミュレーター本体のインストールは完了です。クラッカー


(3)ROMイメージの変換
 エミュレーターをインストールしただけでは動作しません。次に本物のROMイメージをインストールしていきます。
 方法はEMU48.txtというドキュメントに書いてありますが、英語なので以下、方法をご説明します。
 ①まずは解凍したROMイメージをエミュレーターをインストールしたフォルダ(デフォルトは"C:\Program Files\HP-Emulators\Emu48")に移動します。
 ②つづいてコマンドプロンプトを起動します。スタートメニューの「ファイル名を指定して実行」をクリックしてコマンドプロンプトを「ファイルおよびディレクトリ名補完機能の有効」にして立ち上げます。(名前のところにcmd /f:onと入れます)
 ③コマンドプロンプトが立ち上がりますが、ここでフォルダをファイルがインストールされているフォルダに移動します。(cd "C:\Program Files\HP-Emulators\Emu48"と打ち込みますが、面倒くさいのでcd まで(スペースまで)入力したらEMUをインストールしたウインドウに戻り、フォルダを一つ上に戻してからEMUのフォルダをコマンドプロンプトにドラッグ&ドロップするとパス名が自動で入力されます)
 ④フォルダが移動されたら、ROMイメージの変換を開始します。(convert gxrom-r ROM.48Gと打つ)
 ⑤変換が完了したら、exitと打ってコマンドプロンプトを終了します。


 さあ、ROMイメージの変換も終わりました。以上でインストールは全て完了です。クラッカー


(4)エミュレーターの起動
 デフォルトだとスタートメニューとデスクトップにEMU48のショートカットが出来ていますので、これで起動します。
 起動するとスキンを選択する画面が出ますので、好きなのを選びます。起動後にスキンを変えたい場合はツールバーのView-Change KML Scriptから変えられます。
 このままだと、終了させるたびに状態の保存先を聞いてきて面倒なので、ツールバーのFile-SettingsでAutomatically Save Filesにチェックを入れておくとよいでしょう。


(5)エミュレーターを使う1 「行列の計算」
 EMU48はエミュレーターといっても本物のROMイメージを使用するものですから、本物と全く同じ動作をします。
 しかも、本物のように遅くはありません。ウインドウズに付属の電卓代わりに使えば大変便利。(だと思います!?)


 では、早速、前回TI-89 のときの連立方程式を解いてみましょう。

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 本物のときは行列入力画面を使用しましたが、今回は直接入力してみましょう。
 [[5,7][3,9]]と押してENTERで入力されます。

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 この状態で1/xボタンを押すと逆行列が得られます。

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 つづいて[[64][72]]と押して(ENTERは押さない)

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 ×を押すと掛け算が行われ、結果が得られます。

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(6)エミュレーターを使う2 「複利計算(TVM)」
 次にHP-17BII のときにやった複利計算(元利均等計算)をやってみましょう。
 このTVMの機能は48GXにもSOLVEメニューの中に組み込まれています。
 まずは「右曲がり矢印」ボタンを押してから7(SOLVE)を押します。
 するとSOLVEメニューが立ち上がります。

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 ここで、Solve financeを選ぶとTVMになりますので、求めるものを除き数字を入れてから、求めるところを反転表示にしてファンクションキーに割り当てられたSOLVEを押します。

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 なお、最初にメニューを開くときに「右曲がり矢印」を押しましたが、このときに「左曲がり矢印」を使うとメニュー形式ではなく、ファンクションキーで操作するタイプのSOLVEになります。(このときに最後に答えを知るときは「左曲がり矢印」を押してから知りたい変数のファンクションキーを押します)

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(最後に)
 このエミュレーターは実物より高速に、全く同じことが出来ますので、私はPCで作業するときには良く使います。(じつは実物はほとんど使いません)
 でも、今回、記事のために再インストールして感じたのは、インストールが少し面倒なことと、いきなり48GXを使うと挫折してしまうのではないかという懸念。
 48GXは遅いことを除くと、とても良いエンジニアの道具になるものなのですが、入力はRPNだけ、機能の呼び出しは今回ご紹介のとおり行列入力も、SOLVEも複数の方法があります。その辺が面倒に感じられ、敬遠されたりすると思いますが、数値解を求める道具としてはメラメラ最強メラメラの部類です。
 3ヶ月くらい毎日使っているあせると、多分便利に使えるようになると思いますので、お試しを。
 なお、マニュアルは次のヒューレットパッカードのサイトから入手できます。(英語ですが、本物にも日本語のマニュアルは無かったと思います)
http://h10025.www1.hp.com/ewfrf/wc/product?product=58443&lc=en&cc=us&dlc=en&lang=en&cc=us




 今までのヒューレットパッカード製に対して、今日はテキサスインスツルメンツ製の紹介です。
 TI-89は現在はTI-89 TITANIUMにモデルチェンジしていますが、さほど違わないと思います。参考までに。


(5)TI-89

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 方程式を因数分解してしまうパワー68000をCPUにした電卓を作ってしまうTIはその意気込みも素晴らしいと思います。
 これはもう電卓というよりも、計算できる数学の教科書みたいな機械です。
 じつはTIのこのグレードのものは「使えるか」、「使うか」ということを抜きに、触れてみていただきたいです。(今なら後継でNspireというのもあります)
 これと良い科学の教科書があれば、自然科学を学ぶ中学生とか高校生は世界を広げることが出来ると思います。宿題も出来てしまいますが。汗


(操作)
 ボタンの数の少なさがこの電卓の操作方法の方向性を示しています。

 シフトキー無しで操作できるのは四則演算まで、平方根すらシフトを押さなければ呼び出せません。そのシフトを押しても三角関数まで。他の機能はどう呼び出すかというとすべてメニューです。
 正確に言うと数式とコマンドを組み合わせて使います。なお、コマンドはメニューから呼び出しますので操作は面倒ではありません。
 表示はいわゆる数式通り方式とか自然表記方式とか呼ばれるもので、見やすい表示です。最近はこの表示の電卓が増えてきたらしいですが、89は表示がとても速いロケットです。
 次にキータッチですが、HPのずっしりしてクリック感があるのに比べて、TIは普通の電卓のようなペタペタした感じです。私はHPのほうが好きです。ラブラブ


(やってみましょう)
 では、連立方程式でも解いてみましょう。にひひ
 連立方程式は、私の実務ではあまり使いません。でも、年に何回かは使います。こういう頻度のことって忘れますよね。
 実務であまり使わないのは、様々なケースで測定値があるので、連立方程式で解きたいことはどの業種でも多いのでしょうが、同じような計測方法で誤差がある実測値を使って解くと、解が無かったり、測定誤差によって解も増幅されてとんでもないところに行っているからだと思います。教科書に載っている様な、オレンジ3個とレモンが5個というような誤差が無い事例などは現実には少ないためです。
 これを避けるため、変数を増やすと、手計算では解くのが面倒くさくなります。叫び
 さて、連立方程式は行列を使うとすっきりするのですが、そうめったに使うものでもないので、逆行列を求めるところとか、忘れます。また、2元式まではいいのですが、変数が多くなると、計算回数も多くなって「もうイヤビックリマーク」ってなっちゃいます。
 しかも、苦労して計算しても解が無かった場合などはショックで旅船にでも出ちゃうかもしれません。(ウッソー)
 では次のような2元式を。
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 これを行列であらわすと、次のような感じですが、

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 これを変形すると、こんな感じに、

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 面倒くさいのはこれ、逆行列です。まだ式が2つの2元式だからいいようなもの。これが3×3とかになってくるともうだめガーンです。
 この逆行列は次のようになります。

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 今回のケースを普通に手計算ショック!すると次のような感じになります。(前回のHP-48GX もこういう答えでしたね)

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 これができたら行列の掛け算を計算すると、次に答えが出てきます。

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 長かったぁ。ひらめき電球


 でも、TIなら次の写真のとおり。1発で逆行列から掛け算までやって答えまで持っていってしまいます!!
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 実はこの式、途中の逆行列のところで分数になってしまうので電卓で計算していくと答えが小数になるのですが、そんな引っ掛けも何のその。正しい答えを出しています。
 途中の逆行列だけを計算するとこんな感じ。

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 分数の状態で内部処理しています。前回の48GX と違いますね。


 電卓でここまでやるのは大したものだと思います。クラッカー
 使用者は計算練習や電卓操作練習をしているのではなく、答えを知り、その答えが意味することを考えるのが目的であるはずです。これこそもの作りの設計哲学ですね。
 このTI製、動作も速いのでレスポンスに不満を感じることはまずありません。


(まとめ)
 このTI-89シリーズ、私は国産はおろか、HPの電卓よりもはるかに高次元な物だと思っています。しかし、実はエンジニアの常用には向いていないとも思います。
 なぜなら、例えば56÷57ですが、

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 あら、そのまま!!
 ま、たしかにおっしゃるとおりなんですが、0.982・・・を知りたいのがエンジニア。むかっ
 緑のシフトキーを押してからENTERを押すと、期待した答え-近似解-が出ますが。近似解をパッと知りたいときには不便です。
 また、機能がたくさんあるので、キーボード表面の機能が少なくなっているのも、パッと計算するには向いていません。
 ただし、常用するもう少し小ぶりの関数電卓とは別に、グラフ電卓を持たねばならないのであれば、一番おすすめです。


 電卓で数式処理が必要かということを抜きにすれば、この電卓は他社製より、はるかにレベルの高い電卓だと思います。日本語マニュアルがつくのもありがたいというか、翻訳した心意気だけで心酔です。(全般にHP、TIともにマニュアルも親切に書かれている分、分厚いです)


(友情出演・HP-200LX)
 TI-89のソフトウェアの母体はDERIVEという数式処理ソフトです。今はウインドウズに移行していますが、かつてはMS-DOS版でした。(ver4まで)
 ということで、200LXにインストールしてみました。

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 ご覧のとおりです。上の行列の計算と、ついでに関係ないですが円のグラフを描いてみました。
 グラフィックは遅ーいですが、計算は十分実用的なスピードです。
 数式処理ソフトは電卓よりも簡単で高機能です。(当然最新のウインドウズ用のソフトはさらに使いやすいです。めったに使いませんが)


(最後に)
 エンジニアが使うには現代なら35sクラスのものが一つと、必要なソフトが入ったパソコンがあれば、とりあえず何でも不自由なくできるのかなと思います。パッと計算する電卓と、より高度で大量の数値を処理するコンピューターと。
 電卓だけで構成する場合は、大量のデータの処理は出来ませんが、手元用としてHPのHP-35sと、数式処理用としてTIの今ならNspireのCAS搭載機の組み合わせかなと思います。

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 なぜか、パソコン用数式処理ソフトは全般に高いのですが、ソフト・ハード込みのはずなのに電卓になると安いです。Nspireもアメリカでの価格は160ドルだとか。(その値段が一番すごいビックリマーク)
 高い数式処理ソフトを買うまでもないが、ちょっとした数式処理能力がほしいという方にはTI製の電卓はおすすめです。
 数式処理はたとえば、業務で使う数式をあらかじめ最適化したいというときに有効ですが、電卓は電卓、波形データをFFT(フーリエ変換、波形データからスペクトルに変換すること)させるなんていう絶対的なパワーはいつかは出来るようになるかもしれませんが、今は実用上期待できません。


 道具は何でもよいのかもしれませんが、使い手を選ぶ道具ほど、使いこなせる人が持ったときの能力は強力です。だいたい業務用はたいていそうなんでしょうが。
 一見、使いやすそうだ、良さそうだと思っても、慣れてくるとまどろっこしかったりします。また、はじめは良い印象ではなくてもだんだん無くてはならないものになったりしますから、道具は難しいです。(人もかなはてなマーク)

 関数電卓には普通のタイプと、グラフ描画能力などが付加されたグラフ電卓があります。
 グラフ電卓といっても、グラフィック画面だけではなく、各メーカー上位機種として様々な機能向上が図られています。
 ただし、これが使いやすいか(使えるか)は別問題、弊害として機能を呼び出すのが面倒だったり、動作が遅くなったりしてしまいます。ガーン
 現在ではパソコンが普及している上、はるかに高度な計算、解析機能を持ったソフトが簡単に手に入るので、電卓にそのような機能が必要かという問題があります。


 さて、今日の電卓はHPの48GXです。これも、一昔前の機種で、今は後継のより高機能なものに切り替わっています。当然、最新のものは大きく改良されていると思いますので、参考までに。


(4)HP-48GX

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 全体的には同時期の32sII17BII などと同じような材質、構造です。これらを大きくしたという感じ。
 操作の考え方も32sIIと同じような感じですが、拡張されてキーボードに入りきらない機能はメニューで呼び出すような考え方になっているので、パッと計算したいときも、あまり使わない機能を呼び出すときも、あまり考え込むことがありません。
 従来の関数電卓をその概念のまま、進化させていくとこういう感じになるといった感じでしょうか。
 17BIIと同じく、最上段のキーはファンクションキーになっており、その画面で適宜機能が割り当てられます。これは、複雑になった装置の操作で分かりやすい操作をする良い方法だと思います。

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 基本的には従来の関数電卓と同じで、一つの数字を入れてそれを演算していきます。数式エディタもありますが、基本的には数式を入れて一気に計算するということはあまり想定されていないような感じがします。汗
 次回、TI-89のときに詳しく行きますが、次のような行列を計算してみます。
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 まず、MATRIXを押して、行列入力画面にし表計算ソフトの要領で入力します。

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 入力が終わると、次のように行列が一つのスタックに入ります。
 ここで、1/xを押すと次のように逆行列が出ます。一応、行列も扱えるという感じでしょうか。

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 グラフ電卓なのでせっかくですから、グラフ音譜も書いていただきましょう。
 グラフはご覧のとおりグラフモードにして諸元を入力してから描画させます。

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 ここで便利なのは、X,Yトレースが付いているところです。トレースモードにすれば、線に沿って数値が表示されます。これって普通についている機能なんでしょうか!?

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 つづいておなじみSOLVEですが、数式と変数が一覧できるという点で、32sIIや35sクラスのものよりは使いやすいかもしれません。このクラスですから本当はもう一工夫がほしいところではあります。


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(まとめ)
 48GXはキーボードに割り当てられた機能で計算する既存の電卓の操作性と、拡張された機能はメニューで選ぶという複合的な操作方法で、当時のHPの意欲作であったと思います。
 この操作性はなかなか良く、基本的な関数はいちいちメニューや最小限のキーの押し下げ回数で計算することが出来ます。
 メニューから呼び出す機能にしても比較的分かりやすく使うことが出来ます。
 しかしながら、分かりやすくということと慣れたあとに効率的であるというのは別物です。分かりやすい操作がかえって非効率的なインターフェースになることもよくあること。ダウン
 この点、HPは良く使う機能はキーで、あまり使わない機能はメニューでという方法をとっています。
 また、この48GX、当然、RPN入力の機種なのですが、スタックが無限(多分・・・あせる。4段ではないです)です。これはネストが多い数式では便利かもしれません。このスタックには1段に数式やら、上記行列やら様々なものが入るので、使い様によっては高度な使い方も出来るような気もします。


 さて、でもこの48GXは常用するには大きな問題もありますビックリマーク
 全般に48GXは動作というか、レスポンスが遅いのです。計算自体は電卓としては遅くはないのですが、キーを押してから次の入力までが遅いのです。下手をすると足し算をバシバシするだけで砂時計が表示されてしまいます。砂時計
 ですので、キーボードに出ていない機能を呼び出して使うのが少し億劫です。グラフもかなり遅いので、グラフ電卓全般にいえますが実用性は疑問です。
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 以上、HP-48GXでした。


 次回はTIです!


 35sの前の機種32sIIです。
 年数がたつと壊れますしょぼん。(長年使ったので当たり前かも知れません)


(3)HP-32sII (の修理)

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 今は機能的には同等以上の35sが販売されているので、これを取り上げる必要は小さいのですが、表示とか、キーの配置に慣れているとかで使い続けている方もいるかもしれません。
 で、問題なのが、長く使っていると、32sIIってキーが接触不良になるんです。
 しかも、そこまでしなくてもと思うくらいに手間をケチって作っているものなので、分解修理も容易ではありません。
 接触不良の原因はケースの上と下のカシメが弱くなってきて、キーボードと基板の導電スポンジ製のジョイントが緩むためです。この場合、液晶の下の辺りを押さえながらキーを押すと正常に動作するので確認できます。
 しかし、ネジで留める設計のところをプラスチックを溶かして繋いでいるため、まともに分解することが出来ません。

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 機能を回復するには内部の導電スポンジに一定の圧力がかかるようにすることです。ひらめき電球
 以前やったことなので、写真等はありませんが、参考までに手順を記載します。


 ①キーボードの金属カバーを外す(粘着テープで貼られています、曲がりやすいです、慎重にしないと曲がります、というか多分曲がります)
 ②溶着でカシメられている電池ボックス内と、①の表面カバー裏のところをドリルビットをピンバイスに付けたものなどで慎重に薄く削り取って分解します。(少しだけですビックリマーク)
 ③LCDの下の接点部を清掃し、粘着シートのついた薄いフェルトなどで枕を付けて圧力がかかるようにします。
 ④組み立ててドリルで削ったところを皿頭ねじのφ2xL5かφ2xL4で固定します。(②で少しでも削りすぎてしまうとこれができなくなります)

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 ⑤外していたキーボードの金属カバーのもともとの糊を綺麗に洗い落とし、強力両面テープを前面に張りなおして貼り付けます。(キーの穴がたくさん開いているので、それに合わせた形で両面テープを作っておきます)


 結構面倒くさい上、工具(ピンバイス、ビットひとそろえ、0か00くらいの+ドライバー、ほか)や、材料が一通りある前提で、さらに思い出の品を傷つけることにもなりかねませんので、この修理、ぜんぜんお勧めしません。
 私の場合は、HPがRPNの小型関数電卓を作らなかった時期で、やむを得ず、修理をしました。
 いまなら、35sが出ているので、新しいのを買ったほうが良いと思います。


 前回 の35sに続き、2回に分けてヒューレットパッカード社のHP-17BIIHP-32sIIをご紹介します。
 実はどちらも前の機種で、現在、17BIIは17BII+、32sIIは35sになっています。17BII+は触ったことが無いので、17BIIで説明していきます。たぶん、そんなに変わっていないと思います。(予想)


 32sIIは関数電卓で数年前に製造中止になり、現在は35sが販売されていますが、まぁ何ですからご紹介します。(次回予定)
 
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 上の写真、左が17BIIで右が32SII、見た目は兄弟。当然、機能はぜんぜん違いますが、操作性も違います。どちらも実務で使った経験からすると17BIIのほうが数段洗練アップされています。


(2)HP-17BII

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 これは金融電卓です。
 私がなぜ、これを持っているかというと、以前、金融機関に出向していたことがあるからでありまして、そのときに、RPNではない電卓が使いにくいため、買ったものであります。
 そのちょっと前に19BIIというほぼ同じ機能の金融電卓を買ったのですが、大きくて使い勝手が良くなかったので、すぐに17BIIに買い換えました。
 下が19BII。機能はほとんど17BIIと同じです。

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  さて、金融電卓は関数電卓に比べて認知度が低いのですが、外資系の銀行だと結構使われていると思います。
 普通の電卓に次のような機能が追加されています。
 ・複利計算
 ・キャッシュフロー計算(入出金の一定ではない複利計算、あまり使わない)
 ・伝票算用の集計機能(何となくうれしい線形回帰付き!)
 ・日数計算機能
 あとHPの場合は珠玉のSOLVE機能が付いています。


 では17BIIですが、HPの関数電卓系と違い、使い方はとてもシンプル音譜。かなり洗練されたユーザーインターフェースだと思います。


○複利計算が自由自在
 複利計算は難しくは無いのですが、電卓を叩く回数が増えるので面倒です。なので、つい、単純計算をしてしまったりしますが、これはいけません。結構、誤差が大きくなります。
 日常生活では自動車や住宅のローンぐらいでしか使いませんが、金融実務では逆に入出金から運用利回りをはじいたりします。
 では複利計算用の機能「TVM」から。身近な例で。

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 年12回の返済、あるいは積み立てと元加利子で、期末払い状態(融資とかの時用)であることを表示しています。ここで、Nに期数(月数)I%YRに利率(年利)PVに元金、つまりは借りる場合はプラス○百万とかを入れます。そしてPMTが毎月の返済額FVが期間経過後の元金、つまり完済するならゼロを入れます。
 これはPMTが一定のもののみが対応可能なのですが、いずれの数値も対等に入力、あるいは出力可能です。
 たとえば、自動車ローンをイメージして3百万円を年利3%で借りて3年で完済する場合、毎月の支払いはいくらか知りたい場合は、次のとおり入力します。
N= 36
I%YR= 3
PV= 3,000,000
PMT= 入力しません
FV= 0
 入れたら最後にPMTを押せば、毎月の支払額PMT=-87,244と出ます。これに36を掛けると314万円。14万円も利息を払うんですね。


 では次の例、一昔前の消費者金融をイメージして百万円を年利29.6%(こんぐらいでしたよね?)で借りて月3万円ずつ払ったら何年で完済かという場合は、次のとおり入力します。
N= 入力しません
I%YR= 29.6
PV= 1,000,000
PMT= -30,000
FV= 0
 入れたら最後にNを押せば、N=70.88・・・と出ます。これに3万円を掛けると213万円。おそるべし、100万円借りただけなのに113万円も利息を払うんですね。
 ここで毎月の支払いを5千円下げて25,000円にするとどうでしょうか。N=177.18・・・。実に完済に14年以上を要し、総支払額は442万円となります。おそろしいぃぃ叫び
 こんな感じに複利計算を自由自在にできちゃいます。
 融資の例でしたが、同じく、債権なんかの運用利回りを逆に計算したりすることも可能です。この場合は期首払いにしたりします。


○SOLVE
 17BIIにもSOLVE機能が付いていますが、式を入れると変数がファンクションキーに割り当てられて表示されるため、関数電卓系についているものよりもかなり使いやすいです。
 このSOLVE機能、式を入力しておくとどの変数についても解く事が出来る便利な機能です。(でも、反復法による数値解法なので意地悪はしないでください)
 実は上記TVMもSOLVEの特化したものです。

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 使い方はTVMのときと同じです。

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 ただ、惜しまれるのは工学系の関数がほとんど無いので、関数電卓としては使えませんしょぼん。(金融で使うN!とかはあるがsinすらない)


○集計(統計)
 300枚とかの伝票を締め上げるとき、この機能が便利です。(今ならエクセルで入力していくのが一番良さそうですが)
 片っ端から数字を入力していくと合計が表示されます。電卓の中でリストになっているので、確認したり修正したりするのも簡単です。伝票算は一番、ソロバンが速いと思いますが、ソロバンだと2回はおかないとダメなので、2回目でソロバンに逆転できますフラッグ
 このLIST STAT機能、本当はそんな低次元の機能ではないと思います。なぜなら、伝票算は1変数の集計ですが、2変数(要はX,Y)にすると線形回帰が出来るのです。これは入力したデータを1次式とか対数式とかに近似するものなのですが、データに潜む法則性を探ることが出来ます。
 エクセルが入ったパソコンが近くにあればそっちのほうがいいかもしれませんけど。


○ほか
 17BIIでは操作はRPNだけではなく、普通の電卓と同じ方式へも切り替えることが出来ます。
 また、外付けのHP電卓専用のHP82240Bという赤外線プリンターへデータを送信する機能が付いています。(TVMの途中経過とか、集計リストの数値とか)
 このプリンター、レシートみたいな感熱紙に印刷するかわいいプリンタなのですが、このプリンターや用紙が国内で販売されているかどうかは分かりません。

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 いかがでしょうか。銀行にお勤めの方には、HP-17BII+はこっそり持っていただきたいです。複利計算をTMとかでやってるなら絶対早いです。
 でも、金融電卓でもHP-12cは実務に使うにはちょっと原始的過ぎると思います。(一言で言うとアメリカ人のソロバンでしょうか?)
 

 前回 からだいぶ経過してしまいましたが、電卓についてご紹介していきます。
 大学でHPの電卓と出会って以降、私はアメリカのヒューレットパッカード(HP)社の電卓を愛用しています。
 今回からそのHPの電卓と、同じくアメリカのメーカーのテキサスインスツルメンツ(TI)社の電卓を実機を交えてご紹介していきます。


 ここに紹介する電卓は、そのへんで売っている電卓と違い、どれも本当に数を大切に考えている電卓です。当然、電源を切っても、計算結果がクリアされたりしません。
 電源などの基本的なところから、より高度なところでも正直、日本製よりはるかに上を行っていると思います。(品質を除く)ガーン
 やるなぁ!、米国エンジニア。グッド!


1.HPとTIの違い
 この2社の電卓、似て非なるものです。表面的には次のような違いがあります。
(1)入力方式の違い
 HPは低価格路線以外は基本的にRPN入力というちょっと変わった入力方式です。別に難しいものではないのですが、電卓の操作は体が覚えてしまっているので、慣れるまでは足し算すら手間取るかもしれません。ただし、3ヶ月ぐらい我慢して使っていると、物凄く効率的に計算できるようになります。これはぜひ、買って試してください。
 対するTIは基本的に数式どおり入力、普通の表示の電卓もありますが、基本的には自然表記数式で表示されます。
(2)キータッチの違い
 伝統的にHPはクリック感が大きいです。対するTIはペタペタという感じで国産の電卓に近いです。
 なお、それぞれ低価格路線の製品は他社OEMのものが多いため、すべてのシリーズがそういうわけではありませんので。
(3)求める答えの違い
 これはシリーズによってもキャラクターが違うのですが、基本的にはHPは数値解を求める方向、TIは解析解を出来るだけ求めるような方向性を持っているような気がします。
 この部分が決定的な違いです。エンジニアにHPが好まれるのはこの辺だと思います。


2.各機種のご紹介
 ここの感想は独断ですし、私の使い方の範囲でのものですのであしからず。
(1)HP-35s

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 グラフ電卓でないRPN入力の関数電卓は現在、このHP-35sのみです。その意味からありがたい存在といえます。
 これが発売される前は、製造中止となったHP-32sIIにかなりのプレミア¥がついたりしたそうです。電卓は道具であり、エンジニアにとっては消耗品でもあるので、そのような状況は好ましくありません。
 さて、この35s、従来の32sIIからの進化点は複素数を手軽に扱えるようになったところなどでしょうか。
 たとえば、次のとおり1つの数値として複素数を扱えます。3i3

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 この状態で極座標表示に切り替えるとこのとおり、4.2θ45°

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 表示桁数については以前より使いにくいような気がしますが、我慢してください。
 この機能、私には測量などに便利な機能です。複素数(座標)とベクトル(トラバース)を三角関数を意識せずにシームレスに行き来できる上、演算も出来てしまう。うふふラブラブ

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 また、「RPN入力はちょっと」という方のために普通の電卓のような入力方式に切り替えることも出来ます。このALGEBRAICモード、私は使いませんが、だれかに「電卓ちょっと貸して」などといわれたときには便利かもしれません。

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 さて、HPの電卓にはSOLVEというちょっと便利な機能がついています。私はRPNと同等にHP電卓の魅力の一つだと思っています。
 これは数式を入れてしまえば、どの変数についてもプログラムなどすることなく解くことが出来る機能です。
 たとえば簡単な例ですが、次のような数式を考えます。

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 この式について、Yを常に答えとして求める場合はこの数式のままプログラムすればよいのですが、Y(とあと1つの変数)を入力してAまたはBを求める場合は式を変形して、それぞれプログラムを作らねばなりません。
 ですが、SOLVE機能を使えば、最初の式を入れておくだけで、解く時にどの変数を解くのか聞いてきますので、いちいち数式を変形するとかプログラムを入力するなどということが必要ありません。
 違う数式での例ですが、こんな感じに聞いてくるので、

まったり☆エンジニア LIFE”

 入力してやると最後はこんな感じに答えが出ます。

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 実はこのSOLVE機能、35sとか32sとかの関数電卓に付いているものより17Bなどの金融電卓についているもののほうが使いやすいのですが。
 過剰な期待をしなければ、便利な機能です。