イギリスを知る10のキーワード

 

監修:イギリスを知る会

 

執筆:君塚直隆・藤田治彦・東山あかね・立川碧・

新井潤美・小尾光一・北野佐久子・中瀬航也・小関由美

 

2019年9月 発行

ダイヤモンド社

東大阪図書館より貸出

 

通勤中に読んでいた本を読了しました。

現代イギリスの基盤となったヴィクトリア朝を通して

イギリスの魅力を知る、というコンセプトの本です。

ヴィクトリア女王、シャーロック・ホームズ、

アフタヌーンティーなど様々なキーワード毎に

各著者が記述するアンソロジー形式の本です。

イギリス文化やヴィクトリア朝に興味があるけど

あまり詳しくないという人に

とっかかりとしてお薦めの本です。

 

逆にヴィクトリア朝研究の観点からは

本書だけでヴィクトリア朝を語るには

いささかバランスに欠けると思います。

食事に関わる章は、アフタヌーンティー、

シェリー酒、食と三章もあるのに

英文学や美術はそれぞれ一章のみでした。

また各寄稿者は各自の専門分野での著書を出しており

その内容と重複する部分がありました。

 

個人的に楽しめたのが

新井潤美氏担当のコックニーの章です。

11世紀から客引きとして存在していた

コスタンガーのことは初めて知りました (p.110-111)。

また氏は「アイ・フェア・レディ」のイライザが

上昇志向と見なされることに関し、

イライザは単にコックニー以外の英語を学びたいだけで

身の程知らずの人間ではないと述べています。

むしろそんな彼女を面白半分で淑女にする

ピカリング大佐とヒギンズ教授の

無責任さと思慮の浅さを批判しています(p.104)。

この批評が良かったです。

 

もう1つ好きな章が北野佐久子著の「食」です。

氏の著作は

ビアトリクス・ポターの本を読んだことがあります。

 

 

 

この章の中でもポターのエピソードが紹介されていました。

ポターがウィリアム・ヒーリスと結婚した時、

亡き婚約者、ノーマン・ウォーンの姉であり

ポターのよき友人、ミリーに

かの有名な「ビートン夫人の家政書」を

プレゼントとしてリクエストしたそうです(p.167)。

ポターの新婚生活への意気込みが感じられます。

 

また中瀬航也著の「シェリー酒」の章で驚いたのですが、

キリスト教ではお酒の格付けがあり、

カソリックのスペインではお酒のブレンドが

宗教的に禁じられていたことです(p.189)。

 

少し残念に感じた章は「ウィリアム・モリス」です。

モリスの人生を彼のゆかりの地とともに巡る、

という内容でした。

邸宅の事は伝わりますが、肝心のモリスの思想、

文学や美術への傾倒、アート・アンド・クラフト運動には

軽くしか触れられていませんでした。

著者はモリスの専門家だけに惜しい気がします。

 

英国文化、特にヴィクトリア朝文化について

まず触れてみたいと思っている方に

読みやすい入門書としてお薦めです。