誓約書を提出しないことを理由とする解雇の違法性 | ★社労士kameokaの労務の視角

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ー特定社会保険労務士|亀岡亜己雄のブログー
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 派遣元会社Y社と平成24年5月21日雇用契約を締結したXが雇用契約を結ぶときに必要な書類(入社誓約書、賃金の一部控除に関する協定書)を提出しなかったとして、雇用されて3日後(試用期間中)にY社に解雇されたことから、Xは、解雇は無効であるとして、他社に就職する前までの賃金の支払を求めました。

 

〔Xの主張〕

誓約書や協定書の提出を拒否したことがない。

・協定書の作業服代の控除は合意できない。

 

〔Y社の主張〕

・誓約書等の提出を拒んだことは、「成績不良で、社員として不適当と認められた場合」に当たる。

・Xは平成24年5月18日から、派遣はあやしいなどと発言し、社員としての適正に問題がある発言があった。

・Y社は守秘義務の履行に関する誓約書を提出させ、派遣先企業に対し秘密保持の確保を図る義務を負っているから、誓約書の提出がないことにより業務上の不都合が生じている。

・Y社は誓約書が提出されないことで緊急連絡先の把握ができず、安全配慮義務が履行できない状態であった。

・Y社はXについて、「本規則または雇用契約の定めにしばしば違反した場合、あるいは重大な違反があった場合」に当たる。

 

 裁判所は、誓約書等の提出を拒んだ事実を認定したものの、「協定書は労使間の協定文書であり、誓約書は遵守事項を誓約する文書であり、任意の提出を求めるほかないものであって、業務命令によって提出を強制できるものではない。Xが誓約書等の提出を拒否したことは業務命令違反とすることはできない」と判断しました。

 

ただし、誓約書を提出しなかったことが、誓約書に書かれた内容を遵守しない旨を表明していると評価できる場合やY社の円滑な業務遂行を故意に妨害したと評価できる場合には、社員としての適格性の問題が生じ得るとしています。

 

このあたりが一つの線引きのようです。したがって、「社員として成績不良で、不適当」には当たらないと判断しました。

 

そのほかの点ついては次ように判断しています。

➀契約締結の3日前に「派遣はあやしい」との問題発言があったことについては、その発言が問題とするならそもそも雇用契約を締結しなかったはずであり、契約締結3日後に解雇する理由にはならない。

➁誓約書等の提出がないことで業務上の不都合が生じていたことについては、誓約書の提出がないまま3日間勤務させており、その間、具体的な問題が生じていた様子はうかがわれない。

➂誓約書の提出がないことで安全配慮義務が履行できないことについては、安全配慮義務は把握できた情報の限りで果たせばよいので、業務上の不都合が生じていたとは認められない。

➃「本規則または雇用契約の定めにしばしば違反した場合、あるいは重大な違反があった場合」に当たることについては、Y社はどの条項に違反したか特定していないし、違反があっても、重大なものにあたるとは考えられない。

 

以上のように、誓約書等の提出は、任意のものであり、業務命令として強制できないこと、誓約書を提出しないことのみを理由に解雇はできないようです。

 

(東京地裁平成25年12月3日判決 アウトソーシング事件/労判1094号85頁)