髭はもともと個人の趣味・嗜好に属することですから本質的には自由です。とはいえ、職務上影響があり、規制する必要がある場合もでてきます。
本人の自由だから全く規制することができないというのも企業にとっては納得できない話です。一方、いかなる髭、いかなる業務でもすべて髭禁止とされるのでは、従業員も納得できないことになります。
ポイントになるのは、髭を規制する必要性が経営上どのくらいあるのかになります。少しでも影響があるからといって頑なに禁止するのはやりすぎというケースもあります。
イースタン・エアポートモータース事件では、ハイヤー運転手の口髭について争われました。判決は、「ハイヤー営業のように多分に人の心情に依存する要素が重要な意味をもつサービス提供を本旨とする業務においては、身だしなみ、言行などが企業の信用、品格保持に深甚な関係を有するから、他の業種に比して一層の規制が課せられるのはやむを得ない」としました。
ただし、禁止される髭は、「不精ひげ」、「異様、奇異なひげ」に限定されるとし、この事件では口髭をそる必要はないと結論しています。先の経営上の必要性とは、髭を生やすことが、対象労働者の従事する業務にどれだけ影響するかということとその結果、会社が受けるマイナス評価の程度ということになります。
そのうえで、規制をすべきかどうかを検討し、規制が必要ということになれば、髭の内容等を含めた規制内容を服務規定に規定することになります。その範囲内での指示・命令に限定されると考えられます。
飲食店やホテルマンなど職種によっては、明らかにマイナス・イメージの影響、髭が食材や部屋に付着しクレームになるおそれなどから禁止することは、企業の品位保持、お客様との関係から認められる可能性が高いと思われます。
見た目にきたない髭は、接客関係の業務においては、教育・指導の対象になりうる可能性はあります。
職種と顧客や企業イメージに対する影響の点から客観的に規定することが肝要かと思われます。鬚をはやしたことが、会社や経営者あるいは上司が好きではないとの感情論を根拠にした理由付けは禁物です。
鬚をはやす、そらないなどの行為によって、即、経営上の利益が侵害されるわけではない場合には、企業秩序違反とも言えないようです。