呉明益『歩道橋の魔術師』読みました | J'aime・・・

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私の好きな台湾、五月天、そして宝塚。
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  台湾でもっとも高く評価される、実力派作家:呉明益(ご・めいえき/ウー・ミンイー)さんが描く連作短編集『歩道橋の魔術師』を読みました。今までに、台湾が舞台の小説を読んだことがあるのですが、台湾人作家の日本語訳本は初めてです。原書は「天橋上的魔術師」というタイトルで2011年 12月 に台湾で刊行されています。
呉明益『歩道橋の魔術師』
『歩道橋の魔術師』(白水社)2,100円(税別)
 呉明益 著  天野健太郎 訳

 この本は、1961年から1992年にかけて台北の西門町から台北駅をつなぐ中華路に実在した8つの棟から成る大型 商業施設「中華商場」で子供時代を過ごした人たちが40代の大人になり当時を回想する連作短篇集です。「連作短編集」ということで、どの短編の舞台も「中華商場」であり、子供たちが恐れをなしていたマジックをする魔術師が出てきます。そしてどの子どもたちも魔術師と関わっています。また、短編の所々に同じ人物が登場するので、人間臭さとともに、同じ時間を人々が過ごすさまを第三者的に少し高い場所から見ている錯覚に陥ります。魔術師の言葉に「世の中にはずっと誰にも知られないままのことだってある。人の目が見たものだけが絶対じゃないんだ。時に死ぬまで覚えていることは、目で見たことじゃないからだよ」というものがあります。この言葉、ちょっと怖いですけど、「そうかもしれない」と伝わるもの、納得できるものがありませんか?きっと、そんな経験を私達も子供時代に経験しているからだと思います。子供時代に誰もがどんな形にせよ経験した思いや、誰にも言えない秘め事(言ってはいけないことだと子供ながらに思った経験)、兄弟や友の死に遭遇して思うことなど、郷愁を感じながら読むことが出来ます。凄く惹きつけられる物語です。

 この本の表紙は、在りし日の「中華商場」の光景です。この白黒写真、「松下電器」のネオン看板から大いなるノスタルジックを感じます。物語の中からは、肉まん屋、お粥屋、クリーニング屋、レコード屋、仕立て屋など、当時の「中華商場」に暮らす人々の様子が鮮明に伝わってきます。当時の台湾を知っている人も、そうでない人も、ぜひ一度読んでみて下さい。まるで「中華商場」に自分もいる様な錯覚をします。空気、匂い、そして、猥雑さや、貧しさもすべて感じることが出来ます。