避けられない病気は撥ね返せばいい。
その病気を撥ね返す力、レジリエンスについて、メンタル関係の医学の専門誌、日本精神神経学会の雑誌で特集が組まれていました。
学生のとき、後輩がこのあがり症(シャイな傾向)とレジリエンスについての研究をやっていて、とても面白かったのを覚えています。
自分は人の心理における健康な側面に興味を持っていて健康心理学会に入っています。
メンタル関係の医学の雑誌にもこうして取り上げられて、非常にうれしくおもいました。
同じ交通事故にあっても、PTSDになる人とならない人がいます。
PTSDとは重大な心理的ショックを受けた後に生じる、メンタル系の不調の一種で、心的外傷後ストレス障害(PTSD: Post-traumatic Stress Disorder)の略語です。
PTSDの診断が下されるためには、心理的出来事の後1ヶ月以上経っていないといけません。
1ヶ月以内に生じているPTSDに似た病態を急性ストレス障害(ASD: Acute Stress Disorder)といいます。
オーストラリアの心理学者ブライアントらは、ほぼ同じ程度の強さのバイク事故に遭った患者さんのうち、この急性ストレス障害になった人たちとならなかった人たちを比較しました。
事故 → 脆弱性あり → 急性ストレス障害になる
事故 → 脆弱性なし → 急性ストレス障害にならず
この研究では事故の程度はほぼ同じであったので、真ん中の脆弱性というところに注目しました。
脆弱性とは、ある病気のかかりやすさに関係する特徴のことです。
ストレスによって刺激を受けた人が病気になるには、その病気特有のかかりやすい特徴をすなわち脆弱性持っている、とする考え方をストレス脆弱性モデルといいます。
1980年代にメタルスキーが唱えた学説で、現在の精神疾患の研究の基礎モデルとなっていて、さまざまな精神疾患に対する理解が深まるきっかけとなりました。
ブライアントらの研究によると急性ストレス障害にかかった人たちは、かからなかった人たちに比べ、「心配しやすく」「自分を責めやすく」「気晴らしがあまりできない」「事故のことを思い出すと頭から追い払いにくい」という傾向がみられました。
こうした考え方の傾向や頭の中をコントロールするやり方を変えれば、急性ストレス障害や、類似するPTSDにかかった人を回復させることができると考え、マンチェスター大学のウェルズとその仲間は、PTSDに対する特異的な認知療法を開発し、その効果を今年検証し、効果があることが実証されました。
はじめに出たレジリエンスの考え方は、この反対の考え方です。
病気になりにくい傾向、病気を撥ね返す傾向を研究する分野なのです。
先のブライアントの研究の図式に当てはめたら以下のようになります。
事故 → レジリエンス弱い → 急性ストレス障害になる
事故 → レジリエンス強い → 急性ストレス障害にならず
レジリエンスの例を挙げてみましょう。
レジリエンスがどれだけあるかを測る方法があります。
コーナー-デヴィッドソン・レジリエンス尺度です。
全体を表示するには、表をクリックして下さい。
各グループの平均点
一般人口:80.4
プライマリ・ケア:71.8
精神科外来患者:68.0
全般性不安障害(心配症):62.4
うつ病:57.7
PTSD:47.8
今回やったレジリエンス尺度の得点が低くてもひどく心配することはありません。
レジリエンスを向上させる方法があります。
1.コーナー-デヴィッドソン・レジリエンス尺度の各項目を見ます。
2.たとえば、「1変化に適応できる」が低くてその部分を上げたい場合、「変化にちょっとでも適応できていた状況」はどんなのがあったか思い出します。
3.そしてそのときに、「a自分が何をしていたのか?」「bまわりはどういう様子だったのか?」を思い出します。このaとbが分かれば、その状況を再現することができるからです。
たとえば、「就職したてで新しい職場になれずに不安でいる時に家でペットの犬を抱いていたら自然に不安が和らいで、安心してぐっすり眠れて、翌朝すっきり会社に行けて、慣れなかった職場の人とも打ち解けられるようになった。」みたいな経験を思い出します。
aは「自分は犬を抱いた」bは「周りの様子は家にいた」ですね。
したがってこの人ならば家で犬を抱いてみるのです。
4.そして思い出したaとbの条件を再現したら、変化に適応できるかどうか試してみます。
5.変化に適応できていたら、そのやり方は今でも通用するやり方なのでまた使い、適応できていないなら、また3.に戻ってaとbの条件を再現してみます。
6.もし上手くできていた状況を自分で思い出せない場合はどうするか?
家族や友人に聞いたらなんて言うだろう?って想像するのもいいと思います。
ペットを飼っている方ならペットが喋れたら何ていうだろう?って想像するのもいいと思います。
直接聞いてみるのもいいでしょう。
いろいろ教えてくれるはずです。
上手に教えてくれそうな人を選ぶのもポイントです。
先の脆弱性モデルに基づくカウンセリングだと、症状を軽減し症状の悪化を防ぐことに重点を置かれています。
一方レジリエンス尺度の項目を見てください。
「親密で安心できる関係」「物事のユーモアのある側面を見る」などなど、生活が豊かで楽しくなる要素が多分に含まれています。
これらの要素を増やしていけばいくほど生活に潤いがでて充実してくるのが分かると思います。
現在特に病気にかかっていなくても、レジリエンスを伸ばす努力をしていることで、病気を防ぎ、かかっても回復を早め、生活を充実させることができるようになるのです。
広尾レディスカウンセリングルームでは、このレジリエンスに基づくカウンセリングも行なっています。
興味のある方はお問い合わせください。
PS広尾レディスカウンセリングルーム