溟濛散歩 -9ページ目

溟濛散歩

どうにもたちゆかない日々にめぐらす心情のトロ、兼カウントダウン。

冗談はよせと言いたくなるほど吐き気が止まらない。サルトル曰く「嘔吐」だなんてまったく腐った現実なんてステレオタイプなものの見方だって、じゃあ綺麗な世界を見せ手遅れなんて、変換したら手遅れだって、こういう偶然的な出来事に真実めいた物が見えてくるなんていうのも幻想です。わたしはずっと気づいてます。意味も論理もつながりも文脈も、なにもかも透明で見えないのに、見えてるって、皆、気づいてないんだ。嘘ついてる事にすら気づいてないから哀れではない。むしろラッキーだ。おめでとうあなたがたは幸いである。
しかしその気遣いが逆に残虐なんだよ?
この「だよ?」って感じの押し付けがましさってなんだろう。すごく女子を感じる。結論、気持ち悪い。
結論急ぐ事なかれ、意味は無いなんて言葉に意味を感じてしまう事が危険なんだよ?曰く天丼である。よしかわひなのの「ホットミルク」を聴けば分かるさ。
しかし「天下の国営放送ですよ?」みたいなものいいはもはや有効ではないな。nhkprもそうだ。おしなべてつまらないと感じるのは私の感性の鈍さ故だなどと書けば反省してるようにみえますか。
ああそうだ錯乱しているように書いているがその実錯乱しているんだ本当に。真実を言えば、錯乱する事を自分に許しているに過ぎないから、本当に錯乱してるわけではない。
うらぶれた気持ちで映画館を出たのは、夜の11時頃だった。
居酒屋の客引きで賑わう繁華街に出て一番に目があったのはひとりの少女だ。
まっすぐにこちらを見据える瞳は暗い波長で僕の気持ちの低い場所でシンクロしたようだった。
年の頃はどうみても幼く、まだ中学生か高校生ぐらいに見えた。
とはいえ足を止めるには不自然だったので、僕はそのまま道を曲がり、駅に向かって歩き出した。
ポケットに手を入れて、うつむいて。
世界を少しずつ切り取るように、僕は歩いた。
歩を進めるたびに、どうしても頭に浮かぶのは、さっきの少女の事だった。
二十歳をこえてなお童貞で、女とろくに話したこともない僕には、彼女があの場所で何のために座り込んでいたのか、全く想像できなかった。
いや、というより浮かぶ妄想がどれも嘘臭く、僕にとってのリアリティの範疇を超えているものばかりだった。
たとえば、もしかして家出少女なのかもしれないと考えてみると、少女の望みは一晩の宿の確保である。そしてその対価として彼女はセックスをしたりするのだろうか、と考えたものの、それは童貞っぽい飛躍した発想かもしれないと一連のイメージを打ち消すと、恥ずかしさで呼吸が細かくなった。
童貞の悩みは童貞である事であるが故に残酷だ。
「この街に処女はいねえのかあ!」
僕は叫んだ、心の中で。

私は深呼吸してもう一度彼のそばに立った。
人もまばらな放課後の教室で、いわゆる「おとなしい女子生徒」が「ルックスのいい男子生徒」にふいに起こしたアクションに、何人かの生徒が顔を上げた。
誰かを好きになる、という行為自体に長い事ロックをかけているのは傷つきたくないからだ。
恋は罪悪である。古い文豪みたいな言葉が頭をよぎる。
それでも幼い頃、何か悪い事をしてしまったときの、あの胸の奥に何かがひっかかる感じが、彼の匂いを感じた瞬間に一気に思い出され、思いは確信に至った。
私はこの人が好きだ。
いきなりそばに来たあげく何もしゃべらない私に彼は「どうしたの?」と尋ねたが、その屈託の無さそうな笑顔に対して私は言葉を失った。
急速に冷めたのだ。
彼にではない、私自身にだ。
長年かけて自らにかした桎梏はどうやら頑強で、気持ちが強ければ強いほど、私自身にかかる負荷が強くなる。誰かを少しでも気に入る度に私は私自身を嫌いになる。
そしてやっぱり彼の事も好きになれなくなる。
二秒ほどたった。
その間、夕日の差し込む教室は、驚くほど静寂に包まれていて、その二秒がコミュニケーションにおいてぎりぎり無視できないレベルの不自然な間が空けたのだった。
私は何かせねばと思い、とっさに露骨に不機嫌な顔をつくった。
そうする事によって彼に嫌われようとしたのだ。
止まったときが再び動き出した。
さっきまでの静寂は嘘のように消え去り、とたんいつもの喧噪をとりもどしたように、目の前で起きた一連の不可解な出来事に対する解釈を、それぞれがぶつけ合っていた。
私は何人かにコメントを求められたが、それに対して「いや」とか「別に」とかいいながら、鞄を手に取り、脱兎のごとく教室を出た。
帰途、気づけばあたりはすっかり暗くなっていた。