毎日付きっきりで看病する母も体力の限界が近付いていたため、ゴールデンウイークの最初の日、自分が泊まりで看病することにした。
その夜、母には一言も弱音を吐かなかった父親が、
「今までの人生で一番辛い。俺はもう死ぬんだろうか・・・」
と、弱音を吐いた。ほんとのことを言いそうになった。それを我慢して、
「そんなことあるわけないだろ。頑張って治そう。孫の顔だってまだ見てないんだから。」
そう言いながら、背中をさすった。腹は水で膨れているのに、背中は背骨が浮き出て、とても痩せていた。そして、とても小さかった。
父親の背中越しに、声を出さず泣いた。その時ようやく、父は死ぬんだ・・・と解った。嘘が辛かった。
父親がなんとか寝ると、もう朝が来ていた。
母親が看病の交代をしにきた。
徹夜明けで家に帰ろうとした時、父親が俺に声を掛けた。
「ありがとうな。」
生まれて初めて、父親に礼を言われた。
父親にお礼を言われるようなことを、何一つしてこなかった自分が悔しくて仕方無かった。
なんて俺だ。その身体の痛み、辛さを俺に渡せればいいのに。本気でそう思った。