電話番号。 | エニグマ/奇妙な話

エニグマ/奇妙な話

幽霊話ではない不可解な怪奇現象、怪談奇談の数々。
これらは全て実際に起こった出来事です。

この世界は、あなたが思っているようなモノではないのです。

 飲み屋のカウンターにいた女の子から聞いた話。

 彼女の一人暮らしの祖母の家には、一時期よく間違い電話がかかって

 いた。

 電話は祖母がすこし事情があって、住み慣れた家からある家に引越して

 からかかるようになった。

 そう頻繁ではなかったけれども、年に数回ほどかかっていたようだ。

 あとで自分の母親から聞いた話である。


 祖母がその電話に出ると、たいてい沈黙のあと、こわばった声で

 「あの・・・」「もしもし・・・」と続く。

 シクシクとすすり泣く声から聞こえることもあったらしい。

 時には男、時には女。

 少年、少女とかけてくる相手はバラバラだったそうだ。

 
 その頃、一人暮らしの祖母を母親が通って面倒をみていたが、

 やたら長い間、電話で話し込む祖母に不思議に思って何度か

 嗜めるように問うたところ、ようやく彼女はその電話のことを

 話した。


 やはり、最初のうちは気味が悪いと思って切っていたが、ある時

 から積極的に話しかけるようにした、

 何人目かの電話の相手がポツリと、実は自殺をしようとしていた

 のだと言う。


 「・・・でも最後に近くに書かれていた電話番号にかけてみようと

 思った・・・」
 

 近くで祖母のうちの電話番号が書かれた立て札をみた、と言うのだ。


 それ以来、面倒見のよかった祖母は

 「どないしたんね?困ったことあるなら話してみんね?」

 と語りかけることにしたらしい。

 驚いた母親がその看板は一体どこにあるのか、間違いだろうが縁起

 でもないと怒ったそうだ。

 祖母もソレは何度となく聞いてみたという。

 だが、 


 「・・・みんなはっきりしよらんかった。ある子は森が見える、別の子は

 海のそばやて・・・」


 トンネルのすぐ近く、という男もいた。  

 祖母も電話越しに遠くから響く風鳴りか海鳴り、そんな寂しげな音を

 聞いた。

 また、クラクションも聞こえたことがあった、という。



 不思議なことに、その電話は祖母がまた新居に引っ越してからは

 ぴたりと止んだ。

 携帯もなく、黒電話の権利がずいぶん高かった時代のことである。

 その電話番号は、その後も変わらず使っていた。



 祖母は亡くなる直前、看病する母親に、ふと


 「一体、あの子らどこからかけてたんやろなぁ・・・」


 と呟いたそうだ。