靴が一足、綺麗に並べて残っている…

こんな情景をみたことがあるだろうか。


これが、橋の欄干の手前や、

港の桟橋だったら、「身投げ」と相場は決まっている。


時刻にして午後8時半頃。

コンビニエンス・ストアの入り口に、
几帳面に並んだ一足の靴を見かけたら…
あなたは、どんなドラマを思い浮かべるのだろうか。


ところで昨日、次男が帰ってきた。

小、中学校と仲良しだった友人の結婚披露宴に出席するためである。

その結婚式には、私も招待されている。


東京でのサラリーマン生活はどうなのだろうか、

苦労しているんじゃなかろうか。
悪い女に、引っかかっているんじゃなかろうか。

田舎に住む両親にとって、
子どものことは、いつまでたっても心配の種である。


久々の親子3人での夕食は、二男の大好物、

別府の焼き肉店で、となった。

ここで、会社のこと、日常の食生活のこと、

好きな彼女ができたのかどうか…

色々聞き出そうという算段である。


二男のリクエストと言うより、わが家定番のオーダで、

塩タン、カルビ、ハラミ、ホルモン…が並ぶ。

ハンドルキーパーの妻は別として、

オヤジと息子。

同じ遺伝子をもった親子は、飲む、飲む。

生ビール、焼酎ロック…で、

あれこれ話も酒も深まる。

締めは石焼ビビンバ。

コチジャンをたっぷり混ぜて平らげると、

すっかり満足の夕餉となった。


すっかり酔っぱらって、わが家まで小一時間の帰路に着く。


途中で尿意をもよおして、道路に面したコンビニに立ち寄った。


もう満腹状態だが、何も買わない訳にはいかない。

レジカウンターのバックパネルに大きく描かれた、

ソフトクリームを一つだけ注文した。


車に持ち込むと、

「みんな満腹だというのに、いったい誰が食べるの?」

と、二人して冷ややかな反応。


オレが食べるしかないか…

と思いながら、まずはソフトを運転手の妻に手渡し、

車に乗り込もうとした。

そして、何を思ったか、靴を脱いで綺麗に並べて、

うやうやしくお尻から助手席に腰掛けた。


そうなのである。
御足を保護してくれていた、

愛するリーガルのスリッポンは、

哀れ置き去りの身となったのである。


確かに、この車はこの10月に買い替えた新車ではある。

助手席のマットを汚したくないという潜在意識があったのか…


ソフトを食べようと、ズボンのベルトを緩めた折、

すっかりリラックスして、

まるでわが家のソファに腰掛けるような気になってしまったのか…


とにかく、靴はコンビニの入り口に、残こることになった。

持ち主の性格を表わすがごとく、几帳面に整列して…。


助手席で、足もとに靴がないことに気づいたのは、

200円の割に結構美味しかったソフトクリームを食べ終わって、

しばらくしてからだった。


「えっ、靴? 入口に…?

 ・・・

 あっ、あります。あります。

 でも、また何で…(笑)

 明日ですね。ちゃんと、お預かりしておきますから…」


電話で確認してくれた店員さんが、

笑い声を押し殺しているのが分かった。


10分程度の時間か。

車が駐車できないよう、ゼブラの標示をしている箇所。

コンビニに入る人には、必ず目のとまる場所である。

みんな、どう思って眺めたのだろうか。


今日、この後3時から始まる披露宴は、

そのコンビニのある町にある。

丁重に、しかし笑いを押し殺して、

名前を尋ね預かっておくと答えた店員さんに、

どんな顔でもらいに行けばいいのだろうか。


ああ、難儀である。

今日の結婚式での締めの挨拶のことより、

その方がずっと億劫なのである。