前のブログにも書いたが、今年の元旦は積雪となった。
東京に住む長女たち夫婦は、
旦那の福岡の実家から車を借りて、
わが家で年越しをした。
元旦早々、福岡の旦那の実家に戻らねばならないのだと言う。
ご親族との年始があるからだ。
実は、お騒がせ娘の長女は、昨年末入籍した。
披露は、今年の春を予定しているらしい。
そこは何と言っても、新婚の身。
あっちの家も、こっちの家も義理を果たさねばならないと言うのもよく分かる。
お屠蘇で乾杯した後、テレビやスマホで、
道路情報や降雪状況を見ていた娘婿も、とうとうあきらめたようだった。
「すみません…
じゃあ、お義父さんの言葉に甘えて、
福岡の実家へは電車で戻ることにします。
申し訳ないんですが、
4日でいいですから、
車を届けていただけますか…」
そう言う経緯である。
新年早々の熟年夫婦の福岡までの、
往きはドライブ、帰りは電車のプチ旅行が実現することになった。
当初出発は早朝を計画していたが、
近所に不幸があって、
会葬した後の午後3時過ぎに出発することになった。
でも、それってラッキーじゃないか。
何てったって帰りはJRの利用なのだ。
博多で少々飲んだって、
帰りの電車でも、缶ビール片手でも構わないはずである。
ドライバーの夫は、張りきっていた。
福岡市の西隣の町にある娘婿の実家に着くのは夕刻あたりか。
車を届けて新年のご挨拶をして、
特急ソニックを待つ時間を利用して、
博多駅あたりで夕食…と、なりそうだ。
博多ステーションビルのレストラン街で、
ちょっと高級な日本料理か四川料理で一杯!
いや、浅草今半のすき焼きでもいいな…
と新春早々の飲み助の夢は広がる。
3時間近くの車の搬送も苦痛なんて感じるどころか、
ワクワクしてくるから不思議だ。
大した渋滞にも合わず、娘婿の実家に無事に着く。
時計の針は、午後6時ちょうど。
ご挨拶をした後、近くの駅まで送ってもらう。
姪浜から地下鉄に乗り入れる福岡空港行きの、
電車はガラガラである。
大きなペンチ型のシートを、夫婦二人占めだ。
二人の間のスペースは、熟年夫婦の溝の表れなのか。
他の二人が腰掛けられるほどの空間が淋しい。
暗い人っ気のしない駅に停まるたびに、
冷たい空気が車内の寂しさを増長させる。
ポツリ、ポツリと乗降客が替わるだけ。
車のラジオのニュースで流れていた、
帰省客の予約で満席と伝えられていた在来線や新幹線の話が、
まるで無関係な出来事のように思える。
ボーっとスマホでニュースを読んでいた。
地下鉄に乗り入れてすぐの駅だったが、
車掌のアナウンスした駅名にも頓着なかった駅で、
ドバーッと女性の集団が乗り込んできた。
夫の習性をよく知っている妻が、
空いていた席をつめて、
ピタッと体を密着して耳打ちする。
「誤解されるような手の動きしちゃダメよ!」
言われて、はたと気づいた。
奥に押しやられてきた女性が、
私の両足に挟まれるように立っている。
慌てて膝の上に組んでいた手を腹の前に移す。
前に立つ左手の若い女性の頬っぺに
キャラクターシールが貼られていた。
前に窮屈そうに立つ女性は、
大きなビニール袋を持っている。
その袋にも、同じキャラクターの品物が入っている。
「何だろうね、このキャラ?
どっかの福袋なんやろぉーか?」
大きな眼で同じように周囲を見回していた妻に囁くように聞く。
妻が小さく頭を横に傾げて、分からないと言った仕草で答える。
地下鉄博多駅では、多くの客が降りた。
まだ残って乗っている客は、
福岡空港から航空機を使う客なのだろうか。
だったら、買い物目的じゃなくって、
人気アーティストのコンサートだったのか?
エスカレーターで改札口に向かう列も、
その集団と思える女性が立ち並ぶ。
母親に連れられた高校生くらいの女の子に尋ねた。
「ねぇ、誰かのコンサートだったの?」
「神田ひさに…」
高校生くらいの女の子が目を輝かせながら、
でもぶっきら棒に答えてくれた。
「ああ、神田ひさにだったのぉ…」
悲しい習性である。
耳もすっかり遠くなってきているところに、
最近の若い歌手の名前なんて知らない。
一応、オウム返しで、驚いて見せる。
そんな有名な人のコンサートだったのかという風に…
神田ひさに…?
誰じゃい?
松田聖子の娘は、神田…何じゃったか?
と心の中で、女の子の言葉を反芻しながら、
分かったふりして大きく頷いている夫の背中を妻が叩く。
「えっ?
誰のコンサートだったって?」
「神田ひさにちゃん。」
もうAKBから独立した綺麗な若い子を想像しながら、
ちゃん付けで教えてやる。
「神田ひさに?」
芸能通の妻をして、知らないらしい。
博多駅前のエントランスは、正月だと言うのに、
まだクリスマスのようなイルミネーションで飾られていた。
ホームで博多ラーメンでもすすって帰ろうと言う妻を、
正月早々の博多で二人の夕食なんだからと説得して、
ステーションビルのレストラン街に連れていく。
相変わらず「神田ひさに」のコンサート帰りと思われる女性達で、
エレベーターホールも溢れかえっていた。
満員になったエレベーターを見送って、
妻がふと思いついたように言った。
「神田ひさにじゃなくって、
関ジャニって言ったんじゃないの?」
「えっ、患者…?」
「関西ジャニーズの、関ジャニ!」
「そんなん略さないで、
関西ジャニーズってフルネームを言えばいいのに。」
もちろん、顔も思い浮かべられなければ、
ヒット曲など知る由もない。
ただ、やたら略して言う最近の風潮が今さら頭にくる。
四川料理を満足して味わった後、電車に乗る。
大分行き特急ソニックにも、
関ジャニ・ファンと思われる、
女性たちの客がかなり乗っていた。
四川料理を肴にすっかりいい気分のオジサンは怖いものがない。
小倉駅から進行方向が替わる時、
後ろの席の女性の頬を凝視した。
何や。
てっきり怪獣かなんかの顔かと思っていたキャラクターは、
KANJANI の文字をデザイン化していたのか…
「あー、アータも関ジャニ帰りなんですね。
ホッペのキャラクターシール写真に撮らせて!
ブログに載せるけど、
アータの顔は分からんよーにするけん。」
寝たふりを決め込んで、
他人のふりをする愛する妻とは、
雲泥の差の弾けるばかりの笑顔。
これだけ多くの女性を惹きつける関ジャニ。
ちょっと妬けるぜい!
満員のソニックの乗客の冷ややかな視線を感じながら、
そう思ったのは事実である。


