どこぞのハンバーガー屋さんで買った、
ハンバーガーやナゲットやフライドポテトの中に、
ビニール片や人の歯などの異物が混入していたと大騒ぎになっている。
新米の炊きたてのほこほこのご飯や、
肉ジャガやポテトサラダを二口三口食べたところで、
髪の毛が出てきた…なんて経験は、
誰でも何回か経験したことがあるはずである。
ばあちゃんやオフクロが作った料理だったら遠慮なしである。
「何、これっ?
髪の毛が入っちょった!
もう食欲も消えうせた…」
ついさっきまで、美味しい美味しいと食べていたくせに、
怒った手前、箸をおいてしまった経験もある。
これが、親戚の、血縁のない叔母さんの手料理となると違う。
気づかれぬよう叔母さんの目を盗んで、
忌まわしき髪の毛をさっと取ったりする。
そして、何事もなかったかのように、
残った料理を平らげたりするのである。
昔、まだ学生の頃のことである。
小石川射撃場の近くの食堂に、射撃部の友達5、6人で行った。
全員、玉子丼を注文した。
一見、親子丼かかつ丼かと見まちがえるが、
鶏肉もブタ肉も入っていない。
天かすと玉ねぎが玉子でとじられて、
だし汁の旨味が絡んだ玉子丼は、
当時の貧乏学生には過ぎるごちそうであったのである。
ところが、みんなが食べ始めてすぐ、
友達のオカジが食欲がないと、手をつけない。
「どうしたんだ?」
と心配を装うものの、
まずは自分の玉子丼を食べるのが忙しい。
早く食べ終わったQとんが、心配そうに言う。
「オカジ大丈夫か?
勿体ないから、俺が食べてやろうか?」
オカジは、青ざめた顔で首を横に振っていた。
よほど体調が悪いのだろうか…
茶碗ごと大事に両手で抱えているオカジの手から、
丼ごと横取りしようとした時だった。
「いるんだよ…」
と、オカジが丼の蓋を少しだけ開けて見せた。
海苔の中をモゾモゾと動いているヤツを見た。
真黒くて、大きかった。
ゴキブリだった。
熱い丼の上だと言うのに、
決して弱っているような様子ではなかった。
オカジは、気弱なタイプではなかったが、
食堂のオヤジに何一つ文句も言わなかった。
その気持ちは、何となく理解できるような気がした。
オヤジはわざとそんなものしのばせた訳ではないのだ。
ゴキブリが逃げないよう、開けた蓋を閉めて、
オカジは玉子丼代の割り勘も支払った。
食器を下げた時、一箸もつけず残った料理と、
中で居座る主の姿を見て、
厨房で受けるショック。
そのメッセージだけで充分だと、
オカジは考えたのだと思う。
ところで、話は変わる。
味噌屋の四代目は食品の衛生や安全管理に厳しい。
当然と言えば当然のことである。
もう、20年ほど前のことだったか…
味噌屋四代目とゴルフに行った時のことである。
別府から20分ほどの山あいにある、
このゴルフ場の昼食は好評だった。
ゴルファーの昼食用だけにしておくにはもったいないほどの、
美味しい料理が提供されるからである。
自慢じゃないが、我々はアスリートゴルファーにはほど遠い。
ゴルフ場を居酒屋と考えている輩たちだったのである。
ゴルフ場に着いて、まずスタート前に生ビールで乾杯。
茶店ごとで喉を潤しながら、
ランチタイムともなると、もうちょっとした宴会である。
悪いことにそのゴルフ場は、料理が美味しい。
当然、酒も進むことになる。
すっかりご機嫌になったところで、
最後に麺類かメシ類を注文するのが、
我われ居酒屋ゴルファーのいつものランチコースだった。
その日も、いい気持になったところで、
味噌屋四代目は、かつ丼を注文していた。
ところが突然、
笑い話に満面の笑顔だった四代目の眉間にシワが寄った。
「これやぁから…」
味噌屋四代目が肩を落としながら、
箸の先で丼の中を指していた。
丼の中には、几帳面に手つかずの具を残したかつ丼が、
半分ほど残っていた。
そして、垂直になった飯の断面に、、
ピロリーンと飛び出ていたのは、縮れ毛。
「何で、そんなとこにそんなモンが…」
「そんなこと、ワシが分かるわけねぇ~」
と、言ったかと思うと、
レストランの支配人を呼びつけた。
ひと通り衛生管理を注意した後で、
新たにかつ丼一杯を持って来させた。
その追加のかつ丼を含めて、
同伴者の料理やツマミにした、
アルコール以外の料理を無料にさせた。
その後も、そのゴルフ場を利用する時は、
昼食時になると、その話題が繰り返された。
料理をすべて無料にしてお詫びしたというのに、
割りに合う話でなかったに違いない。
それから何年かたったある日、
またその同じゴルフ場で、
味噌屋四代目とゴルフする機会に恵まれていた。
うけ狙いか、よほどそこのかつ丼ファンなのか、
四代目は懲りずに、またかつ丼を注文していた。
そして、何年か前の出来事を披露していた時だった。
四代目の眉間にシワが寄った。
「またや…」
もごもごと口を動かして、
食べかけの物を丼の蓋に吐き出したのだった。
「今度は、石じゃ!」
箸を止めて振り向くと、
厨房前のカウンターに立っていた係を、手で呼び寄せた。
数年前にクレームをつけられた客だとは、
きっと覚えているはずはない。
でも、ただならぬ客の気配に、
ベテランのウェイトレスが小走りで駆けよってきた。
四代目は、くるにとテーブルに目を移すと、
吐き出したばかりの物を箸でかき分けた。
またもや、食事の最中に不愉快にさせた異物である。
彼女に証拠物件として、突き出そうとしていたのだ。
そして、同時に何もなくなった口の中を、
舌でかき回していたのだが、
照れくさそうに言ったのである。
「あっ、コレっ、ワシの歯の埋め物みたい…」
ちょうどその時、
テーブルまでやってきたウェイトレスが、
四代目の顔を覗き込みながら尋ねた。
「すみません。
何か不都合でも…」
「いえ。別に何でもありません…」
職業柄、味噌屋四代目は、
人一倍、食の衛生管理や安全管理に厳しいのだ。
でも、自分が間違いの場合は、
肩をすぼめながら、素直にすぐ認めるのである。
今回の一連の報道を聞きながら、
大学時代のオカジの玉子丼と、
味噌屋四代目のかつ丼騒動が、懐かしく思い出される。
