2月14日、土曜日。
天気晴朗の朝。
どこか遠くまでドライブに行きたくなるほど、青空が眩しい。
「下関の唐津市場に、
にぎり寿司でも食べに行こうか?」
「赤飯作ろうと仕掛けているから、
今日はどこにも行けん…」
熟年夫婦ともなると、
せっかくの青空も胸ときめかせたりしないのである。
いくつになってもロマンチックな夫は、別であるが…
事務所でたまった事務整理をしていると、
郵便配達の郵便局員が、
小さな包みの郵便物を届けてくれる。
札幌に行けば立ち寄る店のママからだ。
ああ、そうか…
今日はバレンタインデーだった。
小さな小箱を開けると、かわいいチョコが並んでいる。
義理チョコ。
もうすっかり錆びついた言葉になったのかもしれないけれど、
やはり嬉しい。
そうか…
札幌には久しく行っていないなあ。
ママ、元気にやっているのかな…
今年は何か機会を作って、ちょっとでも顔を見せたいものだ。
と、口に広がるほろ苦い甘さとともに、
ママの笑顔を思い出したりする。
すっかり客あしらいの上手なママの思う壺に、
はまっているのかもしれない。
そこに、事務所のドアがノックされる。
黒い大きな瞳の男性が、満面の笑顔で入ってきた。
両手で持った小箱をうやうやしく差しだす。
喜色悪い。
いくら来る者は拒まずの私でも、男の趣味はない…
と、札幌に思い馳せていた感傷のまま、焦ってみたりする。
なーんだ。
よく見りゃ、彼は、葬式屋の顔なじみの従業員。
「今日は珍しく会社で仕事してるんですね…
○×家から会葬のお返しの品をお届けにあがりました。」
「てっきり、チョコレートを持ってきたんかと思った…」
「いくら私でも、Qとんさんには興味ありません。
いひひひ…」
と、肩を上下しながら、喜色悪い愛想笑いをして帰って行った。
世の若い女性たちは、愛する男性に、
まだチョコを渡して心を伝えたりしているのだろうか。
職場では、デパ地下で買ってきた多くの義理チョコを渡す女性や、
それをもらって喜ぶ男性のシーンが見られているのだろうか。
わが家では、昨夜からかされていた(研ぎ置きされた)もち米が、
赤飯となって、昼、食卓に上がる。
妻からの何かのメッセージなのだろうか?
ある訳ないわな…
今年5月に結婚35年目を迎える、
とある熟年夫婦の2月14日の朝の風景である。