九大昆虫班のブログ

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九州大学生物研究部昆虫班です。班員が交代して更新します。

九州大学生物研究部昆虫班です。日本中の昆虫を求めて奮闘中です。班員が交代で綴って行きます。

初めまして、今年度昆虫班班長をしています3回生のKと申します。


突然ですが、昨今の昆虫班は遠征の同行者が集まりにくく、数人で集まってレンタカーを借りて採集に行くというのを頻繁に行うのは難しくなっています。

そのため、特に予定のない週末は原付で採集に行くことが多いのですが、原付はコスパがいいという確固たる武器がある一方で、法定速度の壁や車中泊ができないこと、積載が限られることなどから所謂"限界遠征"になりがちです。

嬉しい虫が採れればそれで良いのですが、やはり、思うようにいかなければブツブツ呪言を吐きながら帰路に着くことになります。



さて、本題に入ります。

5/28から29早朝にかけて、片道150キロの大分県の有名な山に原付で採集に行ってきました。

朝の5時に糸島を出発して、現地に着いたのは9時過ぎでした。そこから日が出ている内はスプレーイングなどで、日没後はライトトラップ(HID)と2基のライトfit(ブラックライト)、ルッキングで日付が変わるくらいまで採集しました。その後、かなりの疲労のために、コンビニや公園でこまめに休息をとりながら時間をかけて帰宅しました。そのため、家に着いたのは朝の6時頃になっていました。帰宅後、気絶するように眠ったのは言うまでもありません。



 

 

 

 

まずは昼間の成果です。


まず、トガリバホソコバネカミキリとカンボウトラカミキリです。

前者は2年前に先輩方に案内していただいたポイントにて採集しました。このメスはかなり大型の個体でした。
後者はあまり多くない種で立ち枯れに来ていたものを採集しました。



マルムネチビキカワムシはキクイが穿孔しているノリウツギの立ち枯れの表面から得られました。一見、カッコウムシ科にも見える非常に特徴的な種です。スプレーイングも行いましたが、一頭のみでした。



他にも少し嬉しかったものとして、アオアシナガハナムグリ、フクチセダカコブヤハズカミキリ、クロオビヒゲナガゾウムシ、オオゴマダラコクヌスト、エンマムシモドキ、オオヒラタエンマムシ、ホソエンマムシ、ツノブトホソエンマムシ、マダラホソカタムシ、クリイロチビキカワムシ、クロムクゲキスイ、ムナビロネスイ、ヒメコブスジツノゴミムシダマシ、ツヤハダヒメゾウムシ、オオナガニジゴミムシダマシ、ルイスマルムネゴミムシダマシ、ムネアカヒメクチキムシ、アシブトカクホソカタムシ

などがあります。


 

エンマムシモドキやオオヒラタエンマムシは樹液などに見られることが多い種ですが、キクイムシが穿孔している細木の立ち枯れと隣の生木の隙間にキクイムシのフラスが溜まっているところに多く見られました。こういった枯れ木の虫を捕食しているのでしょうか。

ヒメコブスジツノゴミムシダマシはサルノコシカケに見られますが、同所的にみられるコブスジツノゴミムシダマシやクワガタゴミムシダマシよりもずっと少ない種です。

スプレーイングはホソエンマムシ類、ムナビロネスイ、初採集のマダラホソカタムシ、クロムクゲキスイ。ケマダラムクゲキスイ、ヒメマルミツギリゾウムシくらいでぼちぼちといったところです。


そして何より嬉しかったのが、Endomychus tomishimai Nakane, 1994

 トミシマテントウダマシと呼ばれている種です。
九州固有種の珍品です。
以前ご一緒したベテランの甲虫屋さんに是非気にかけて欲しいといった感じで紹介されたこともあり、密かに狙っていた種でした。

毎回キボシテントウダマシやイツホシテントウダマシが多くいる倒木付近の下草の葉上に静止していたので、そこから発生したのでしょうか。

 






次に日没後の成果です。

 

 

以下はライトfitに入っていた虫です。

 


まず、目立つのは巨大なミヤマクワガタです。当地のミヤマクワガタは大きなものが多く、1番大きな個体は71mmもありました。本種は高標高地であればよく目にする種の一つですが、ここまで大きな個体は初めて見ました。HIDのライトトラップにはほとんど飛来しませんでしたが、ライトfitには多く入っていました。意外と弱光を好む種なのでしょうか。

他に目ぼしい虫として、ヒメコブスジコガネ、キオビナガカッコウムシ、コメツキガタナガクチキ、コモンホソナガクチキ、ヒメクロオオクチキムシ、ホソヒゲナガビロウドコガネ基亜種、ガロアムネスジダンダラコメツキ、コスジマグソコガネなどがありました。

 

、


最初の5種はどれも多くない種で、HIDを主としたライトトラップでは採ったことがなく、これらもブラックライトのような弱光を好む虫なのかも知れません。
HIDとブラックライト単体では飛来する虫が多少異なるというのは非常に興味深いです。大量のカワゲラだかトビケラだか鱗翅だかで黒濁した保存液をソーティングするのは苦行ですが。

 

コスジマグソコガネは日本産コガネムシ上科図説 第1巻 食糞群では★★★★「稀種」とされていますが、当地で採集したことはもちろん、福岡、宮崎(2か所)、対馬でも採集しています。鹿の増加に伴って増加している種なのでしょうか。

もう一つ、気になる種です。

チャイロコガネ属Sericaniaの一種です。メス1頭のみでオス交尾器を見ることはできません。

体型など最も似ているのはイツツバクロチャイロコガネですが、触角の先端3節が片状部になっており、一節飛ばして、一節が突出しています。日本産コガネムシ上科図説 第3巻 食葉群Ⅱに図示されているイツツバクロチャイロコガネでは5節全てが片状部となっており、少し異なります。触角の形状はシコクチャイロコガネにも似ますが、前胸が異なります。

単なる把握漏れかもしれませんが、このような特徴を持つ種は見当たりません。ご存知の方がいらっしゃれば、ご教示いただけると嬉しいです。



 

 

 

 

以下はライトトラップ(HID)と夜間ルッキングで採集した虫です。



まずはわかりやすい美麗種であるキンスジコガネです。九州ではかなり少ない種らしく、点灯直後に1個体のみ飛来しました。



次にオオクロキノコゴミムシダマシです。九州固有の珍品で、アラゲキクラゲにみられます。
この日のアラゲキクラゲは乾燥しているか、あまり発達していないものが多く、本種を見ることはできないかと思われましたが、よく発達した群落から6個体が落ちてきました。

日本産ゴミムシダマシ大図鑑では珍品度は最も高い★★★★★「稀」とされますが、多産地でよく発達したアラゲキクラゲ群落があればみられることも多いため、★★★★★の種のなかでは、比較的見やすい種といえます。

別地では、冬季にアラゲキクラゲが生えていたであろう倒木の樹皮下から採集したこともあります。



他に目ぼしいものとして、クチキクシヒゲムシ、ヒメクロオオクチキムシ、オオマダラヒゲナガゾウムシ、ホソヒゲナガビロウドコガネ基亜種、ガロアムネスジダンダラコメツキ、マルツヤニジゴミムシダマシキ、エンマムシモドキ、オオヒラタエンマムシなどがありました。

 

 

クチキクシヒゲムシは広く分布しますが、生態が良く分かっておらず、神出鬼没の虫として有名です。夜間に生木の樹幹に静止している個体を採集しました。

ヒメクロオオクチキムシはド普通種のオオクチキムシと違って、分布が限られ、はるかに少ない種です。

両者とも、初めて採集しました。

キュウシュウクロナガオサムシも何頭か見られましたがこちらは出始めのようで、上翅が柔らかい個体ばかりだったので、採集はしませんでした。

 

 

 

 

以上がおおまかな当地での成果ですが、もう一つ嬉しかったものです。
帰路にナビを合わせるのと虫が来ていないかの確認のために草地にある自販機に立ち寄った際に、セアカオサムシを見つけました。
某遊水地などの野焼き後採集にも何度か行きましたが、自分で採集したのは初めてでした。


 

 

 

以上です。片道150キロで、長時間採集すると疲労で帰り道が危ういので、もう少し計画性を持つべきかと思いました。

個人的にはそれなりに良い成果が得られたと思います。
冗長な駄文でしたが、ご覧いただきありがとうございました。

 

P.S. 本ブログの更新は滞りがちなので、生研メンバーはなんか書いてくださるとうれしいです。

九大生研昆虫班ブログをご愛読の皆様、お久しぶりです。
そうでない方ははじめまして。
班員Bと申します。

 

最近の更新が滞ってしまって大変申し訳ない限りです。
何か何か上げようとは思っていたのですが書き始めるまでは調子が乗らないもんですね。

前置きはさておき、今回は去年の初夏に大隅に行ったときのことをブログにしようと思います。
大隅と言えば私が大好きな場所で虫がたくさんいるという九州では稀有な場所です。福岡からは遠いですが年に何回かは絶対に訪れる地になっています。

 

 

2024年6月15日 くもりのち雨

 

今日は今年初の大隅に行こうかと思う。
今回のメンバーは少し変わって後輩の二年ズ2人に私、あとは生研OBでD1のHさんの三人だ。
Hさんはハネカクシの研究をしている方で、他の雑甲虫類にも興味があるとのことで大隅にご同行して頂く運びになった。
このHさん、歩く原色みたいなお方で知識量がすごい…
ちょっと憧れの先輩だ。
このHさんとちゃんと採集に行くのも初めてだし、初夏の大隅は初めてだったのでかなり楽しみではある。

レンタカーを借り、他の三人を乗せ福岡から車を走らせ大隅に向かう。
今回最初に訪れたポイントまでは勿論高速を使う。因みに糸島から大隅間だが…

 

所要時間5時間、距離にして380km弱(googlemap)

 

といったところである。
うーん遠い…
私は関東の人間なので東京からどこまでと言った方が距離にイメージがつきやすいのでこう表現する。


東京駅から名古屋駅間が4時間半、350km弱(googlemap)


つまり、東京から名古屋へ行くよりも遠い場所となる。
九州を縦断するわけだからそりゃそのような距離になるのは当たり前なのだが、この距離を運転するのは少々骨が折れる。
なので交代で運転することが殆どである。流石にね…

最初に訪れたのは大隅半島西部の海岸部。
高速が通行止めになっていたり解除されたりして時間が余計にかかってしまったので到着したのは14時半ごろ。やはり大隅は遠い。


このポイントはある狙いの種が採れると生研OBのカミキリ屋、Nさんに教えて頂いた場所である。

階段を下り、海岸沿いに降りていく。

かなり石が大きめの礫海岸である。
ここのマルバニッケイを掬うと採れるという。

ご教示いただいたとおりに掬っていく…

カノミドリトラカミキリ

Chlorophorus kanoi Hayashi, 1963

 

おお入った。

種子島や屋久島、そして鹿児島など九州に固有のトラカミキリである。
でも生息地での個体数は少なくないようで、みんな採集出来ていた。
こういった採集は予定調和になってしまいがちだが、狙いのものがちゃんと採れるというのはそれだけで楽しみがある。

採集していると雨模様になってきた。
いそいそと車に戻って雨宿り。
今日はこのまま大隅に残ってライトトラップをやる予定なのだが雨だと少し気分が下がる。
止んでくれるといいが…

 

本土最南端のAコープで夕飯を買い、別のポイントに移動。

いい時間なのでライトを設営してライトトラップと洒落こむか?

 

だが一向に止まない雨!どうする?!

いや、強行だ。ここまで来てライトトラップをしないというのも変な話だ。雨に打たれながらライトを設営していく。

だが、なんとこのライトおびただしい量の虫が飛来することになった…

 

シロアリがね!!!!!!!

これは大変ですよ本当に。
雨に打たれ、無数に飛来するシロアリ。
どうやらそのタイミングに当たってしまったらしく、方々の朽木に目を向けると至る所からシロアリの王や女王が這い出てくるのが見える見える。
 

あまりの多さに飛来してきたノコギリクワガタくんもシロアリに溺れてしまいました~~~~~~!!!!!

 

うん、酷い。
こんな雨の中シロアリしか飛来しないライトはやめてしまえ
ということで早々に撤収。
だが撤収時はこのシロアリが無数についた幕を払わねばいけない訳で大変手間である。
ライトやらない方が良かったな…そう思ったライトトラップだった。

 

余談だがライトトラップをする前にスプレーイングをした立ち枯れからエノキミツギリゾウを採集した。欠品だがこれは嬉しかった。本州でも得られているがメインは九州のいい虫である。

Eterozemus celtis (Lewis, 1884)

 


後輩君は立ち枯れで以前から採集したいと思っていたキンヘリアトバゴミムシを採集できたようで何より。雨でもいるもんだね…
こっちは画像無し。
 

2024年6月16日 晴れ

 
今日は少し北上しムラサキアオカミキリを狙いにまたもやNさんに教えていただいたポイントへ赴いた。
朝から15時までみっちり探したがほぼ成果なしなので割愛!昨日の雨の影響かなあなんて思いつつまた大隅半島へ戻っていく…
 
今日は昨日から場所を変えてのライトトラップ&夜間徘徊。
 
ライトをつける前に少々周りを徘徊しながら気になる材を見ていく感じ。
 
すると倒木から後輩君が目の前でクロサワツツヒラタムシを採集していた。
キクイの穿孔跡のある材なので怪しいとは思っていたがまさかツツヒラタとは…
未採集のファミリーなので私も探してハイエナをさせて頂いた。
Ancistria kurosawai Sasaji, 1993
 
こちらも欠品だったが良し。
どうやら夕方から夜間にかけて倒木上に出てくるようだ。
ツツヒラタムシ科の中でもエリトラに紋があってかっこいい種類。しかも九州固有の箔がついている。
後輩君はそのあと無印のツツヒラタも採集していた。悔しい。
 
同じ材を見ていると、
オオムクゲキスイ
Biphyllus satsumanus Nakane, 1988
 
九州固有の大型ムクゲキスイで珍品。
雑甲虫においては素晴らしい成果だ。
この倒木を崇めておこう
セスジツツホソカタムシ
Carbothrus hiranoi (Aoki, 2008)
 
これも例の倒木から。採集時はヒュウガツツホソカタかと思っていたがセスジの方だった。でもどちらにせよ未採集だったのでヨシ!これ以降セスジツツを見る機会が何回かあったがライトにも飛来するほか細い新しめの材にも来ていたりとそこまで材にこだわりがある種には思えない。
 
さてライトトラップ。
残念ながらライトトラップの写真は撮ってなかった…
ムモンチャイロホソバネカミキリ
Thranius rufescens (Bates, 1884)
 
ライトを見ていると早々に飛来したルフェことムモンチャイロホソバネカミキリ。大隅ではいつも見る顔だ。
でも採れるとなんだか嬉しい。そして手が汚い。
ライトには当種くらいで他に目ぼしいものはいなかった。悲しい。
材が昨日の雨で濡れているせいか材を見回ってもカミキリなどは貧しい成果だった。
 
他に夜間徘徊の成果は、
コモンキノコゴミムシダマシ
Spiloscapha ichihashii (Nakane, 1956)
 
大大図鑑星4の美麗ゴミムシダマシで本州と九州からの記録が知られている。ここ大隅では比較的採りやすい。
ある特定のキノコに集まるようで、いる材にはいっぱいついているがその材を見つけるのが大変といった感じ。
 
明日は月曜で普通に授業があるので早めに切り上げて、夜通し運転して帰路に就く。
後輩君は疲れていそうだったので私一人で休憩を挟みつつ運転することになった。やはり遠いよ大隅…

クタクタになりながら家へ帰る。
長時間の運転と夜間の徘徊、睡眠不足でものすごい疲労感だ。
でもまた行きたいなと訪れてしまうそんな場所、大隅。
私の大好きな場所だ。
因みにこちらは帰宅した際に自分の足を確認したらついていたマダニ3exs.
大隅はマダニが多いのが玉に瑕。
 
 
とまあこんなところで今回の採集記はおしまいです。
こんな年明け一か月後くらいに半年以上前の採集記を上げるのも中々な気がしますが楽しんでいただけたら幸いです。
やはり夏は虫がいっぱい採れて楽しいですね。今から待ち遠しいです。でも夏は夏でブヨやら暑さやらでやられてしまうんですが…
 
ではまたお会いしましょう~
班員Bでした~👋

こんにちは班員Bと申します。
このブログ、なかなか更新が無いので最早私だけのブログと化してしまっていますね。

 

入学式も終わり、新歓シーズン真っ只中となって参りました。

九大生研昆虫班ではtwitterアカウントでの新歓グループへの招待の案内をしております。気になるなと思われた方は下記のurlのアカウントのDMにて新歓グループに招待してほしい旨をお伝えっ下さい。固定ツイートにての説明もありますので是非是非ご覧ください。

 

https://twitter.com/Quniv_brcinsect



それはそうと、また採集に行ってきました。今回はその様子を記そうかなと思います。生研に入ろうとしている新入生の方は是非活動の参考にしていただけると幸いです。もちろん在学生の入部も歓迎しております。

4/5 雨


今日はかねてより採集したいと切望していたミナミツヤハダクワガタの採集の予定日でした。
ツヤハダクワガタは標高1000㍍付近の高標高地などに生息しているかっこいいクワガタなのです。
しかし、この子は難易度が高く幾度となくツヤハダ採集に繰り出しては負けを繰り返しています…

 

初めてツヤハダクワガタを採集しようとした何年か前、まだ私は高校生そして地元の関東に居ました。そこでもずっと採れておらず、言うなれば因縁の相手といったところでした。


ですが、最近やっとこの種を採集することが叶ったのですが、なんと♀1という不完全燃焼極まりない成果でした。

 

「いやっ、オスが欲しい!!」

その願いからツヤハダクワガタ 四国九州亜種ことミナミツヤハダを今回の狙いに定めました。


先ほど申しました♀1採集したツヤハダは関東で採集したものなのでまた別の亜種のツヤハダクワガタ 中部近畿亜種(ミヤマツヤハダ)ですのでミナミツヤハダはまだ未採集ということになります。

 

そして来る4/5、前日のバイトによりあまり睡眠をとれていない状況での出発になると覚悟していたのですが…

今回の採集で使う予定の車、その主である先輩が何度電話をしても起きない。

 

今日の出発予定時刻は朝5時と早めであったため、もう少し時間をおいてみようとのことで出発時刻を6時に繰り上げます。

 

が、しかし6時になろうと一向に先輩からは連絡がありません。
 

「これはまずい…」

 

そう思い先輩の家まで突撃することにしました。

インターホンと電話の二重攻撃。その攻撃もむなしくなかなか返答が無い状態。
今回はダメか?と覚悟してそわそわしているとオートロックの扉が開いたのでそこに目を向けると、なんと先輩が出てきました。

 

「はい」

 

そういって車のカギを私に渡すと、すたすたとマンションの奥へ戻っていきます。

 

ちょいちょいちょいちょいちょい!!!!

 

「え、行かないんですか?」

 

「今日は体調悪いのと勝てそうにないので行くのやめます」

 

え~当日ドタキャンかよ~

しかし、車を借りる身なのでつべこべは言えません。

しょうがないと腹をくくり、初心運転者ですが採集を決行することにしました。


私も、今回同行する同輩も免許取ってから一か月も経っておらず、長距離運転は危険があると判断したため当初行く予定だったS山ではなく、O山に行くことに決めました。
(あとから調べたところ、二つの山直線距離は変わっても道のりの距離は数キロしか変わらなかったという)

 

しかし、このO山もとある方から教えて頂いたミナミツヤハダのポイントです。行先が違っていようとやることは変わりません。採れるまで頑張るだけです。

 

なんやかんやあって、山を越え谷を越えO山に着きました。

天気は雨で視界も悪くコンディションとしては良いとは到底言えたものではありません。ですが来たからには全力での精神で山を登り、ツヤハダの潜む赤枯れ材を見つけ次第割っていきます。

 

「う~ん、出ない!」

 

いつもの流れです。こういった採集で開始早々に虫を採れた試しがないんですよ。いくら材を割れど幼虫しか出てきません。

 

そこの君、幼虫を飼育して羽化させればいいとか思いました?

いやいや、羽化させるより成虫を自身の手で採集する方が達成感があるに決まっています。少なくとも私はそうです。

昆虫採集をゲーム感覚でやっている私は、幼虫を採って孵すのは正攻法ではなく、裏技や搦め手、グリッジなどを使ってボスを倒している感覚であまり達成感が無いのですよね。

というわけで私は成虫が欲しいのです。そしてオス!でかいオスが採れれば文句はありません。

 

登山道沿いを登っていき、標高も上がっているのですがなかなか出る気配はありません。

同行者らも出せていない。

だんだんあきらめムードになっていきます。

 

幼虫は出るけど成虫が出ない材、食痕などはあるけど幼虫すら出ない材、状態はいいけど食痕が見られない材エトセトラ…

こうなるとかなりの苦行になってきます。そしてツヤハダ採集の辛いところ、副産物の虫が少ないということです。これも採集に緩急がなくなってより単調作業化してしまい、やる気を削ぐ原因の一つです。
 

ですが、昆虫採集において最も採集できる確率を高める最強の方法があります。

それは諦めないことです。採れるまで試行回数を重ねればいつかは採れるのです。採れる可能性がゼロではない限り。

 

しかし一向に出ない。

登山口付近から大分上りましたが、いい材が少なくなっているように感じます。

 

「降りながら探すか…」

 

来た道を戻るのは一見愚かな行為に見えますが、山は広いので一度通った道でも見逃しは必ず発生します。そう決めると、同行者二人を横目に山を下っていきます。

 

材を割れど割れど、本命達は出てくれません。今日はダメかもしれない。そう覚悟するくらいには疲れてきました。

 

この採集は他にも辛いことがありまして、材が硬いのです。しかし割らなければ居るかは分かりませんからもちろん多くの材を割ることになります。そうすると材を割る用の手鍬を持つ握力も次第に弱まり、しまいには振り上げた手鍬が手からすっぽ抜けてしまうこともあります。

 

 

斜面にへばりつき必死に赤枯れ材を割っていきます


すると…
おや?黒い甲虫の死骸、エリトラが出てきました。

これは、間違いない!ツヤハダクワガタのエリトラです。
少しながら希望が見えます。
さらに崩していくと黒い甲虫の影が見えます。

 

っっっこれは、勝ったな。

 

勝利を確信してその黒い光沢の虫を引っ張り出します。


ツノクロツヤムシ

お前かよ!!!!本当にやめてくれ…

(写真を撮っていなかったので以前撮った写真を貼っています)

 

このツノクロツヤムシ、日本では九州と四国にしか生息していないご当地モノなのですが、九州山地では広範囲に生息している普通種なのです。そしてどんな材にも入るので、こういったツヤハダ材から出てこられると大変心臓に悪いです。あげて落とすタイプの虫です。

 

ですが先ほどの死骸のエリトラは間違いなくツヤハダクワガタのものです。お願い…出てくれ。

出たぁ!!!
しかしメス!だが嬉しい!!

 

ツヤハダクワガタに限らずですが、材割り採集では出る材からは複数個体出ることが多いです。なのでこの材を割っていけばオスを採集できる可能性も高いということ…
慎重に割っていきます。

 

メス…またメス…

追加で二頭得ましたがまたメスです。どうやら虫の異性には好かれる体質のようです。

オスー!!!!!

しかもでかい!!!最高!!

 

疲労感が一気に幸福感へと変わっていきます。
そしてその材を割り進めていき、追加を何頭か得たところで、材を割るために酷使した右手は限界を迎えたのでそこまでで採集を中断しました。

 

結果、私はオス3メス7,同行者と合わせるとオス5メス10頭ほど得られました。

性比はメスに偏っているようですが、偶々かもしれません。

 

雨の中の採集ということで、服とグローブはびちょびちょドロドロ状態になってしまいましたが、目標のミナミツヤハダ。しかもかなり大型のオスを採集することが出来て大変実りのあるに採集にりました。また機会があれば採りに行きたいですね。

 

というわけで一区切りついたので今回はここまでにしておこうかと思います。

最後までお読みいただきありがとうございます。
生研に入りたいと思っているけど活動がどんなものなのか分からないな、という方々への参考になれば幸いです。
ではまた~班員Bでした。