真の双極性障害の見極めについて | kyupinの日記 気が向けば更新

真の双極性障害の見極めについて

現代社会では、双極性障害は双極Ⅱ型障害なる病態も包括するようになり、双極性障害の総数がかつてより多くなっている。

 

これは色々な考え方があると思うが、双極性障害の遺伝的要因を考慮するなら、激増しているとしたら奇妙な話である。

 

つまり、双極Ⅱ型は真の双極性障害ではない疾患が混入していると言う考え方が自然である。昔も双極Ⅱ型はあるのはあったが正しく診断されなかったと言う反論も無視はできないが、少なくとも、かつての双極Ⅱ型と今の双極Ⅱ型の病態では様々な点で変化しているのは確かだと思う。

 

精神科に初診時に、双極性障害は現在より遥かに稀な疾患であり、学会などで統計的に妙に高い数字が出ていると、会場から診断が間違っているのでは?と言う質問が飛んでいた(実話)。

 

かつて、そこそこ双極Ⅱ型の人たちがいたとして、彼らはおそらくうつ病の診断を受け治療されていたと思われる。従って今日的に言えば、彼らの一部は病状が不安定化し、時に大変な事態になっていたはずだが、そうでもなかったと思う。

 

当時、少なくとも、経過中に良くわからない理由でうつが吹っ飛び、驚くほど気分が改善し薬なしで生活できるほど寛解していた人たちは、双極Ⅱ型的と言えたと思う。つまり不連続な急激な改善である。

 

このような改善の仕方をした人はその後、通院しない人も多いので、それまで服薬していた抗うつ剤も服薬しなくなるので治療的にも好ましい流れになる。しかし、実際に双極Ⅱ型だったすれば、双極性障害には変わりがなく治癒してはいないので中期~長期的には双極性のうつ状態で再診することになる確率が高い。

 

単極性うつ病は、服薬しないと再発することが多いので、2度目のうつ状態で再診したとしても、まだ双極性障害と診断されない確率は高い。再び、うつ病治療(抗うつ剤)で治療されたであろう。

 

このような経過で、生涯にわたって双極Ⅱ型と診断されないで高齢になった人も少なくないと考えている。このような人がうつ病ではなく、双極Ⅱ型と診断されていたら本人の人生が変わるほど大きいメリットがあったかと言うと、怪しいものだ。

 

つまり、今の高齢者(の若い頃)と今の若い人とでは、向精神薬に対する脳の過敏性のようなものが大きく変わってきており、言い換えると、かつてはそれくらいの診断スタンスで概ね良かったが、今はそうとも言えない、と言ったところだと思う。

 

ここで言う若い人とは45歳以下くらいである。

 

現代社会では、双極Ⅱ型っぽい病態を示す他の精神疾患が多く存在するので、正しそうな薬物療法も実は大変トンチンカンなことをしていると言うことも実際にある。つまり表現型が双極Ⅱ型だが、実はそうではない疾患である。その視点では、今回の記事は、双極Ⅱ型の過剰診断について言及している。

 

実際には双極Ⅱ型ではない精神疾患として、今風だと自閉性スペクトラム症や注意欠陥多動性障害が挙げられる。以下の記事はそれらに触れた2010年の過去ログである。

 

 

この記事の中でこのような症状を挙げている。

 

①ある期間の外出、旅行の多さ。
②浪費(買い物が多いこと)。あるいはカードの使用の多さ。
③妙に良く喋る時期があった。普段とは様子が違っていた。
④循環気質であること。あるいはウェールズの人であること。
⑤突然習い事や専門学校に行き始め、やがてやめた。
⑥転職の多さ。飽きっぽさ、長続きしないこと。

⑦やたら怒りっぽい時期がある。(友人と喧嘩別れした。)

 

上に挙げたようなあたかも軽躁状態を思わせるエピソードを聴取できたとしても、なお双極Ⅱ型とまでは診断できないのである。上の記事ではリーマスの薬物反応性についても言及している。(以下抜粋)

 

リーマスを使ってみて、効くどころか、少量のレベルから振戦などの副作用が出現し困るような人は躁うつ病っぽくない。むしろADHDやその他の広汎性発達障害が疑わしい。リーマスを使ってむしろ非常に忘れ物が多くなるとか、不注意やちょっとした怪我が増える人もそうである。

 

今風には、ストラテラやインチュニブなどを使ってみて、症状がどうなるかを診るのも良い選択肢である。双極Ⅱ型の治療で特にうつ状態に対してリーマスは有力な薬物として取り上げられているが、実臨床ではあまり期待値が高くない。

 

双極Ⅱ型っぽい病態で、軽躁エピソードも見えるが、普通の双極性障害の治療でうまくまとまらないケースは、ASDやADHDの鎮静的な向精神薬を処方してみるのも一考である。あるいは、抗てんかん薬が良いこともある。

 

双極Ⅱ型の診断にあたり、家族歴の詳細な聴取は有力な方法だと思う。近親者に間違いなく双極性障害の人がいる場合、双極Ⅱ型の診断はより確からしいものになる。

 

実際の臨床では、病歴の聴取から双極Ⅱ型をうつ病と誤診されていることがわかり、こういう風にすれば間違いなく良くなるであろう薬物療法を実施したとしても、さっぱり良くならないどころか、より悪化する経過もありうるのである。

 

しかしそれも中長期的に診なければならない。短期的にはそのような一見こじれたうつ状態を双極性障害の治療に切り替えた場合、

 

1、好ましくない抗うつ剤の重複処方。

2、期待値の高い気分安定化薬が処方されていない。

3、抗うつ剤以外の、むしろ悪化を招く向精神薬が処方されている。

 

などを解消できる。抗うつ剤の中止は意外に簡単にいかないもので、外来通院の患者さんだと急激な悪化から自殺既遂もありうるので、慎重に撤退しないといけない。人によれば、一部抗うつ剤を撤退しないという選択肢も僕は否定しない。その理由は、確実に双極性障害ではないかもしれないからである。

 

その結果、寛解状態に至っても、なんだこりゃ?と言う処方に落ち着くこともある。

 

僕の治療スタンスは、働けない人は働けるようになる、苦悩が減少する、生活しやすくなるなど、本人の実感が良くなれば良いので、奇妙な処方に落ち着いたとしてもあまりそれは気にならない。

 

他院に紹介せねばならない時に、なぜこういう処方になったか少し説明を要するだけである。

 

参考