大学病院精神科と単科精神科病院のすみ分けについて | kyupinの日記 気が向けば更新

大学病院精神科と単科精神科病院のすみ分けについて

大学病院はかつては紹介状なしで初診も可能だったと思うが、今は原則、紹介状がないと初診できない。

 

僕が研修医の頃の大学病院精神科は病床数が少なく50~60床しかなかった。しかも、実際に入院しているのはその6~7割だったと思う。

 

当時、なぜ満床にできないかと言うと、看護師の入院患者の増加への拒絶が大きかったことがある。全ての大学病院がそうではないと思うが、今風に言えば、働き方改革に反すると言ったところであろう。

 

看護師にとって、入院患者が増えれば増えるほど仕事が大変になるという主張である。これは医師からの視点では異常に見えることで、たいていの医療行為は大学病院では医師が行う。セレネースやセルシンの筋注ですらそうである。それなのにこの程度の患者数で仕事が忙しくなると言うのはおかしい。

 

実際、当時の看護スタッフには共産党支持者がいて、選挙の前に僕に比例代表に「共産党」に入れるように頼んだ看護師もいる。流石にこれは公務員には禁じられている行為である。そんなことより、僕に言えば入れてくれるのではないか?と思われたことが不愉快であった。

 

昔の大学病院にも、ありふれた病型の統合失調症、双極性障害、うつ病の患者さんは入院していた。どこが違うかと言うと、大学病院に紹介されたかどうかである。当時まだクリニックは少なかったが、無床であれば入院の必要性がある患者さんはどこかの病院に入院を依頼しないといけない。そのようなケースで多くの患者を大学病院に紹介するクリニックがあった。

 

そういえば、当時のクリニックは病床がなくてもクリニックと言う病院名は稀で、病院名だけですぐにクリニックとはわからなかった。

 

そのようなクリニックがあると、自然と普通の精神疾患の患者さんが集まる。入院患者で極めて稀な疾患は今だと神経内科に入院しているような人である。これは当時、まだ十分に精神科と神経内科がすみ分けできていなかったからである。

 

大学病院精神科は急性期のみしか治療継続しないので、入院後区切りがつくと、退院させるか単科精神科病院に転院させていた。これは今の整形外科疾患の患者さんを中核病院からリハビリテーション系病院に転院させる治療の流れと似ている。

 

大学病院でリハビリ的治療まで長い期間入院させると慢性期の患者ばかりになる。これは多くの新人精神科医にとって勉強にならないので好ましくない。従って、患者さんが大学病院に入院後、数か月後、単科精神科病院に転院になるのは自然な流れと言えた。

 

従って、患者さんが大学病院から単科精神科病院に転院するように言われた時、最先端の治療を諦められたわけでも、捨てられたわけでもなく、治療途上の自然な流れなのである。また遠方の市町村から大学病院に入院している患者さんは、地元の病院に転院させる方が家族の面会や退院後のデイケア参加の点で良いと言うケースも多い。

 

稀に普通の精神疾患(例えば統合失調症)なのに長期に数年単位で入院している患者さんがいた。これは、家族から何らかの依頼があった人であった。当時の大学病院精神科では、公務員の家族の人が多い傾向があった。

 

他、この人は長期に診ていこうと思われるような珍しい疾患の場合、研究対象と言うことで医療費が無料とされていた。なぜか統合失調症でもそういうケース(医療費無料)があったので、何らかの忖度というか融通があったとしか思えない。

 

当時、今より若年の緊張型の統合失調症患者さんが多かったので、発病後、急速に改善するケースや、次第に崩れていく患者さんを良く診ていた。基本、緊張型は予後良好でさほど欠陥症状を残さず寛解する人が多いが、治療序盤で時間がかかったり何度も再燃していると破瓜型的になる。今風に言えば解体型である。

 

この若い緊張型の新患は滅多に診なくなった。おそらく、僕の病院の自分の担当患者さんで約20年間で僅か2名である。その最初の1名は、過去ログに出てきている。

 

 

 

統合失調症や双極性障害の場合、初診で大学病院にかかるか、単科精神科病院にかかるかでは予後に大差ない。これは重要なことである。むしろ単科精神科病院の方が勝る面も多々あると思う。それは単科精神科病院の方がコメディカルスタッフが充実していることが大きい。

 

統合失調症や双極性障害の人が、大学病院での治療で単科精神科病院に比べ不利な点は、治療が安定しないことが挙げられる。治療経験が少ない医師に治療を受けることも多く、主治医の交代もしばしばある。

 

大学病院の指導医でさえ、単科精神科病院のベテラン医師より経験年数が遥かに短い。精神科医も年齢が行き過ぎると古臭い治療をしている人もいるので必ずしも良いとは言えないが、大学病院の8年~10年目医師と単科精神科病院の25年目医師では違うのではないかと思う。

 

 

そもそも、大学病院ないし関連病院を異動している医師は、研究(論文や学会発表)に追われて、患者さんを診ている時間が圧倒的に少ない。同じ15年目でもどのようなプロフィールかで、かなり治療経験の蓄積は違うのである。

 

これらは、精神科医としての資質のようなものもあるので万人に当てはまるわけではない。また単科精神科病院でも評判が悪い病院もある。

 

結局、大学病院と単科精神科病院のすみ分けは、研究機関なのかどうかが大きく影響しているのである。