荒唐無稽だが統合失調症的ではない妄想 | kyupinの日記 気が向けば更新

荒唐無稽だが統合失調症的ではない妄想

一般に妄想は一緒くたにされており、種類はあまり語られることがない。これは患者さんの家族から生活歴や病歴を聴取する際によく感じる。

 

被害妄想だけは他の妄想と異なり存在感があるようである。「(私には)被害妄想がある」と患者さんが直接、主治医に言うことがあるが、このような言い方をする人は、統合失調症的な被害妄想と言うには違和感がある。

 

その理由は、統合失調症の妄想は本人は被害を確信しており妄想とは思っていないからである。妄想と自ら言うからには「実は真実ではないのでは?」と言うニュアンスが込められている。これが統合失調症的ではないのである。

 

今回は、荒唐無稽でかつ本人が確信しているが、真の統合失調症の人にはほとんど診られない妄想を取り上げる。「荒唐無稽だが統合失調症的ではない妄想」である。

 

例を挙げると、「自分の留守中に家に入って来て、お米を1合だけ盗んでいく。」「5枚揃いのお皿を1枚だけ盗んでいく」「1回トイレを使ったみたいだ」などである。また、「家の中に入って来て壁におしっこをかけていく」と言うのもそうである。

 

普通、泥棒に入って来て、あるいは嫌がらせをするとして、そのような中途半端なことはしないと思うが、本人は確信しているので犯行の奇妙さや特殊性を理解できない。またこれを本人が警察に相談に行った時、警察官も話を聴くのが大変だと思う。

 

このような妄想は統合失調症ではほぼないと言ってよく、しばしば妄想性障害の人にみられる。

 

妄想性障害の人は対人接触性が正常に保たれており、この点で統合失調症とは決定的な相違がある。また、妄想性障害の人にはプレコックス感がない。

 

統合失調症の人には時に真の荒唐無稽の文脈、例えば天皇陛下がどうこうなどが出現するが、上の妄想は荒唐無稽ながら平凡な日常生活に混入している。

 

そのように考えていくと、単に「被害妄想」と言っても内容にカテゴリがあると言える。

 

またわざわざ家宅侵入して「お米を1合だけ盗んでいく」ことが一般人に理解できないのは、動機が不明だからである。つまり、不法に家に入って来て、お米を1合だけ盗んでいく意図が理解できない。

 

この点で、この被害妄想は「心の理論」に関係しているように思われる。

 

妄想性障害は、実は統合失調症とはそこそこ離れた疾患で、広汎性発達障害の近縁にあるのでは?という疑念が湧くのである。

 

そう思う理由は、その人の生活歴が広汎性発達障害を示していることも良くあるからである。

 

また家族歴に広汎性発達障害系疾患が散見されることもある。

 

参考

統合失調症っぽくない妄想

妄想性障害の人に統合失調症らしい表情がみられないこと

想像力の低下と妄想性障害