今の薬は太らないと言う言葉 | kyupinの日記 気が向けば更新

今の薬は太らないと言う言葉

時々、患者さんに「今の薬は太らない」と紹介することがある。この言葉についてもう少し説明すると、

 

抗うつ剤は旧来の3環系、4環系に比べ、SSRIは断然肥満が少ない。サインバルタもあまり肥満がない。新しいタイプの抗うつ剤で肥満がありうるのは、SSRIではパキシル、4環系ではリフレックスである。つまり、トリプタノール、トフラニール、アナフラニール、ルジオミール、アモキサンが主力だった当時に比べ現代の抗うつ剤は太らない。上の5剤で比較的肥満が来ないのはおそらくアモキサンであるが、これも人による。

 

ベンゾジアゼピンは今も昔も肥満しない薬である。ただし近年は新規の発売がない。抗不安や睡眠薬に対し、バルビツレートを使っていた時代があるので、この疾患カテゴリーでも今の薬は肥満しなくなっている。また不安障害にSSRIが処方されるようになり、この点でも肥満が起こりにくくなっている。

 

抗精神病薬に関しては、今の薬は肥満しなくなったとは言い難い。特にダーティーなタイプの抗精神病薬はそうである。例えばジプレキサ、セロクエル、クロザリルなどのMARTA系の薬物はおしなべて旧来の抗精神病薬よりずっと肥満が生じる。

 

ここでいうダーティーとは汚いという意味ではなく、色々な受容体に節操なく関わるという意味である。過去ログではダーティーな薬はEPSを減弱させる作用も内包し面倒見が良いといった記載もある。新しいダーティーなタイプのシクレストはジプレキサ、セロクエルより肥満が来ないものの、エビリファイ、ロナセンなどよりずっと肥満する。それでも肥満の規模の点で、過去のMARTAよりは軽い薬だと思う。

 

エビリファイやロナセンはシンプルでダーティーではない薬だが、エビリファイは一般に言われているほど肥満しない薬ではなく、長期的に少しだけ肥満する人を時々見る。ロナセンと未発売のジプラシドンはおそらく最高に肥満しない抗精神病薬と思われる。エビリファイはゴルフクラブでいうスィートスポットの狭い薬であるため取り扱いに技術が必要である。初期から大量に使うなど処方の工夫で、そのような欠点をある程度は補うこともできる。

 

現代社会では、ロナセン、エビリファイなどのようにあまり肥満が来ない新規抗精神病薬が選択できる利点がある。その視点で、今の薬は太らない(ものを選択できる)という意味で表現している。

 

今回の記事は、先日の患者さんから、今の薬は太らないという言葉の説明を求められた際、説明した概略である。

 

過去ログでは、肥満と減量の記事がたくさんあるので参照してほしい。精神疾患の治療の際に、症状が軽くなると少し肥満が生じるなどの記事もある。したがって、一元的に向精神薬に肥満の原因があるわけではない。

 

参考

統合失調症の患者さんの体重が増加する意味について