抗精神病薬とジストニアのことなど | kyupinの日記 気が向けば更新

抗精神病薬とジストニアのことなど

レクレーションなどでスポーツをすると必ず眼球上転を起こす人がいた。この男性は普段は滅多に生じないが、スポーツをすると直後に起こりやすいのである。

 

これは急性ジストニアと呼ばれる抗精神病薬の副作用で、特に旧来の抗精神病薬、その中でもセレネースなどのブチロフェノン系抗精神病薬で起こりやすかった。

 

急性のジストニアにはアキネトンなどの筋注で魔法のごとく改善していたが、そのような副作用を避けるために、アキネトンなどの内服薬が併せて投与されることも多かったのである。

 

このタイプの副作用は非定型抗精神病薬では出にくいはずだが、そうでもなく、近年の患者さんは薬物に対する忍容性の低下や過敏性のためにリスパダール、ジプレキサなどでも起こる人は起こる。

 

このタイプの副作用が最も生じない抗精神病薬はおそらくセロクエルである。

 

抗精神病薬に併せてアキネトンを追加することの悪い点の1つは、抗精神病薬による便秘を更に悪化させることである。特に現在の精神病院は高齢化しているので、便秘に限らず、抗コリンによる認知の障害など様々な悪い点がある。

 

非定型精神病薬が普及し始めた頃から、機械的にアキネトンやヒベルナを併せる処方はされなくなり、どうしても追加しないと良くならない人に仕方なく使われるようになった。それもかつてのようにアキネトンを1日3錠とか6錠の処方は滅多になく、1日に半錠とか1錠程度のギリギリの少量処方で併用する。

 

本当はアキネトンを追加しないで済む薬を選ぶべきだが、ジプレキサ、セロクエルは糖尿病に禁忌だとか、制約があり除外的にそうせざるを得ないケースもある。

 

日本人は、リスパダールやジプレキサが発売された当時に比べ忍容性が低下し、非定型でもなお、これら錐体外路症状が出現する患者さんが増加している印象である。

 

つまり、かつてより精神科の薬物治療は難しくなっている。

 

脳の後天的損傷などによる足のジストニアでは、滑らかに歩行する際に緩むべき筋肉が緩まず、機械的なぎこちないゼンマイ仕掛けのような歩行になる。

 

患者さんに聴くと、朝起きて数分間は普通に歩けるという。また、ショッピングセンターでしばらくベンチで休むと、数メートルはほぼ自然に歩けると言う。この話は、かつてスポーツの後必ず眼球上転の副作用が出現する患者さんに予想されるメカニズムに似ていると思った。

 

また、このタイプのジストニアを持つ人は精神症状が悪化すると歩行状態が著しく改善するのである。これはドパミン系神経の活動が活発になると良くなるメカニズムなので、実に自然に理解できる。

 

また、脳深部刺激療法(DBS)が、かつて統合失調症になぜ使われなかったのかも併せて合理性がある。

 

ジストニアは難治な病態だが、特別な状況で著しく改善するので、将来、きっと素晴らしい治療法が発見されると思っている。

 

精神科業界で、一見、ジストニアとは思えない特殊なジストニア症状として、「光が見える」と言ったものがある。あるいは「まぶしい」などの羞明や、目の違和感などとして語られる。

 

自分の患者さんでは、ジプレキサを服薬している人に相対的に多いように思うが、最も非定型抗精神病薬で出現しそうな薬はリスパダール、インヴェガである。(基本的に稀な訴え、相対的に多いと言う意味)

 

このような副作用に対し、アキネトンを併せようとする精神科医は稀だと思う。むしろその副作用を本来の精神症状(つまり異常体験)として診る可能性もなくはなく、その判断から薬を増やすこともありうる。

 

またその増量の結果、良くなる人もいるのである。「やはり、これは異常体験だったか・・」というのは微妙な理解で、錐体外路症状は抗精神病薬でも抑えうることを考慮すると、この経過も十分にありうると思われる。

 

つまり「診たて」としては誤っていても、結果オーライになってしまうのである。

 

また、その対処は、薬を増やすか減らすかで大違いである。

 

精神医療は、基本的に結果的に良くなれば良いのであるが、一方、個人的に、若い頃、救急外来で思っていたことだが、

 

重大な見落としは、それに至る過程で徴候があることが多い。また、失敗に気付いて、何もしないより、たいていできるだけあがく方が良い結果をもたらす。それも闇雲にあがくのではなく、計算してあがく。その意味ではそれに至った過程が重要。また倒れるのでも前向きに倒れる方が良い。

 

核心に迫るヒントは遡っていくと、あることの方が多いのである。

 

参考

長期の抗精神病薬投与による嚥下障害について

SDA