「サインバルタがこんなに効くなんて思いませんでした」という言葉 | kyupinの日記 気が向けば更新

「サインバルタがこんなに効くなんて思いませんでした」という言葉

ある忍容性の低い患者さん。なんと彼女はトラムセットやトラマールがうつに効くと言う。薬に弱く新しいタイプの抗うつ剤はほとんど服薬できない。

少しだけアモキサンを処方し、低空飛行ながら、なんとか家事ができるレベルを維持していた。彼女は新しいタイプのSSRIやSNRIは服薬できないが、アモキサンだけは服用できるのである。また、10~20㎎でも有効であった。

ある時、サインバルタを提案した。彼女はうつが重くなると必ず腰を痛めていた。画像的には安定しているので、精神面の疼痛への影響は明らかだった。

そういう人はサインバルタを試みたい衝動に駆られる(自分の場合)。

しかしサインバルタは、かつて他の精神科病院だったかクリニックだったかで試されて、さんざんだったらしいのである。

明らかに良くないと思える薬でも、中毒疹などの重い副作用と、そうではなく軽微な副作用が強く出た場合とでは全然違う。

「軽微な副作用が強く出た」と言うのは奇妙な日本語だが、消化管に関係する副作用は精神科では軽微と見なして他の薬を併用して処方を続けるケースも良くある(たとえば、デプロメールにガスモチンを併用など)。

副作用が出ているのに投薬されるのは、「向精神薬の有用性が副作用のデメリットを上回る」などと表現される。過去ログでは、軽い肝障害をそのまま経過観察し投薬を続ける話をアップしている。

どのように彼女にサインバルタを薦めたかと言うと、「今のあなたは過去の忍容性とは異なる状況にある」という説明をしている。実際、彼女はなんとかアモキサンなど旧来の薬を継続できていたので、今ならサインバルタを服用できる可能性が高いと感じた(現場の感覚)。

また忍容性が低いので、脱カプセルして10㎎から始めてみてはと勧めた。もしサインバルタで良いなら、疼痛にも効くし、ガバペンやトラムセットなどを整理できるので肥満に対しても状況が改善する。(注:トラムセットは肥満はほとんどない)

結果だが、サインバルタの10㎎は目が覚めるように奏功したのである。同時に、もはや必要でなくなった薬を整理できた。

彼女は、「サインバルタがこんなに効くなんて夢にも思いませんでした」と話していた。また、全ての感性が生き返ったと表現していた。

臨床的に、患者さんの忍容性は時間が経つと変化することは良く経験する。

薬が効くか効かないか、副作用が出るか出ないかは、その時の病状や体力的なものなど総合的な環境が大きく関与しているのである。また、処方する医師によっても変わるので、使ってみないことにはわからない面も大きい。

精神科薬物療法は、時間のパラメータも1つ加わっているのである。

また、薬効の腰折れ現象も時間のパラメータが関与していると説明できる。

参考
薬剤性肝障害
精神科医と薬、エイジング
交通事故後に生じた遷延する疼痛、うつ状態