器質性幻聴の消失の経過について | kyupinの日記 気が向けば更新

器質性幻聴の消失の経過について

精神疾患の幻聴は、一般に考えられているほど消失が困難な精神症状ではない。

しかし、極めて遮断が困難な人もいる。それも大きな規模でいることも事実であろう。

このブログを始めて数年以内に、比較的簡単に対処できそうな精神症状のために長期に苦しんでいる人が(自分の想像よりずっと)多いことを知った。

なぜそうなのかはよくわからないが、1つは治療法がステレオタイプになりすぎることも原因の1つではないかと思う。(つまり長期にわたりマニュアル的治療に終始すること)。

一般に、内因性疾患の幻聴は、近年の抗精神病薬の進歩により対応しやすくなっている。また、内因性幻聴のうち統合失調症では教科書的治療がフィットしやすいのもあるのではないかと思われる。(つまり治療者が誰でもほぼ同じ結果になる)

統合失調症の診断に間違いがなく、しかも幻聴や妄想の遮断が困難な人は真に難治性と言える。彼らはたいてい精神科病院に長期入院しているか、グループホームなどで生活していることが多い。

比較的若い人は年配の人に比し在宅のことも多い。それは、さまざまな理由で激しい緊張病症候群を呈する人が減ってきたことが大きい。このさまざまな理由とは、抗精神病薬の進歩や社会が変化し、統合失調症が軽症化したこと、あるいは少子化も関係している。

このブログでは内因性の幻聴は、統合失調症あるいは双極性障害の幻聴を指している。双極性障害の場合、主に躁状態時に幻聴が出現することがあるが、バイオリズムにより自然に消失する傾向がある。したがって躁状態の治療は、そのまま幻聴の治療にもなっている。双極性障害の治療が不調だと、再燃時に再び幻聴が出現するが躁状態が良くなれば再度消失することが多い。

うつ状態時に幻聴がある人は双極性障害的とは言えないと思う。またそのような人は双極性障害という診断はされず、統合失調症または広汎性発達障害(のこじれた状態)と診断されていることが多いのではないかと思われる。

非定型精神病と診断されることはありうるが、病前性格や家族歴、あるいは家族関係より、真の非定型精神病とはみなされないケースも多い。過去ログでは「非定型精神病」はごみ溜めのような診断名ではないと記載している。

内因性の幻聴が抗精神病薬により速やかに消失する経過は見事であり、中間的な病態があまりない。いつのまにか消えていると言った感じである。部分的には夕方になると出やすいとか、特定の状況で出やすいなどの状態はあるが、ここではそれらを中間的な病態とは言わない。なぜなら、内因性の幻聴が続いているからである。

長期にわたり持続した統合失調症による幻聴が消失する人と、そうならない人の治療前の区別は明確ではなく、やってみないとわからないと言った感じである。統合失調症の場合、長期にわたる幻聴自体が荒廃する要因なので、早期治療の成功率が高いことは確かであろう。

統合失調症の早期介入は、一般の人には悪いイメージがあるような気がするが、そう思うのは、きっと失敗を前提にしているからであろう。これは「抗精神病薬=悪」といった宣伝やそれに便乗したマスコミの姿勢も影響している。

海外では、濃厚な家族歴を持つまだ発病していない人への投薬なども実験的に行われているが、そのようなことは日本では到底行えないものである。(極めて日本的ではない)。

今回のタイトルは「器質性幻聴の消失の経過について」とあるが、普通、統合失調症の幻聴の消失のパターンに比べ器質性幻聴では、消失のあり方にバリエーションがあるように思われる。今回の記事は広汎性発達障害のテーマに入っているが、そう診断されない器質性幻聴も同じくバリエーションがある。このバリエーションには幻聴の中間的病態も含む。

細かいことを挙げているときりがないので、器質性幻聴が10年以上続いていたある患者さんが幻聴消失に至る途上で話していたことを挙げたい。

テレビを観ているとイライラしてくる。夕方になると、具合が悪くなり、ずっと以前のことがフラッシュバックのように蘇る。テレビが嫌なのは、観ていると、俳優さんのちょっとしたセリフやたまたま出てきた風景でさえ、今までの人生の嫌なことに繋がってしまうことです。自分には、テレビで本当に言っているのか、幻聴なのか区別がつかないです。

このような際には自律神経の防波堤のような反応が復活し、吐き気が生じたり、悪夢が出たりする。しかし、そのような反応が生じない人もいるので一般的にそのようなことが起こるとまでは言えない。

広汎性発達障害による器質性幻聴では、統合失調症の人の幻聴に類似する非難する内容も稀ではないが、非難する第三者が以前の上司だったりする。上の内容を話してくれた人は、それらの異常体験を自我異和的に述べているのがわかる。これらは中間的な病態だと思うが、最初の発病の場面がそういう風だったのかは謎である。

上のような病態では、ツムラ11(柴胡桂枝乾姜湯)が補助的に有効なことがあるが、別に使わなくても良くなる人は放っておいても良くなる。

結局だが、広汎性発達障害系の人で重い幻覚妄想を合併している人たちは、軽快に至る準備状態にいつまで経っても入れないんだと思う。

器質性荒廃は圧倒的に重篤である。

参考
内因性幻聴と器質性幻聴 およびその参考記事。
器質性荒廃
統合失調症の荒廃と器質性荒廃の相違点
統合失調症の発病の謎