ピュアな薬、ダーティーな薬 | kyupinの日記 気が向けば更新

ピュアな薬、ダーティーな薬

今日の記事は、精神科業界ではほとんど言われていない主観的な内容なので、控えめに「オカルト」のテーマに入れている。

一般に、イメージとして、多くのレセプターに作用を及ぼす節操のない向精神薬を「ダーティーな薬」と呼ぶことがある。これはもちろん精神科の教科書には載っていない。ダーティーさに含まれる要素として、薬物としての重さもあれば理想的である。

抗精神病薬のうち、典型的ダーティー・ドラッグはコントミンだと思う。2番目はたぶんヒルナミンであろう。

歴史的にはコントミンが最初に発見されているので、最初はやはりダーティーな薬だったか・・と単純に考えそうだが、これは偶然である。

コントミンは20世紀の半ばにフランス人により発見されたが、そのフランス人は精神科医ではなく外科医であった。

ダーティーな薬は作用的にはピントが甘いので副作用が多い。したがって、もう少しピンポイントに作用する鋭利な刃物のような抗精神病薬が理想的と考えられ、後にセレネースが発見されている。

しかし副作用の点でも、鋭くピントが合う薬が理想的ではなかったのである。これは、ダーティーの特性の中に、抗精神病薬の主たる副作用(EPS)を緩和する要素があったことが大きい。(参考

現代社会のジプレキサ、セロクエル、クロザリルはまさにダーティーさでは抜きんでている。これらは、コントミンの副作用を緩和したものになっているし、3剤のうちセロクエルは最も似た性質を持つ薬と思われる。

この2つの黎明期に発見された抗精神病薬(コントミン&セレネース)は今でも処方される薬であり、それなりに良さがある薬なんだと思う。昔は病棟でバスハイクなどに出かけると、しばしば光線過敏性皮膚障害を起こす患者さんが診られた。この犯人は大抵、コントミンだった。コントミンは良いところがあるが、やはり副作用の幅が広い。

未だにクロザリルが最も理想に近い薬と見なされていることは、実に悲しい話だが、今から考えると、あのフランス人外科医は、偶然、理想に近い薬を発見していたことになる。

ここでいうダーティーの反意語はちょっと思いつかないので、ピュアな薬としておく。クリーンでは意味的に変だからである。

ダーティー系抗精神病薬
コントミン、ヒルナミン、クロフェクトン、クレミン、オーラップ、PZC、プロピタン、バルネチール、ドグマチール、ロドピン、ホーリットなど(以上旧来)及び、ジプレキサ、セロクエル、クロザリル。(非定型抗精神病薬)

ダーティーとは思えないピュアな抗精神病薬
エビリファイ、ロナセン。

どちらにも分類し難い中間型
リスパダール、インヴェガ、ルーラン、セレネース、インプロメンなど。

このようにざっと書いてみると、どちらかと言うとダーティー系の方が面倒見が良い印象である。またEPSの副作用を弱めたものが、非定型抗精神病薬に入れられていることがわかる。

フェノチアジン系抗精神病薬はダーティーさが目立つが、プロピタンなどのブチロフェノン系抗精神病薬はダーティーさがそこまでない。しかし大雑把にいうとダーティーな薬物だと思う。

ダーティードラッグは、平均して肥満の副作用が出やすい。これはこれらの薬の節操のなさに由来する。逆に言えば、さほど肥満しないダーティードラッグは、そこまでダーティーではないんだろうと思う。また、リスパダールは十分に肥満する薬物なので、中間型に入れているが、ダーティーの要素が大きい。

ダーティードラッグのうち、肥満の副作用を減らし、クロザリルの重要な作用点を良いとこ取りした薬が発見されれば、理想の抗精神病薬と言える。

しかし、これは簡単なことではない。人類は、不可能に見える夢を結局は実現していることが多いので、将来、きっと発見しているはずだ。

次は、抗うつ剤の話。

抗うつ剤のカテゴリー内で、最もダーティーな薬はトリプタノールであろう。これは他の追随を許さないほどの断トツのダーティーさである。

SSRIはおしなべてダーティーではないが、その中でもいくらか差がある。SNRIはSSRIに比べダーティーだが、トリプタノールやアナフラニールに比べるとずっとマイルドだと思う。リフレックスは新しいタイプでは唯一、ダーティー系であるが、旧来の抗うつ剤ほどの迫力には欠ける。

ピュアなタイプの抗うつ剤は、SSRIのレクサプロであろう。これもまた他の追随を許さない。

ダーティーな抗うつ剤
トリプタノール、アナフラニール、トフラニール、アンプリット、ノリトレン、プロチアデン、アモキサン、ルジオミール、テトラミド、リフレックス。

ピュアなタイプの抗うつ剤
レクサプロ、ジェイゾロフト。

概ねピュアだが、ダーティーさが混在する抗うつ剤
パキシル、デプロメール、サインバルタ、トレドミン、ブプロピオン。

抗うつ剤を並べてみてもわかるが、抗精神病薬と同様、ピュアであればあるほど良いと言うものではないのが難しいところだ。

抗うつ剤の場合、ピュアであればあるほど、鎮静、奇異反応、薬物性の賦活が避けられるように見える点は重要である。(参考

未成年のうつ状態の患者さんに、好んでセレクサやレクサプロが使われるのはこれが関係していると思われる。(海外の適応的にもそんな風である)

ただし、リフレックスだけは例外である。リフレックスがダーティーなのに例外的なのは、リフレックスがセロクエル的であることが大きいと考えている。同様にリフレックスが特に太りやすいのはセロクエル的だからであろう。(私見)

うつ病圏でも、ボーダーライン的、あるいは衝動性が強い人は、「概ねピュアだが、ダーティーさが混在する抗うつ剤」のうち、パキシル、デプロメール、サインバルタ、ブプロピオンは避けた方が良いように見える。賦活して奇妙な事件が起こりかねないからである。

自閉性スペクトラム及び未成年者のうつ状態では、最も処方しやすい薬は、レクサプロであろう。うまくいくかどうかはともかく、これらの特性から、そのように思われるのである。

(おわり)

参考
激しい幻聴のある強迫神経症
広汎性発達障害の強迫性とSSRIについて