伝播はあるが電波はない | kyupinの日記 気が向けば更新

伝播はあるが電波はない

メンタルヘルスを扱う掲示板やQ&Aなどで、「電波」という言葉が使われることがある。

実は、正式には精神科の教科書には「電波」はない。しかし「伝播」は出てくる。この2つは共に「でんぱ」と読む。

精神科の教科書などで「思考伝播」などの用語が紹介されているが、これは統合失調症に関係が深く重大な精神所見である。例えば看護師の国家試験では、「統合失調症」と「思考伝播」の組み合わせが正解である。

思考伝播は自我障害症状の1つであり、過去ログの「惑星ソラリス」で少し触れているので参照してほしい。

元々、「幻聴」はある種のエネルギーとして感覚されることがあり、患者さんが「電波」と呼ぶことがある。最近では「電磁波」という言葉も使われるが、これは20年以上前にはあまり出てこなかった。

これは携帯電話の発達で「電磁波」という言葉が周知されたというか、一般化したことも大きい。

つまり、精神症状の説明には、その時代の文明、文化も深く関係していると言える。

だいたい、「盗聴器がしかけられている」という妄想も、盗聴器が存在しなかった時代には誰も言わなかったであろう。

細かいことを言うと、幻覚を電磁波と呼ぶ人は妄想的解釈をしている人がずっと多く、その点で「統合失調症」的ではない。

つまり、「電磁波が、○○によって送られてくる」とか、「わざと電磁波が浴びせられている」と言う。

統合失調症の人の真の幻覚の場合、もっとその人の奥深くに入り込んでおり、完全に操られていて、そういうコメントが出てこないことの方が多い。

「電磁波」は荒唐無稽な精神所見ではあるが、統合失調症というより、数歩だけ「妄想性障害」に近い精神所見と言える。

この差異はけっこう重大ではないかと思っている。

参考
想像力の低下と妄想性障害
統合失調症っぽくない妄想