リーマスが効いても双極性障害ではない話 | kyupinの日記 気が向けば更新

リーマスが効いても双極性障害ではない話

リーマスは日本では躁うつ病の躁状態や躁病に適応が認められているが、単に「うつ病」とか「うつ状態」で処方した場合、レセプトで減点になる。

リーマスは、エビデンス的には躁うつ病のうつ状態に有効だが適応はないのである。

また、てんかんに禁忌なため、躁うつ病にも適応があるラミクタールやテグレトールなど一部の抗てんかん薬しか併用できない。(レセプト上)

また、日本では妊婦には禁忌とされている(過去ログ参照)。

また、何らかの身体的な変化による血中濃度の急上昇をきたしやすいため、増量中は特に綿密な血中濃度の測定が推奨されている。これは治療域と中毒域が接近していることによる。

このように、リーマスは処方するに当たり色々うるさい薬なのである。

今回は、リーマスが使われているからといって、その患者さんが双極性障害とは限らないことについて。

リーマスは気分安定化作用を持つため、併用することで、病状がかなり穏やかになることがある。これは統合失調症でもそうである。

リーマスは統合失調症に適応がないが、レセプトに「躁うつを伴う」とか、「躁状態」と併記すれば、ほぼ通ることが多い。これはリーマスが薬価が安いこともたぶん関係している。

「統合失調症」に「躁うつ病」を併記するのは、あんまりなので、「非定型精神病」とか、「分裂感情障害」などの診断名にしてほしいとレセプトをチェックする医師(精神科医)に言われるが、個人的に、そうでないものを「非定型精神病」とは記載し辛い。

だから、上のように平凡に「躁うつを伴う」などにしておく。この辺りの対処の仕方、査定の厳しさは都道府県により異なる。

問題は「非定型精神病」と記載した場合、チェックするドクターが何のことかわからず、時にバッサリ減点されてしまうこと。

その理由だが、「非定型精神病」に効く薬など登録されていないから。これはアスペルガー症候群にレセプト上の治療薬がないのと同じである。


非定型精神病と書かれていれば、精神科医であれば、抗精神病薬全てと双極性障害に有効な薬はほぼレセプト上、認められると判断する。本当は抗てんかん薬も認めるべきであろうが、そこまで面倒は見てくれない医師が多い。だいたい、レセプトをチェックする医師は精神科医とは限らない。おまけに時々その医師が交代するので、更に混乱が生じる。

リーマスは、種々の副作用があるのが欠点だが、これを併用することで精神面が安定し、結果的に総服薬量が減らせる統合失調症の患者さんがいる。これは統合失調症が症候群を形成しているのと無関係ではない。

また、いくつかの器質性疾患でリーマスをわずかだけ併用した際に、日常生活の質が改善することがあるため、補助療法として有効である。

この場合、リチウム血中濃度は必ずしも有効域に入っていなくても良いようである。これは、副作用の関係で有効域まで増やせないが、なにがしか使っていることでプラスになると言う意味である。

時に、ニセモノの双極2型ではそういうことが生じる。また広汎性発達障害でもそうである。

広汎性発達障害はもちろんのこと、ニセモノの双極2型もたぶん器質性疾患なので、リーマスは時に器質性疾患に有効ということになる。

過去ログでは、リーマスは昔からあるが、この方がむしろ異端というか特殊な薬と記載してる。

リーマスはシンプルな構造式を持つが、実に不思議な薬だと思う。

リーマスは基本的にヘビーな薬なので、異常に口渇が出るとか、あるいは振戦があまりに酷い人は他の薬の有効性も調べるべきだと思う。副作用が異常なほど出ているのに、これしかないと言い服薬を強要するのは、患者さんとの信頼関係も損なう。

今回の記事の意味することだが、多剤併用の中にリーマスが100mgだけ処方されているのを見て、「バカ丸出し」と笑う精神科医は、実は自分こそ洞察が甘いかもしれないのである。

日常臨床では、「リーマス100mgだけ」が不適切と言う証拠がない。だいだい、診断名の「双極2型」からして、本当にそうなのかわからない。

精神科医療は、常に柔軟な考え方が必要とされる。

参考
アキスカルの言う薬物性躁転は本当に双極性障害なのか?
双極性障害と診断されるまでの診断名
デパケンR