タバコを吸うと幻聴が出るという話 | kyupinの日記 気が向けば更新

タバコを吸うと幻聴が出るという話

単純に考えると、統合失調症の人がタバコを吸うと幻聴が悪化しそうな気がする。

いったん止まっていたような人でも、幻聴が再発してもおかしくないのであるが、そういう話はあまり聴かない。ある時、60歳くらいの女性の診察中、

私はタバコを吸うと、幻聴が出るんですよね・・でも止められない・・

という話が出た。その時、統合失調症とは言え、そういう話はあまり聴かないよなあ・・と思ったのである。

過去ログでは、以下のような記載をしている。

さて、タバコと精神科患者さんの話であるが、ニコチンには肝臓に働きかけて向精神薬の代謝を亢進させるため向精神薬の血中濃度を低める作用がある。(体内からの排出も促進しているという話もある) これは特に非定型精神病薬のジプレキサは有名で、ヘビースモーカーでは何割り増しかの薬物を服用しないといけなくなるらしい。 またニコチンは脳内のドーパミンの量を増やし働きを強める効果があり、特に抗精神病薬の嫌な副作用(錐体外路症状)を軽減する効果も持つ。 ニコチンは上記の鎮静効果とは逆に頭の働きを少しはっきりさせ元気にさせる効果も持つのである。 患者さんはそんなことを多分意識していないのだろうが、おそらく喫煙の習慣の原因になっていると思われる。

「統合失調症の人がタバコを吸うと幻聴が悪化するという話を理論上ほどは聴かない」理由は、非常に興味深い。

幻聴はたぶん「ドパミンが過剰になったために出現する」以外の脳内の要因が大きいのであろう。

臨床上、抗うつ剤でドパミンを増やす薬とされるブプロピオンで幻覚が出現することがあまりにも稀なこともそれを暗示している。(僕は経験がない。ただし、統合失調症の人には使わないが)

またこういう視点でみると、多くの興味深いことに気付く。

例えば、統合失調症の人に3環系抗うつ剤を使うと、幻覚妄想も含め病状悪化を来たすことが稀ではないが、元々、3環系抗うつ剤はドパミンを増やしているわけではない。これらは、ノルアドレナリンやセロトニンを増やしているのである。

また、パキシルによる音楽性の音体験は時々聴くが、これもセロトニンを増加させる薬でありドパミンは増加させてはいない。

統合失調症の人にSSRIを処方した場合、幻聴のように疾患性の高いものを悪化させることはむしろ稀で、それ以外の精神症状を悪化させていることが多い。例えば、イライラ感、焦燥感、他患者への過干渉、キレやすくなりいつもピリピリしているなどである。

一方、漫然とSSRIが併用されている統合失調症の患者さんの治療で、SSRIを中止した場合、当初は離脱症状と考えられる症状悪化が見られることの方が多い。この時、「やはりSSRIが病状に効いていたんだ」と思う精神科医はセンスが悪い。

このように表面的なものしか見えない人は、その患者さんの抗精神病薬の減量も無理のように思われる。もう少し落ち着いて患者さんを診ないと・・

SSRIを中止して、時間が経つと次第に性格が穏やかになり生活指導などの対処がしやすくなる。そうして時間が経ち、ようやく幻覚妄想が改善してくるのである。こういう風な精神症状の流れを見ると、セロトニンを増やすことは統合失調症には治療的になっていないことがわかる。(セロトニンの過剰状態ではドパミンが涸れ気味になるので、その点では治療的に見えるのが興味深い。しかしアパシー傾向になり、アンヘドニアにも良くはないので陰性症状面でも良いことがない。>参考

やはり統合失調症の人の幻聴は脳内の総合的な不調により出現しているように思われるのである。

だいたい、統合失調症も人たちの幻聴や妄想に非常にタバコが悪いなら、精神科医はもっと積極的にタバコを止めさせるって。

何のために抗精神病薬を服用させているか全然わからないからである。

しかしながら、タバコは止めることによるメリットはかなり大きい。タバコが増えると、薬も増やさないと精神症状に効きにくくなるからである。(疾患の改善を阻む上に、種々の面で不経済)

2010年10月からタバコも値上がりするしね。

日本たばこ産業は10月のたばこ税増税に伴い、たばこ1箱当たりの小売り価格を10月1日から現行に比べて110円~140円値上げすると発表した。代表的な銘柄である「マイルドセブン」は現在の1箱300円から410円に、「セブンスター」が300から440円になる。政府の増税幅は1箱あたり70円(1本3.5円)だが、「大幅な需要減少が見込まれる中、メーカーとしてのコスト削減だけではカバーしきれないとして、増税幅以上の値上げに踏み切る。

実際、タバコ40~60本クラスの人は大変なことになると思う。

参考
タバコのテーマ
SDA
パキシルとアンプリット