パキシル15㎎ | kyupinの日記 気が向けば更新

パキシル15㎎

お手伝いをしている病院で、ずっとパキシル20㎎を処方されている人がいた。

もう詳しいことは覚えていないが、20㎎でも10mgでも変わらないと思えるほど良くなっているので、ある日、パキシル15㎎に減量を勧めてみた。これはすぐに受け入れられた。(精神科では、減量を勧めても受け入れらないことも多い。)

過去ログから
このようにフィットするケースではパキシルが40mg必要な人もほとんどいない。たいていは10mgか20mgで良いので、本質的にはパキシルは用量依存性がそれほどないのかもしれない。一般的には落ち着いて来ると、そこまで多くは必要ないように見える。僕はお手伝いしている病院でパキシルで経過が良好な人をゆっくり減量してみたが、失敗した人がいなかった。数人は完全に中止している。というのは、パキシルはあまりに汎用され、全く必要がない人にも40mgとか処方されている場合もあるから。僕の患者さんは外の病院でもパキシル40mgの人は存在しない。(「パキシルはコーティングするのか?」から)

彼女はパキシルがさほど必要には思えないので、やがて中止する予定であった。もちろんできればであるが。

その後、ずっと15㎎を服用していたが、特に大きな変化がなかったという。僕は10㎎まで減量する予定であったが、2ヶ月分ずつ処方していたため、ある時、診察日がずれてしまった。全く会えなくなり、僕は彼女のことを忘れてしまっていた。(パキシルは長期処方が可能)

その後、数ヵ月後に再会。その日、まだ処方はパキシル15㎎であったが、これは代わりの医師が主治医の処方を尊重し、そのままにしてくれていたことによる。ところが、彼女に聞くと、最近1ヶ月くらい薬を飲んでいないという。どうも薬なしでも十分に生活できているようなのである。

やめた直後、調子が悪くなかったですか?

と聞いてみた。本人は止めた当時のことはよく憶えていないという。憶えていないくらいなので、離脱症状も少なかったのだろう。これは疾患自体が改善している以上のものがあると思った。

今の調子を聞くと、時々モヤモヤすることもあるかな?と言った感じで、少なくとも、うつ状態、パニック、あるいは社会不安障害のような所見はほぼ消失していたのである。こういうのを見ても、誰が治療しても良くなる時期は良くなることがわかる。

さて、最も大きな謎は、なぜ彼女は来院したか?と言うこと。薬は既にやめてしまっているのに・・

薬なしでも概ね良いなら、普通の人なら病院に来ない人も多い。

なぜ病院に来たのか、逆に聞きたい、と言ったところだ(髭男爵風に・・)

彼女によると、久しぶりだったので病院に電話をしたところ、外来の婦長さんが僕の診察日を教えてくれたらしい。何ヶ月会わなくても主治医は主治医なのであった。

彼女と上のような話をしつつ、もはやパキシルは服用しない方が良いという結論に落ち着いた。でもモヤモヤ感が時々あるなら、軽い薬を飲むなら飲んでもかまわないのではないかと・・そのような曖昧な助言をしたのである。

このような症状の時、どのような薬が良さそうかといえば、例えばデパスは良さそうに見えない。半減期が短すぎるから。デパスをいったん飲み始めたら、デパスがなかなか止められないという感じになりやすい。

精神科医でもこのあたりの感覚には人により差があり、デパスだけで済むならほぼ寛解と考える人も多いような気がする。精神科以外の医師、例えば整形外科や内科医から、人知れずデパスくらいを長期投与されている人が多いからである。(参考

一方、ベンゾジアゼピンの漫然投与は不評なこともあり、なるべく飲まない方が良いという意見もある。(注:デパスは厳密にはベンゾジアゼピンではない)

彼女の場合、服薬も不規則になりそうな上、飲んでも飲まなくても良いなんて主治医が言っているくらいなので、西洋薬なら半減期が長めで、しかも離脱もほとんどない水のような薬が望ましい。

僕は自分の病院であれば、レスキューレメディーを勧めていたような気がする。しかし、ここはアウェーなのである。その病院で変な治療をしているという噂が広まるのは非常にまずい。(参考

リボトリールも1つの選択肢で、毎日0.5㎎ずつ服用するのも一考であろう。しかしこの人は服薬がアテにならない上に、リボトリールは飲んだり飲まなかったりする人には向かない。元々てんかんの薬だからである。

そういう風に考えていくと、最も処方しやすいのは、たぶんメイラックスくらいなんでしょうねぇ・・少し実感が良くなり、しかも不定期でも問題なさそうなのは・・

結局、メイラックス1㎎錠だけ処方したのであった。

こういう時、漢方薬だとシンプルな処方にならないのが欠点だと思う。メイラックスだけ飲むのはパキシルだけ飲むより、ずっと良いと思うが、彼女に限ればパキシル20㎎をずっと服用していたわけで、薬に強い人とは言えなくもない。あくまで相対的なものだけど。(離脱がほぼ出なかったことも含む)

彼女の場合、何も飲まないという選択肢があるのはもちろんだけど、わずかな症状を我慢して生活するのも、頑張りがいのない、さほど意味がないことのようにも思える(参考)。

精神科はより快適に生活するという目的も大きいから(眠剤が最たるもの)。

精神科治療というのはつまりそういうものなんだと思う。僕はメイラックスを処方はしたが、やがて彼女が来なくなったとしても、それはそれで精神科治療の終わり方の1つだと思っている。