パキシルはコーティングするのか? | kyupinの日記 気が向けば更新

パキシルはコーティングするのか?

パキシルは強力なSSRIであり、いろいろ細かい副作用が当初に出やすい。だから、特に焦燥感や希死念慮がある人には老若男女にかかわらず、処方し辛い面はある。

僕はデプロメールがまず発売されて、その後パキシルが発売された時、デプロメールよりはずっと効果が高いと思ったので、わりあい使っていた時期もある。今は新規の人で処方することがずいぶんと減少している。

パキシルは中途半端な場所に位置している。僕はSSRIなら、ここまで強くなくても良いと思う。僕はパキシルまで処方しようかと思うほど悪いなら、旧来の抗うつ剤を使うことが多い。その理由は希死念慮が出現しているような重いうつ状態では、パキシルだと急に焦燥感やむなしさのラッシュが来て、本当に自殺しかねないからだ。(参考

パキシルの離脱症状については、要するに止めなければ出ないわけで、僕はむしろ当初の波乱の方を注意している。パキシルは比較的やめにくい薬物なのは確かである。

パキシルは日本人向けとは言い難いSSRIなので、軽いものから重いものまで幅広く珍しい副作用が存在している。これは過去ログでもいくつか紹介しているが、感性が強い人は、なかなか書物でも出てこないような不思議な感覚を訴えることもある。例えば、

コップを持ったとき、なんとなく重く感じる。
車のハンドルを持ったとき、いつもと太さが違う感じ。


これは、別にパキシルだから出ているわけではないのだろうが、いかにもSSRIっぽい異常感覚だと思われる。

パキシルが合っていてほとんど副作用が出ない人は、時間が経つと妙に安定してきて、その人と一体化するように見える。ぴったりフィットしてある種の完結した形になるのである。これは、あたかも塗り絵のはみ出したところをペイントで消しつつ美しく仕上げるように見える。まさにコーティングしていると言った感じだ。あるいは、その人をある種のカプセルに入れているようにも見える。が、そのカプセルはやや狭くて窮屈なのかもしれない。

このようにフィットするケースではパキシルが40mg必要な人もほとんどいない。たいていは10mgか20mgで良いので、本質的にはパキシルは用量依存性がそれほどないのかもしれない。一般的には落ち着いて来ると、そこまで多くは必要ないように見える。僕はお手伝いしている病院でパキシルで経過が良好な人をゆっくり減量してみたが、失敗した人がいなかった。数人は完全に中止している。というのは、パキシルはあまりに汎用され、全く必要がない人にも40mgとか処方されている場合もあるから。僕の患者さんは外の病院でもパキシル40mgの人は存在しない。

パキシルはもし抗うつ剤に慣性というものがあるとしたら、けっこう大きいのではないかと思っている。微妙な範囲で押し込めているように安定している。これは良くも悪くも患者さんの実感を反映している。

ずっと以前だが、パキシルを服用している人がこんなことを言っていた。調子はどうですかと僕が聞くと、

安定した不安定が続いています・・

彼女はきっと感覚が鋭いというか、表現力も優れているのではないかと思った。SSRIの中では、パキシルはある種の合剤みたいなもので、良くも悪くも完結した薬物なのであろう。