パキシルの稀な副作用について | kyupinの日記 気が向けば更新

パキシルの稀な副作用について

SSRIの中でもパキシルは強力な薬物であり、添付文書にも登録されていないような稀な副作用がみられることがある。これまで珍しいものとして、「音が聞こえる」など何度かこのブログでも取り上げたことがある(参考)。

うちの女性患者さんで、平均的な人に比べ桁違いに薬に弱い人がいた。症状はパニック、めまい、抑うつ気分である。当初はパキシルやドグマチールくらいで治療していたが、どうしても薬負けして良くない。服薬すると副作用のほうが重荷になっているありさまだった。当初から西洋薬を控え漢方などを併用したりしたが、特にパニックが改善しなかった。やはりパニックはSSRIや3環系抗うつ剤の効果が大きい。しかし、西洋薬は失敗の山になるのである。

アモキサン
目が回る。ふらついて飲めない。

ドグマチール
少量でもとにかく眠い。中止時に離脱性に病状悪化。

この人、テルネリンでさえ眠くて耐えられないほどだったので相当に弱い人と言えた。一方、ツムラ24(加味逍遙散)などの漢方だとぱっとしないのである。ジェイゾロフトでは激しい頭痛がみられたため中止せざるを得なかった。パキシルはどうかというと、20mgなんて到底飲めない。10mgくらいでも倦怠感が出て良くないのである。レスリンはまだ服用できたので、やがてこのような処方になった。

デパス   0.5mg
レスリン  25mg
パキシル  5mg

パキシル5mgでも飲むと飲まないでは大違いで、抑うつやパニックが改善する。しかし副作用も出てしまうのである。この副作用がちょっと普通の人と変わっていた。

パキシルの副作用
① 顎のカクカクいう感じ
② 目のしぱしぱ感
③ 鼻閉


パキシルは抗コリン作用を持ち、これが目のしぱしぱ感や鼻閉など自律神経系の副作用を来たすように見える。特に目のしぱしぱ感はフキツだ。こういう経緯でメージ症候群も出てくるかもしれないし。「顎のカクカクいう感じ」という体験はかなり珍しい。今まで僕がパキシルを処方している患者さんの中では彼女だけだ。これは一見「ジスキネジア」ぽくも見えるが、こちらから肉眼では全くわからないのが普通の「ジスキネジア」と違うところ。本人は「カクカク、カクカク言うんですよ」なんて言っている。本人は非常に気になっているのだ。

この顎のカクカク感だが、おそらくジスキネジアに類似するものと思われる。もともとセロトニンの増加は黒質・線条体系ではドパミン抑制的に働き、いわゆる定型抗精神病薬的な副作用をもたらすことがある。稀にSSRIでパーキンソン症状が出現することがあるのはそのためだ。きっとそのようなメカニズムだと思った。以下は、「SDA」のエントリでアップした記事である。

黒質線条体ドーパミン経路では、セロトニンニューロンは、ドーパミン放出に関しては抑制的に働く。だから、SDAのようにセロトニンニューロンを抑制する薬剤では、黒質線条体経路で相対的にドーパミンを増やす結果になるのである。錐体外路症状は、そもそも黒質線条体ドーパミン経路でドーパミンが抑制されることで生じるため、SDAが投与された場合、上記のメカニズムでドーパミンの枯渇が緩和する。だからこそ運動面の副作用が減少するのである。この機序は、SSRIが投与された際にも同様なことが起こる。SSRIはセロトニンを増やすため、結果的には黒質線条体ドーパミン経路でドーパミンを減少させるように働く。稀にSSRIの副作用でパーキンソン症状が出現するのはそのためである。

そこで本人と話し合いパキシルをデプロメールに変更してみた。パキシル5mgをデプロメール25mgに置き換えたのである。

パキシル5mgをデプロメール25mgに変更後の変化
① 顎のカクカクする感じはかなり減った。半分以下。
② 落ち込みは前より減った。楽になった。
③ 鼻閉や目のシパシパ感は消失。
④ 時々ぼやっとしているのがなくなった。


なんとデプロメールに変更以後、副作用的にも改善し精神症状もずいぶん良くなったのである。こういうのを見ても、同じSSRIでも効果、副作用はかなり相違があることがわかる。

現在の処方
デパス    0.5mg
レスリン   25mg
デプロメール 25mg

薬の反応の個人差はかなり大きく、わずかの量でも効果が十分だったり、副作用が出てしまう人も存在する(参考)。日本ではパキシルは多くの人たちに処方されているので、珍しい副作用もずいぶん経験されているような気がしている。

参考
薬に弱い人は救われるのか?
パキシルで金属音がするという話