ヒルナミンを飲んでも眠れないじゃないか! | kyupinの日記 気が向けば更新

ヒルナミンを飲んでも眠れないじゃないか!

総合病院で他科と一緒に仕事をしていると、どうも精神科だけ楽をしているように見られるのよね。実際、精神科だけ当直がなかったし、きちんと仕事を済ませれば夕方5時には帰ることができるので、他の科よりは楽そうに見えるのは仕方がなかった。

他科の場合、5時を過ぎても勉強会をしていたり精神科よりは夜は遅いようであったが、そんなのは勝手にやってて遅いわけで、精神科と比べられても・・と言うのはあった。

その総合病院の精神科は、ボスが全くやる気がなかったので、勉強会なるものも1回あっただけ。1回やったら、「もういっか」と言う感じになった。なんというか、忙しすぎていつも精神が一杯だったので、休養をとった方が「明日良い仕事ができそう」とみな思っていた。

ただ、実はボスの上に以前部長だった年配の精神科医がおり、週に1日は外来診察に来られていたのでいろいろ質問はできた。当時、情報源というか、自分を向上させるものは、精神科雑誌、この先生、あとは患者さん。精神鑑定を手伝ったのもこの先生であった。

当時、後輩でいた女医さんなど、5時ぴったりには医局を出て帰ってしまうので、僕が「素晴らしいロケットスタートですね」と言ったりした。これは別に嫌味で言っているのではなく、僕も5時半くらいには帰っていた。

やっぱ、一番の新人であるわけで5時ぴったりには帰りにくいでしょ。普通の感覚では。そこを乗り越えているのが素晴らしいと思っていた。

当時、まだ僕も卒後4~5年目だったが、この女医さんは、卒後半年くらいで飛ばされてきていた。荷が重すぎ。これほど新米でしかも女医さんなので、患者をあまり任せられない。油断するとあっと驚く誤診をするので、時々みていないといけない。最も笑える誤診は、ウエルニッケ失語を「うつ病」にしていた。どういう道筋でそうなったのか謎だった。

ただ、この女医さんは他科の勉強会にはよく行っていたので、僕もよくついて行っていた。たぶん彼女が行っていなかったら、自分だけでは行かなかったと思う。僕は実はシャイなのである。当時の勉強会で、かなりのインパクトがあり、今でも記憶に残っているのはdural AVM の話。これは勉強になった(内容は省略)

たまに、精神科の医師と他の科の医師が話すようなことがあると、「精神科が忙しいはずはない」というようなことを言う医師が本当にいた。今でもきっといると思うが。

ホント失礼な話なのであるが、どのような仕事をしているか知らないのによくそんなことを言うよ、と思う。言わない人でもそんな風に思っているのはないかというのは時々感じる。

実は見解の方向が間違っていることを指摘したい。このブログで時々出てくる、他科から来たドクターの話。彼は「精神科デイケア(その1)」「精神症状とバウムテスト(後半)」に少しだけ出て来る。前のエントリではいつもエプロンをしてデイケアをみていたとある。後のエントリでは「正常も統合失調症もないんじゃないか?」と質問した人。彼は精神科以外の科は一通りやっていて、最後に精神科に来た。彼によればいかなる科よりも、精神科が断然きついことがわかったという。次第に不眠が酷くなり、

「ヒルナミンを飲んでも眠れないじゃないか!」

と言っていた。これには一同、大爆笑。

つまり、一般の科からは身体的なものだけで楽と思われているが、精神的な面ではけっこうストレスになるし、ある意味きつい仕事なのである。彼の言葉はすべてを言い尽くしている。ヒルナミンを飲んでも眠れないと言っているんだもん。

彼にいろいろ聞いてみると、精神科以外の科では肉体的には疲れるが、不眠なんてなかったのだという。しかし精神科医になって不眠で困るようになった。彼によれば「精神科の診察には有害作用がある」らしい。

僕は彼とは8ヶ月くらい一緒に仕事をしていた。僕が感心したのは、とにかく患者さんのことを考えており、入院を嫌がる若い女性患者に半日かけて説得して入院させたりしていたこと。診療姿勢が良いのである。あの時以来、一緒に仕事をしたことはないのだが、彼は間違いなく名医だと思うよ。